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第九十五話 アルカナ王国の勝利

 俺はやぐらの上から望遠鏡を使ってジャビ帝国軍の動きを観察した。


「ああ、ルミアナの言うとおり、帝国軍の動きが何やらおかしくなってきた。部隊の多くがどんどん正面に集中してきている。こちらの本陣に強引に突っ込んでくる気だな。無茶苦茶だ」


 ウォーレンが指示を求めた。


「いかがなされますか」


「中央の部隊と本陣を徐々に後退させろ。連中は全軍で、自暴自棄になって突っ込んでくるだろう。突っ込んできた敵を左右の部隊で包囲する」


 ジャビ帝国軍は左右に展開していた兵の多くを中央に集中し、前進を始めた始めた。中央のアルカナ軍は徐々に後ろへ下がり始めた。


 アルカナ軍が後退するにつれて、前進するジャビ帝国兵は側面をさらし始めたが、まったくおかまいなしに兵を前へ進めてくる。それを見て、アルカナ軍の左右の鉄砲隊が敵側面への射撃を開始。トカゲ兵が弾丸を浴びて次々に倒れる。それでも中央から強引に前進を続けてくる。


 その時、俺の元に偵察部隊から伝令が走り込んできた。


「偵察隊よりご報告いたします。エニマ王国軍が城門から出陣し、ジャビ帝国軍の後方部隊と交戦中です。エニマ王国の規模は、おそらく数万」


 俺は驚いた。エニマ王国軍は城にこもったままだろうと予想していたからだ。


「なんと、エニマ王国軍が動いたのか。それは、願ったりかなったりだ。なるほど、それで背後を突かれたジャビ帝国の将軍が自暴自棄になって、こちらに突っ込んで来たのだな」


 俺はレイラを呼び、命令した。


「この機会に、一気にジャビ帝国の本陣に切り込んで決着を付けよう。不毛な殺戮を止めるために、一刻も早く敵将を討ち取らなければならない。近衛騎士団は騎乗し、私に随行してくれ」


「はい、陛下。・・・ところでエニマ王国軍に対してはどうされますか」


「もしエニマ王国軍と接触しても交戦してはならない。さすがに、この状況ではエニマ軍も我々を攻撃してくることはないだろう」


「承知いたしました。ではこれより、陛下のもとへ近衛騎士団を引き連れてまいります」


 レイラは騎士団の方へ駆けて行った。俺は馬にまたがると、防御のためにサフィーを後ろに乗せて走り出した。


 サフィーが俺の背中に抱き着いてきて、大声で言った。


「こうして二人で馬に乗っておると、恋人同士が逢引きしておるみたいじゃな。なんだかロマンチックじゃのう、アルフレッド」


 あいかわらず魔族のサフィーは感覚がぶっ飛んでるな。俺は答えた。


「あのなあ、死体の転がる戦場でロマンチックも何もあったものじゃないだろ。馬鹿な冗談はさておき、防御のバリアをしっかり展開してくれよ」


「もちろんじゃ、われにまかせよ」


 俺は近衛騎士団を伴って左翼からジャビ帝国の陣地に接近した。ジャビ帝国軍の本陣は、前方ではアルカナ軍の本陣に攻め込み、後方ではエニマ王国軍と戦闘している状態だ。ほとんどの兵は前と後ろにいるため、側面の守りはかなり手薄になっていた。


 そこで俺は、魔法攻撃で進路を切り開きつつ、側面から一気に敵将に迫ることにした。まさか、敵国の国王が側面から突っ込んでくるとは予想もしていないだろう。


 俺は近衛騎士団に指示を出した。


「よし、私が敵の本陣に魔法を打ち込むから、隙を見て一気に突破しろ」


 動きに気付いた弓兵が俺に向かって激しく矢を放ち始めるが、サフィーがバリアを展開し、そのまま魔法の射程内まで突っ込む。


 敵の槍兵が俺に向かって一斉に槍を構える。


 俺は馬上から<爆裂火球エクスプローディング・ファイア・ボール>を放った。輝く光球が飛び出して前方で大爆発を引き起こした。爆発の中心付近の敵兵は地面に折り重なるように倒れ、爆発に肝をつぶした多くの兵たちが爆心地から我先に逃げ出した。


「いまだ、行けぇ」


「うおおおお」


 銀色の甲冑で身を固めた近衛騎士団がなだれ込む。縦横無尽に駆け回る騎兵によって、帝国軍の本陣は統率を失い、大混乱になった。俺は敵の将軍を探した。まもなく前方の仮設テントの前でわめき散らしている大柄のトカゲ族の男を発見した。他のトカゲと異なり、装飾の施されたレザーアーマーを身に着けていることから、それとなく将軍とわかる。


