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第六十九話 新たな頭領

 グラークは遺跡の石畳を港へ向かって逃げる。船で島から逃げ出すつもりなのか。グラークの逃げ足が異常に早く、なかなか追いつけない。このままだと逃げられてしまう。と思いきや、キャサリンの足がそれより早い。俺が驚いてキャサリンに叫んだ。


「おい、キャサリン、お前すごく足が速いな」


「おーほほほ、子供の頃、逃げるお兄様を捕まえるために毎日走っていたからですわ」


 あいかわらずとんでもない理由だな。そんなことはどうでもいい。たちまちキャサリンがグラークに迫り、後ろから呼び止める。


「はあはあ、・・・ちょっとあんた、待ちなさい。待ちなさいったら」


「こいつ、私の逃げ足に付いてくるとは、なんて奴だ」


「わたくしは追いかけて捕まえるのが得意なのですわ。絶対に逃しませんわよ。いい加減に観念して止まりなさい」


「は? バカか、止まるわけないだろ」


「止まりなさいってのに・・・このお・・・あんたなんか、転んじゃえばいいのですわ」


 キャサリンの貧乏魔法が発動したのか、突然グラークは何かにつまづくと、悲鳴を上げて前のめりにぶっ転んだ。たちまち俺たちが追いついてグラークを取り囲む。さすがに観念したようだ。グラークは全身で荒い息をしながら言った。


「はあはあ、・・・私をどうするつもりだ。殺すのか」


 ダーラが言った。


「いや、本当のことを知りたいんだ。今までは遠慮して聞き出すことはできなかった。だが、こうなった以上、はっきりさせておきたい。お前があたいのおやじを殺したっていう噂のことだ。お前がやったのか」


 グラークは小馬鹿にしたように鼻で笑って言った。


「何を馬鹿なことを、そんな噂を信じるとは。私がそんなことするわけがないだろう。私はあんたの親父をずっと支えてきたんだ。忠実な部下だった。違うか?」


 ダーラはそれ以上何も言えない。それを見たルミアナがバックから一本の黒い小さなポーションを取り出した。そして栓を抜くとグラークの顔に近づけた。グラークは驚いて逃げようとしたが、レイラが後ろから両腕を捕まえた。グラークが叫んだ。


「おい、何をしている。やめろ、やめてくれ」


 ルミアナが落ち着いたトーンで言った。


「大丈夫よ、殺したりしない。ただ本当のことを話してもらうだけ・・・催眠魔法でね」


 ルミアナが<催眠ハプノーシス>の魔法を唱えると、たちまちグラークの目は虚ろになり、レイラが掴んでいた両腕から力が抜けた。やがて仲間の海賊たちも集まってきて、俺たちの周りを遠巻きに取り囲むと、じっと様子を見守っている。グラークが催眠状態になったことを確認すると、ルミアナが静かに言った。


「あなたはこれから時間を遡ります。ずっと昔、あなたがまだ副頭領だったころです。ある日、あなた達は外国の軍艦と戦いました。覚えていますか」


「・・・ああ、覚えている。外国の軍艦と戦った」


「あなたの隣には頭領が居ますね。あなたは頭領のことをどう思いますか」


「ああ・・・頭領のことは・・・軽蔑している。義賊を気取って、変に寛容なところのある男だ。何でも手加減を加えてしまう。容赦なくやれば、もっと稼げるのにな。それが許せない。そんな男に従うのは嫌だ」


「頭領の存在が気に入らない。だから戦いのさなかに、あなたは頭領を殺したのですか」


「え?・・・ああ、殺した。いつか殺して自分が頭領になろうと思っていた。この時がチャンスだった」


「どうやって殺したのですか」


「私と頭領が敵の軍艦に乗り込んで戦ったときだ。軍艦はすでに炎に包まれていた。私と頭領は敵の指揮官を倒すために士官室に飛び込んだ、そして頭領が指揮官を倒した。そのとき私が後ろから頭領を刺殺した」


 ダーラの顔色が変わった。遠巻きに様子を見ていた海賊たちも顔を見合わせた。グラークが前の頭領を殺したという噂は知っていたが、誰も信じていなかったのだ。だがグラークが裏切り行為を自白したのである。ルミアナは続けた。


「その時、あなたの周りには誰も居なかったのか」


「ああ・・・二人のほかに誰も居なかった。だから後ろから刺し殺した。そして敵の軍艦は炎に包まれ、やがて沈没した。頭領の死体もいっしょに沈んだ。証拠はなにもない。だから、敵の指揮官と戦って頭領が殺されたことにした。そして私が新たな頭領になった」


「頭領の娘のダーラは、どうするつもりだ」


「・・・手なずけて利用するつもりだ。うまくいかなければ、いつか始末する」


 ダーラの顔は怒りで赤く染まり肩が震える。俺はダーラに言った。


「どうするダーラ殿。今ならこの男を簡単に殺すことができるが・・・」


 すこし間をおいて、ダーラは首を横に振った。


「確かにあたいら海賊の掟じゃあ、裏切り者には死んでもらうことになってる。目には目を、死には死を。だけど、あたいらの国も、いつまでも海賊の国じゃダメなんだ。グラークには牢の中で自分の犯した罪を償ってもらう」


