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第九十話 ガルゾーマとの死闘2

 ガルゾーマはゆっくりと俺の正面に立つとトライデントを一振りし、俺が手にした剣を一撃で壁に弾き飛ばした。そしてトライデントの石突の部分で俺の腹部を突いた。その衝撃とあまりの痛さのために、俺は床に倒れ込んだ。


「うぐ・・・」


 ガルゾーマが残忍な笑みを浮かべた。 


「ふん、なぶり殺してやろう」


 俺は右手を上げてガルゾーマを制止した。


「ま、待てガルゾーマ、なぜ俺たちを殺そうとする? お前がエニマ国の傭兵だからか? マルコムに頼まれたからなのか」


 ガルゾーマの表情に怒りが滲んだ。そして俺の顔をトライデントの柄で思いきり横から殴打した。俺は横に倒れた。口の中が切れ、唇の横から血が流れ落ちた。ガルゾーマが怒鳴った。 


「俺様を、カネのために働くあさましい人間と一緒にするな、この豚野郎。教えてやろう、俺様は人間を憎んでいる。なぜなら、エルフ族が数を減らし徐々に衰退していく一方で、下等な人間どもがまるで動物のように数を増やし、エルフ族の土地を奪い、今や我が物顔で国を作って地上を支配しているからだ」


 俺は反論した。


「しかし、エルフ族は少子化のために人口が減って自滅したと聞いている。それは人間のせいではない。お前の勘違いだ」


「黙れ! 人間だけが数を増やし続けることが許されないのだ。もともと人間はエルフ族の奴隷に過ぎなかった。それがエルフ社会の中でどんどん数を増やしたために、その圧力でエルフの社会が崩壊したのだ。貴様らが王都と呼んでいるアルカの町も、そもそもはエルフの都市だったのだ。それを、貴様ら人間が・・・」


 その時、船倉からサフィーが飛び上がってくると、俺の方へ駆け寄った。そしてガルゾーマの前に立ちはだかった。ガルゾーマが冷笑した。

 

「ふん、魔力切れの魔族か。多少は魔力が回復したようだが、そんな程度で何の役に立つ? せいぜい貴様らが死ぬまでの時間を引き延ばすだけだ」


 俺は叫んだ。


「サフィー、頼むぞ」


「われに、まかせよ」


 サフィーが強く念じると、俺たちの前に最高強度のバリアが展開した。ガルゾーマは俺たちにとどめを刺そうと、悠然とトライデントを構える。俺は右手を前へ突き出すと、最後の力を振り絞り、<電撃ライトニング・ボルト>を放った。


 ガルゾーマは、にやりと笑った。


「ははは、このバトルアーマーに魔法は効かぬ。無駄なことを」


 だが、俺は最初からガルゾーマを攻撃するつもりなどなかった。俺の狙いは、この船に積み込まれた大量の火薬だ。俺はガルゾーマではなく、足元へ電撃を叩き込んだのだ。狙うは船底の火薬庫。火薬庫には、砲撃用の火薬樽が大量に積まれていたのだ。


 ガルゾーマの鎧は魔法には無敵だ。だが、これまでの戦闘で、物理攻撃にわずかだが弱点のあることがわかっていた。だから、火薬の大爆発で船ごと吹き飛ばせば、さしもの奴もタダでは済まされまい。俺たちはサフィーのバリアで爆風を防ぐ算段だ。


 だが、もしサフィーの展開したバリアの強度が不十分だったなら・・・爆風が直撃して、俺たちも生きてはいられまい。サフィーの魔力が、はたしてどこまで回復しているのか。


 俺は祈るような気持ちで電撃を放ち続けた。


「頼む、サフィー、耐えてくれええ」


 次の瞬間、轟音とともにガルゾーマは爆炎に包まれた。


「貴様・・・! 何を・・・!? ぐああああっ!」


 ガルゾーマの絶叫が響いた。


 凄まじい爆発と巨大な炎が一気に広がり、船の中央部が一瞬で木っ端みじんに吹き飛んだ。帆がバラバラに千切れ飛び、折れたマストが大きく回転しながら宙を舞い、巨大な水柱が立ち上がった。サフィーのバリアに守られた俺たちの周辺部分を残して、船体中央は綺麗さっぱり、跡形もなく消し飛んだ。爆発で巻き上げられた大量の海水や木片が、水しぶきをあげながら周囲の海面に降り注いだ。船は二つに折れて沈み始めた。


 木造船であることが幸いして、船のすべてが完全に沈んでしまうことはなく、破壊された船体の残骸が波間のあちこちに浮かんでいる。俺とサフィーはその上によじ登り、負傷したレイラを引き上げた。


 海は嘘のように静かになった。澄み切った青空が広がっている。木片を揺らす波の音だけが聞こえる。ガルゾーマの姿は見当たらない。爆発で粉々に吹き飛んだのか、あるいは逃げたのか。いずれにしろ、かなりの深手を負ったはずだ。


 やがて、海岸から一隻のボートが近づいてきた。俺たちを救助に来てくれたようだ。ボートにはキャサリンとカザルが乗っている。やがてボートが俺たちの乗った残骸に横付けされた。


 俺はボートに乗り移った。


 「お兄様、安心しましたわ。お兄様が毒を飲まされて倒れた時よりも、ずっと心配していましたのよ。だって、爆発がすごくて、船がほとんど吹き飛んでしまったんですもの。生きているのが奇跡ですわ」


 俺は笑顔で答えた。


「すべて皆のおかげだ。皆の働きのおかげで無事に生還することが出来たし、ガルゾーマを撃退することもできた」


 カザルが負傷したレイラを支えながらボートに乗り移った。そして俺に尋ねた。


「旦那、ところで、ガルゾーマはどうなったんですかい」


「わからない。爆発が収まった時には、もう姿は見えなかった。死体は見当たらない。だから生死は定かではない」


「あの野郎、しぶといからな。簡単にはくたばらねえと思いやすぜ」


「ああ、また現れるかもしれないな。ところでルミアナの容体はどうだ?」


「大丈夫ですぜ。アネスがすぐにヒールを使って治療したら見事に回復したんでさ。ありゃあ、とんでもない能力ですぜ。さすがに、元・天使だけありやすぜ。アネスとルミアナは海岸で陛下の帰りを待ってやす」


 俺は安堵の笑みを浮かべた。


「よかった・・・戻ったら、レイラもヒールしてもらおう。アネスは一日に何人くらいヒールできるんだろうか」


「ケガの程度にもよるんだと思いますが、さっき当人に聞いた話では一日に十人くらいが限度だとか」


「まあ、そうだろうな。すべての負傷兵をヒールできるわけではない。治療を受けられずに死んでいった他の多くの負傷兵たちに感謝しなければ・・・」


 俺たちを乗せたボートが岸に近づいた。海岸ではルミアナ、アネス、ラベロン、そして多くの兵士たちがこちらに向かって手を振っている。俺も思い切り手を振り続けた。


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