 俺はその男に駆け寄った。


「尋ねる。お前はジャビ帝国軍の将軍か? 私はアルカナ王国国王のアルフレッドだ」


 それを聞くと、トカゲの表情が変わった。狂ったような顔で俺を睨んだ。


「はあはあ・・・なんだと、貴様がアルフレッドか。なぜ、アルフレッドがここに居るのだ。まあいい・・・俺は、ジャビ帝国侵略軍の将軍ジェシクだ。貴様のおかげで、俺の野望は水の泡だ。いまいましい、くそったれめが、この手で殺してやる」


「無駄な抵抗はやめろ。もはや勝敗は決まった、お前たちの負けだ。これ以上戦っても犠牲が増えるだけだぞ、はやく武器を捨てて降伏するように部下に命じるべきだ。我々は捕虜を殺すようなことはしない」


 だが、ジェシク将軍は聞く耳を持たない。

 

「知ったことか。貴様さえ殺せれば、あとはどうだっていい」


 ジェシクは大声で叫んだ。


「おおい、お前ら。ここにアルフレッドが居るぞ、殺せ! ぶっ殺せ!」


 だが、他のトカゲ兵たちはすでに戦意を喪失し、躊躇しているようだ。ジェシク将軍は両腕を振り回し、狂犬のように歯をむき出しながら叫び続ける。

 

「貴様ら、俺様の命令が聞こえんのか! 殺せ! 殺せ!」


 俺は叫ぶジェシク将軍に<氷結飛槍アイス・ジャベリン>を放った。四本の鋭い氷の槍が一瞬のうちにトカゲ男の体を貫いた。ジェシク将軍は口から血を吐くと、そのまま前のめりに倒れて動かなくなった。


 俺は周囲にいた帝国軍の士官らに言った。


「帝国の将軍は死んだ。お前たちは包囲されている。これ以上戦うことはない。早く武器を捨てて降伏するように、部隊に命じろ。それとも、将軍と同じ目に遭いたいか?」


 士官たちは仰天し、次々に武器を地面に投げ捨てて言った。


「わ、わかりました、降伏します。部下たちにも降伏するよう伝えます」


 下士官たちは降伏の命令を兵士たちに伝えるために伝令を各部隊へ出し始めた。一方で、俺はジャビ帝国軍が降伏したことを各部隊に伝えるよう、近衛騎士団に命じた。騎士たちの多くが伝令のために走り去った。


 終わった・・・


 俺は戦闘の緊張感から解放され、おおきなため息をついた。周囲には多くのトカゲ兵の死体が転がっている。白い煙とともに硝煙の匂いがまだあたりに漂っている。敗残兵のトカゲの多くはその場にしゃがみ込んで動かない。その間をアルカナ軍の兵士たちが走り回り、地面に投げ捨てられた武器を回収している。


 ふとエニマライズの方角を見ると、もやの中を馬にまたがった男が護衛の騎兵隊とともに移動するのが見えた。見覚えのある姿だ。あれは・・・ジェイソンではないか!


 俺は馬を走らせると、ジェイソンに近づいた。


「待て、貴様はジェイソンだな。この裏切り者め、ただでは済まさんぞ」


 ジェイソンは俺に気が付くと馬を止めた。


「ほう、これはアルフレッド殿ではありませんか。ただでは済まさんとはずいぶんですな。まさか、こんなところで戦いでも始めるつもりですかな」


「おのれ・・・お前は国外追放だ、領地も没収する」


「領地を没収ですと? いやはや、私は今はエニマ国の家臣ですからな」


「エニマ国と和平を結んだ暁には、お前の領地を返してもらう。覚悟しろ」


「ほう。まあ仕方ありませんね。で、領地を自分のものにするのですかな」


「いとこのレスターを総督に命じて統治させる。お前なんかより、よほど優秀な男だ」


 ジェイソンが嘲笑しながら言った。


「はは、アルフレッド殿は相変わらずのお人よしですな。あなたを毒殺しようとしたのは、何を隠そう、レスター殿ですよ。あなたを殺して王位に就こうとたくらんでいたのです」


 俺は驚いた。身内であるはずのレスターが、俺・・・いや、アルフレッド毒殺事件の張本人だというのか。


「嘘を言うな。どこに証拠があるというのだ」 


「証拠なんかありませんよ。そんなものを残す馬鹿がいますか。まあ、信じるも信じないも、アルフレッド殿の勝手です。私はアルフレッド殿の身を案じておりますよ。ははは、貴殿とは、いずれまたどこかでお会いしましょう。それでは、これで」