 ダーラは呆然と立ちすくんでいる海賊たちに向き直ると言った。


「みんなも聞いただろう。グラークはあたいのおやじを殺して頭領の地位を奪った裏切り者だ。グラークの野郎は牢屋に打ち込む。これからは、あたいが新しい頭領になろうと思う。異論のあるやつはいるか」


 海賊たちは口々に歓迎の言葉を述べた。


「いやいや、頭領の娘だったダーラの姉御が新しい頭領になるんだったら、俺たちの中で、文句を言うやつは誰もいませんぜ」


「そうですとも、あっしはグラークが嫌いでしたんで、むしろ歓迎しますぜ」


 グラークは後ろ手に縄で縛られると、朦朧としたまま海賊たちに連れられて港町へ引き返して行った。ダーラは力なく連れられてゆくグラークの様子を悲しげな表情で眺めながらしばらく黙っていたが、その姿が森の中に見えなくなると俺たちに振り返って言った。


「ありがとう。アルカナ国のみんなのお陰で、おやじの死について本当のことがわかったし、グラークとの決着もついた。それなのにみんなには大変な迷惑を掛けてしまった。まさかグラークがエニマ国の連中と組んで、アルフレッド殿を暗殺しようと企てていたとは・・・。知らなかったとはいえ、本当に申し訳ない」


「気にしないでください。過去にも暗殺されそうになったことはありますので」


「そうですわ、お兄様なんか食事に毒を盛られて一週間も昏睡状態になったり、トカゲ族の暗殺部隊に襲われたり、誰かさんのせいで廃鉱山に閉じ込められたり。お兄様といっしょに居ると、いつ殺されてもおかしくないのですわ。でも、自慢じゃないですけど、わたくし、ちっとも怖くなんかありませんの。今回だって楽しいくらいでしたわ」


 ダーラが驚いて俺に言った。


「そんなに命を狙われているのですか・・・大陸は恐ろしいところですね」


「いえいえ、そんな恐ろしいところではありませんよ。それはそうと、アルカナ国との軍事協力の件ですが、協定を結んでいただけるのでしょうか」


「もちろん、こちらからお願いしたいくらいだよ。しかし、あたいらがいくら海の戦いに慣れているとはいえ、多勢に無勢。シャビ帝国が数百隻の大型ガレー船で攻め寄せてくれば、対抗できるかどうか・・・」


「大丈夫です。確かにジャビ帝国のガレー船と白兵戦で戦えば勝ち目はありませんが、この火炎魔法の杖を使うのです。ジャビ帝国のガレー船から逃げ回りながら、遠方から火炎弾で攻撃して敵船を炎上させるのです」


「なるほど火炎魔法の杖は強力だ。しかし、あたいらの船は帆船だから風だけが頼みの綱だ。もし風が弱ければ、人力のガレー船に追いつかれてしまう」


 キャサリンが自慢げに言った。


「それなら風魔法を使えばいいのですわ。わたくしたちがダルモラへ来るときも風がなくて、お兄様が風魔法をつかって帆に風を送り、船を走らせたのですわ」


 俺はキャサリンに言った。


「確かに風魔法を使えば有利に戦える。しかし、風魔法を使えるのは俺とルミアナの二人だけだ。二隻の船だけでジャビ帝国に勝てるはずがない・・・」


 俺はひらめいた。


「そうだ! 風魔法の『魔導具』があれば良い。風魔法の魔導具を各船に備えれば、風がなくてもジャビ帝国の軍艦から逃げ回ることができる。ラベロン殿、風魔法の魔導具は作れないだろうか」


「ううむ、すぐには無茶じゃ。何しろ魔導具の製作方法がわかったばかりで、実物の製作に成功したわけではない。いろいろ試してみんことには、なんとも言えんのじゃ」


「ぜひ試作をお願いしたい。ジャビ帝国が攻めてくるのは、まだ1年以上先になるはずだ。時間はある。そのための協力は惜しまない」


「そうじゃな、まずは最も研究が進んでおる『火炎魔法の魔導具』を製作してみる。それが成功すれば、風魔法の魔導具も作れるかもしれん」


「それはありがたい。頼んだぞ、ラベロン殿」


 その後、俺たちはダルモラの城に帰還した。城では、新たな頭領の誕生と、アルカナ国とダルモラ国の同盟の樹立を祝って、盛大な宴会が催されたのは言うまでもない。


 船でアルカナへ戻る前に、ラベロンがダルモラの城内に転送の魔法図形を描いた。先に習得した転送魔法を使えば、ほとんど一瞬でダルモラの城に移動することができる。大部隊を送ることは難しいが、十人程度ならいつでも転送できる。


 ダルモラ国との軍事協力関係を成立させた俺たちは、王都アルカへ戻った。


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