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第八話 異世界の魔法

 ミックがおびえながら言った。


「あ、あなたたちは何者ですか。ここはアルカナ国王、アルフレッド様のキャンプですよ。手を出せばタダでは済まされません。すぐに立ち去りなさい」


 盗賊たちにひるむ様子は見られない。ニヤニヤと笑いながら近づいてくる。


「ああそうかい、別に俺たちにとってはあんたらが誰だろうと関係ない。それに、どうせお前らは全員死んじまうんだから、誰かに俺たちの素性がバレる心配もないってわけだ、へへへ」


 じりじりと盗賊が間合いを詰めてくる。ルミアナは姿を消したまま素早く盗賊の背後の林に回り込み、彼らの風上に生えている木の陰に隠れた。そして素早くポーションバックから一つの小瓶を取り出すとあたりに振り撒き、<恐怖幻覚テラー・ビジョン>の魔法を唱えた。中身はすぐに揮発してガスが発生し、風に乗って盗賊たちの方へと流れていった。


「う、何だ?」


「おかしな臭いがするぞ、何の臭いだ」


「気持ちが悪い、吐き気がする」


 やがて、夕闇に包まれた林の中から、しわがれた不気味な声が聞こえてきた。ルミアナが声色を変えて樹上から語りかけているのである。


「・・・血を捧げよ、我に血を捧げよ、お前たちの血を我に捧げるのだ」


 盗賊の一人が、周囲を見回しながら青ざめて言った。


「そこに居るのは誰だ、何者だ」


「我は闇の精霊なり。生贄を求めし者なり。我にお前たちの血を捧げよ。さあはやく」


 別の盗賊が不安で取り乱し、うろたえながら剣を抜いて叫んだ。


「で、出てこい、姿を見せろ」


「自分のからだを見よ、自分らの手足をよく見よ。お前たちのからだから血が滲みだし、滴り落ちているだろう。生贄のからだから血が出ている。そうだ、その血は止まらない。すべての血がなくなるまで、血が流れ続けるのだ。もはや逃げられん」


 恐怖にかられた盗賊が叫ぶ。


「うあああ、血だ、腕から血が出ている」


「足が血まみれだ、ひいい」


 盗賊たちの目には、血まみれになった自分の腕や足が見えている。<恐怖幻覚テラー・ビジョン>の魔法と周囲の薄暗さが相乗効果となり、実在しないものが見えているのだ。ルミアナの語りかける恐怖の暗示が盗賊たちの意識を完全に支配した。


「さあ、これから一人ずつ順番に死ぬのだ。血を流して死ぬのだ」


「何かがこっちへ来るぞ」


「来るな!こっちへ来るな!」


 風を切る音がして一本の矢が林の中から飛び出し、盗賊の胸を刺し貫いた。叫び声をあげると、盗賊はその場で崩れるように倒れた。その様子をみた盗賊たちが逃げ出した。


「うわああああ、助けてくれ」


 一人が逃げ出すと盗賊たちはパニック状態に陥り、総崩れとなった。我も我もと、先を争うように盗賊たちは逃げ出した。盗賊たちが居なくなると、ルミアナが林の中からゆっくりと姿を現した。


 俺はルミアナに尋ねた。


「今のは一体、何だったのだ?」


「幻惑魔法の一種、<恐怖幻覚テラー・ビジョン>です。魔法を使って彼らに恐ろしい幻覚を見せて追い払ったのです。あれだけの人数を相手にまともに戦っても勝ち目はありませんからね」


 ミックが腕を組んで感心した。


「いやはや、ルミアナ殿のおかげで助かりました。しかし妙ですね、王都の近くにあれだけ大規模な盗賊団が出没するとは。毒殺未遂の件もありますし、これも陛下のお命を狙っている者の仕業かも知れません。お城に戻られた方がよろしいのでは?」


「いや、この程度のことで怖気づいては何もできない。とりあえず場所を変えよう」


 一行はさらに上流へ向かい、場所を変えてキャンプを張りなおした。


 夜空を見上げると無数の星が輝いている。星座はまるで見覚えのない姿をしているうえに、月が二つ見えた。やはりここは異世界だ。俺はふと思った。先ほどのルミアナの魔法は見事だった。異世界と言えば、剣と魔法のファンタジーワールドだ。この異世界の魔法はどうなっているのだろう。ルミアナに尋ねてみた。


「ルミアナ、ちょっと教えてほしいのだが」


「何でしょう陛下、私の年齢は教えませんよ」


 俺は思わず苦笑した。


「いやいや、ルミアナの年齢じゃなくて魔法のことだ。ルミアナが先ほど見せてくれた魔法には驚かされた。ああいう魔法を私も使ってみたいと思うのだが、魔法とはどんなものか教えてもらえないだろうか」


「魔法とは、魔力を持つエルフ族が使う特殊能力です。魔法を使うには魔力を必要としますが、人間族は魔力を持たないため魔法は使えません。魔力は生まれつきの能力なので、訓練によって身に着けることはできません」