 そういうと、ジェイソンは護衛の部隊を引き連れて、足早に西へ走り去った。そのやり取りを離れた場所から見ていたレイラが俺のそばへ駆けてきて言った。


「陛下、今の男はだれですか」


「ジェイソンだった」


「な、ジェイソンですって! あの野郎、許さん・・・捕まえましょうか」


「いや、放っておけ。騎士団の馬たちも戦いで駆け回って疲弊しているだろう。それに、いくらジェイソンとて領地を失えば終わりだ。あの裏切り者のジェイソンをかくまうような国があるとは思えない」

 

 やがて、エニマライズの方角から、エニマ王国軍の軍勢が俺たちに向かって近づいてきて、俺たちの手前で停止した。そして隊列の中から数騎の人影が現れると、俺の方へ進んできた。エニマ王国の国王マルコムと大将軍ジーンだ。それに先王ハロルドの姿もあった。


 マルコムが俺の前に進み出ると、馬上で頭を下げた。


「このたびは、アルカナ王国の援軍に心より感謝申し上げる。おかげで王都エニマライズをジャビ帝国の手から守り切ることができた。すべてアルフレッド殿のおかげだ」


「いえいえ、こちらこそ、エニマ王国軍があのタイミングで出陣いただいたおかげで、最小限の被害でジャビ帝国軍を撃滅することができました。何より、我々が力を合わせれば帝国の侵略を跳ね返すことができると証明できたではありませんか。それより、もう、このあたりで、貴国と我が国の戦争状態は終結にしませんか?」


「もちろんです、アルフレッド殿。神に誓って、もう二度と互いに刃を交えることはやめましょう。今回の件で私は考えを改めました。私は統一国家の野望を捨てます。互いに同盟を結びませんか」


「はい、喜んで同盟を結びましょう」


 先王ハロルドが近づいてきた。俺に頭を下げて言った。


「アルフレッド殿、本当にありがとう。貴殿には返しきれないほどの恩を受けたな。しかし、いずれこの恩はお返しするつもりだ」


「いえいえ、すでに我が国は貴国から大きな恩を受けております。アルカナ川河川工事のことです。。もしあの時、ハロルド王に我々の工事を快諾していただけなかったら、アルカナ川は復活できなかった。もしアルカナ川がなかったなら、三年前にジャビ帝国がアルカナ王国に攻めてきた時、我が国は奴らの進撃を止められずに滅ぼされていたでしょう。今回はその恩を返したまでです。どうか、お気になさらないでください」


 俺はマルコム国王に言った。


「ところで、戦後処理の詳細は後に会議で決めるといたしまして、とりあえず、ジャビ帝国の捕虜の件ですが、すべてアルカナ王国に引き取らせていただきたいのですが」


「構いません。しかし捕虜の数は数万人にもなるでしょう。捕虜に食料と水を与えるだけでも、かなりの量が必要だと思いますが、大丈夫ですか?」


「大丈夫、何とかします。この捕虜たちを使って、私に考えがあるのです・・・」


 一通りの会話が終わると、マルコム達は隊列に戻って行った。入れ替わるようにレイラが俺の方に馬を進めてきた。よく見ると、なんだか怖い顔をしている。その原因は俺の後ろに座っているサフィーだった。


「えへん、サフィー殿、いつまで陛下にくっついておられるのかな。戦闘は終了した。もうサフィー殿に陛下を護衛してもらう必要はない。早く馬を降りなさい。この先は、私が陛下を護衛する」


「いやじゃ、いやじゃ。このまま王都アルカまで二人で帰るんじゃ」


 そういうと、サフィーが後ろから俺に抱き付いてきた。たちまちレイラの表情が険しくない、顔色が真っ赤になった。そして自分の馬から勢いよく飛び降りると、俺の馬にずかずか歩み寄り、サフィーの足をつかんで強引に引っ張り始めた。


「ちょっと、何してんのよサフィ。だめです、降りなさいったら、降りなさい」


 レイラが思い切りサフィーの足を引っ張るので、サフィーに抱き付かれている俺まで落ちそうになった。


「うわわ、おい、まて。わかった、俺は馬を降りて歩くから。サフィーも降りろ」


「ぶー。なんじゃ、つまらんのう」


 サフィーは少し不貞腐れて見せた。そこへルミアナとカザルが合流した。


「ようやく終わりましたね、陛下」


「へへへ、俺たちの大勝利だせ」


「ああ・・・皆のおかげだ、ありがとう」


 しばらくすると畑の道を王家の馬車がやってきた。ミックが迎えに来たようだ。馬車からはキャサリンが手を振る。俺たちは馬車に乗り、王都アルカへの帰路に着いた。


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