 なんだ、人間に魔法は使えないのか。せっかく剣と魔法の世界なのに、エルフにしか魔法が使えないのは不公平だな。


「またこれは非常に重要なことですが、魔法を発動するには魔力を消費すると同時に、魔法の種類に応じた特別な『魔法素材』を消費します。魔法素材が無ければ魔法を使うことはできないのです」


「その『魔法素材』っていうのは何だい?」


「魔法素材は植物や動物からの抽出物、あるいは地下に埋もれている魔法石という宝石など様々です。いずれにしろ、それらの魔法素材は貴重で手に入りにくいものです。威力の強い魔法素材ほど手に入りにくい傾向があります」


「ということは、気軽にポンポン魔法を使うことはできないわけか」


「そうなりますね」


 魔法を発動するには、魔力だけじゃなく魔法素材が必要になるのか。かなり制限が厳しいな。それにしても人間に魔法が使えないのは面白くない。


「ルミアナ、本当に人間には魔法が使えないのか?」


「う~ん、そうですね、これはエルフ族の秘密なのですが、この世界には『魔道具』という古代のアーティファクトが存在するらしいのです。それは遥か昔にエルフ族がこの大陸全土で繁栄していた時代に、エルフの賢者たちによって作られたものです」


「その魔道具と言うのは?」


「魔力を消費せずに魔法を使うことができる道具です。魔道具は魔力を消費する必要が無いので、それを使えば魔力を持たない人間族でも魔法が使えるわけです」


「それはすごいな」


「私が世界中を旅している理由は、その魔道具を探すためでもあります。魔道具は世界のあちらこちらにあるエルフの神聖な古代遺跡などに隠されているそうです。実はアルカナの王都に来た理由もそれです」


「王都のどこかに魔道具が隠されているのか?」


「古い資料によれば、王都の城の地下には古代エルフの神聖なダンジョンがあるらしいのです。まだ、その入口が見つかっていないのですが・・・」


 これはヤバいことになって来たぞ。おそらく城の裏庭にあるという穴が、古代エルフのダンジョンの入り口に違いない。ところが、城ではウンチの捨て場に困って、あの穴にウンチを毎日放り込んでいる。エルフの神聖なダンジョンに毎日ウンチを放り込んでいるとバレたらエルフに殺されかねない。おまけにダンジョンにウンチスライムが生まれていたら、王国の責任問題だ。とりあえず、今あそこに行かれると非常にまずい。


「そ、そうか、私もダンジョンを探すために協力を惜しまないが、とりあえず王都で魔道具を探すのは、ずっと後に回してくれ。ほかに頼みたいことがあるし。・・・ところで魔法にはどんな種類があるんだ」


「そうですね、攻撃系と支援系、そして補助系の魔法に分けられます。私は支援系の魔法が得意で、特に幻惑魔法のエキスパートです」


「幻惑魔法とは?」


「幻惑魔法は、先ほど私が使った<恐怖幻覚テラー・ビジョン>などです。直接相手にダメージを与えることはできませんが、自分の姿を隠したり、相手に幻覚を見せたり、恐怖を与えたり、眠らせたり、あるいは相手を操ることができます。また姿を隠す隠密魔法も幻惑魔法に含まれます。幻惑魔法で使用する魔法素材は比較的手に入れやすいので、使い勝手が良い魔法です」


「幻惑魔法はかなり役立ちそうだね」


「そうですね、ただ、幻惑魔法は必ず効くわけではないところが弱点です。相手の精神力が強いと効果がない場合もあります。また明るい場所よりも暗い場所が効きやすく、森の中のような複雑な環境ほど有効です」


 俺はふと思いついて、ルミアナに確認してみた。


「ちなみに、魔法で大量の水を生み出すことはできないかな。その水で畑の作物を育てれば、アルカナ王国の食料問題は楽に解決するんだが」


「それは無理です。魔法で水を作ることはできますが、作物を育てるほど大量の水を生み出すためには大量の魔法素材が必要になってしまいます。ですから現実的には不可能です。魔法素材を使わずに水を出せるなら誰も苦労しません」


 確かにそうだ。何もないところから物質やエネルギーを無限に生み出すことができるなら、少ない資源をめぐって戦争をする必要はない。世界は資源が足りないから奪い合いになる。豊かな土地をめぐって殺し合いになる。悲しいものだ。


 それにしても少々納得できない点がある。「人間は魔法が使えない」という点だ。魔道具というアーティファクトが存在することはわかったが、そんな面倒な道具を使わなくとも、異世界転生アニメではたいていの場合、主人公は魔法が使えるじゃないか。俺も魔法が使いたいぞ。


「ルミアナ、私には魔力が無いのだろうか。試してみることはできないかな」


 ルミアナは他の人間から同じ質問を何度も聞かされてきたのだろう。またか、というように肩をすくめ、大きくため息をつくと諦めた表情で言った。


「試すことはできますよ。陛下がそれでご納得されるのであれば、いくらでもご協力いたします。ただし魔力を試すには魔力黒板が必要ですので、お城の私の部屋が準備できましたら、試してみましょう」



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