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第四十七話 巨大スライムとの戦闘

 やがて通路はT字路に突き当たった。どちらへ進むべきか通路の真ん中あたりで悩んでいたときだ。頭上からガリガリという音が響くと、いきなり石の壁が落ちてきた。


「あぶない」


 俺はとっさに左へ転がり、壁の直撃を避けた。石は地響きをたてて床に落ちた。気が付くと壁によって俺たちのパーティーは二つに分断されてしまった。壁のこちら側には俺とレイラ、向こう側にはキャサリンとルミアナ、カザルがいる。俺は壁を叩いた。


「おい、大丈夫か?聞こえるか?」


 壁の向こうから何らかの音は聞こえるものの、何を話しているか聞き取ることはできない。壁はかなりの厚さがあるらしく、叩いても押してもびくともしない。これは参ったな。レイラが言った。


「とりあえず、先へ進むしかありません」


「そうだな」


 気が付くとレイラの目がギラギラ輝いている。戦士というのは、ピンチになるほど本能的に興奮するものらしい。


「陛下は何があっても私がお守りいたします。ご安心ください」


「あ、ありがとうレイラ、頼りにしているよ」


 レイラは、俺から頼りにしていると言われて、ますます気合が入っているようだ。意味もなくブンブン剣を振り回している。


 ダンジョンもかなり奥まで進んできたので、そろそろラスボス的な敵が出現してもおかしくないタイミングだ。まあ、だいたいラスボスはサイズが巨大と決まっているので、大広間に出現するものだ。しばらく行くと、案の定、広い部屋に出た。部屋はとても広いため、俺の<灯火球ライト・オーブ>の明かりでは、部屋の四隅が暗くてよく見えない。天井が高く、その天井を支えるためか、部屋には柱が何本も立ち並んでいる。


「これは、いかにも強敵が出そうな雰囲気だな」


「用心してください」


 緊張感が漂う。暗い部屋の中に踏み込むと、入ってきた通路に壁が落ち、俺たちは部屋に閉じ込められた。敵を倒さない限り、先へ進むことも戻ることもできない。


 やがて、暗い天井に開いた真っ黒い大きな穴から巨大な黒い塊が落ちてくると、グシャという大きな音を立てて床の上に広がった。


 そいつは直径が5メートルほどもある巨大スライムだった。中央部分は小山のように盛り上がっている。ぬるっとした光沢を放つ表面のあちこちが不気味に波打っており、腐ったゴミのようなにおいもする。幸いなことに、恐れていたウンチスライムではなかったが、こんなでかいスライムにどう対処したらいいのか。


 その奇妙な姿を見て、レイラは思わず後ずさりした。


「うわ、な、なんですか、これは。気味が悪いし、においも酷い。これでも生き物なのですか」


「これは、スライムという怪物だ。体がゼリー状の液体でできている。古代のエルフはこんな怪物まで飼い慣らしていたのだろうか」


「まずは、私が切り込んでみます」


「だめだ、レイラ、不用意に近づくな」


 レイラがスライムに斬りかかると、突然スライムの表面から数本の黒いムチのような触手が飛び出し、レイラの足に絡みついた。次の瞬間、触手がスライムの中心へ向かって引っ張られると、レイラはバランスを崩して転倒してしまった。スライムの表面には口のような大きな穴が開き、そのままズルズルと中へ引きずり込もうとしている。飲み込まれれば、窒息して一巻の終わりだ。


「きゃああああ」


 俺はスライムに駆け寄ると、口らしき穴に向かって<火炎噴射フレイム・ジェット>を放射した。スライムはさすがに驚いたのか、大きく開いていた口を即座に閉じ、触手の力を緩めた。その隙にレイラが触手を振りほどき、這って逃げる。レイラがスライムから離れたことを見届けると、俺はスライムに向けて、最大魔力で<火炎噴射フレイム・ジェット>を放射した。床も天井も焦げるほどの火炎である。


「熱い、熱いです」


 俺の後ろにいたレイラが熱さで思わず悲鳴をあげる。部屋には焦げたような匂いが充満してきた。俺は火炎放射をやめてスライムの様子を見た。スライムの全体から白い水蒸気のような煙が立ち上っている。動きは止まっているようだ。やったか? だが、しばらくすると、再びうねうねと動き始めた。


 俺が再び火炎攻撃を行おうと身構えたところ、突然、スライムの中央付近から、何かが飛び出した。それは俺の顔の横をかすめると、後ろにいたレイラの盾にぶつかって、貼り付いた。ねっとりとした粘液の塊である。その粘液がレイラの盾をじわじわ溶かし始めた。レイラが驚いて大声を上げる。


「た、盾が溶ける・・・」


「まずい、これは溶解液だ」


 スライムは、鋼鉄の盾をも溶かすほどの強力な溶解液を次々に飛ばしてきた。金属を溶かすだけでなく、皮膚に触れれば、たちまち焼けただれてしまうだろう。目を持たないスライムだけに狙いは不正確だったが、粘液を次々に飛ばしてくるため近くにいれば非常に危険だ。


「向こうの柱の陰に逃げ込め」


 俺とレイラは全力で走り出したが、逃げる途中でレイラは背中に粘液の直撃を受けてしまった。溶解液が背中からお尻にかけてべっとり張り付いている。なんとか柱の陰に逃げ込んだ俺はレイラに言った。


「残念だが、プレートアーマーは脱いだほうがいい。そのままだと溶解液が皮膚にまで到達する危険がある」


「うわ、陛下。陛下のおズボンにも溶解液が・・・」


 レイラに言われて見ると、いつの間にかズボンに粘液のしぶきが付着している。これはやばい。俺は急いでズボンを脱ぎ捨てた。そうこうする間にも、スライムがズルズルと俺たちに近づいてくる。俺はレイラがプレートアーマーを脱ぐのを手伝いながら、時々スライムに<火炎噴射フレイム・ジェット>を放射する。火炎を浴びせている間はスライムの動きが止まる。だが、放射をやめて少し経つと、再び動き出す。くそ、火炎魔法は効かないのか。


 俺とレイラは、火炎魔法でスライムが怯んでいる間に、部屋の反対側の柱の陰まで走って逃げた。スライムは動きが遅いので、すぐには追ってこない。だが、このままではいずれ俺の魔力か魔法石が尽きて、餌食にされてしまう。こうなったら火炎魔法とは逆に凍結魔法で凍らせるか。幸い、先に倒した犬人形や蜘蛛人形から、冷却魔法で使う魔法石を入手できた。俺はレイラに言った。


「凍結魔法を使ってみる。かなり寒くなるかも知れないので、覚悟してくれ」


 レイラは溶解液の付着したアーマーと鎧下を外してしまったので、下着だけの姿である。


「大丈夫です、陛下」


 柱の陰から覗くと、スライムがゆっくり近づいてくるのが見えた。俺はスライムめがけて<凍結フリーズ>を噴射した。瞬時に周囲の水蒸気が氷結して、細かい氷の結晶がきらめく。冷気はスライムを直撃した。俺はそのまま<凍結フリーズ>を噴射し続ける。スライムの前進してくる速度が徐々に落ち始め、表面のうねりも見えなくなり、やがてスライムの動きが止まった。全体に白っぽく霜が付着している様子だ。


「動きが止まりました、陛下」


「ああ、効き目はあるようだ。だが安心はできない。完全に凍りつくまで攻撃を続ける」


 そう言うと、俺は渾身の魔力で再び<凍結フリーズ>を噴射し続けた。凍結魔法の余波で部屋の温度が急激に低下してゆく。俺とレイラの吐く気が、白くもうもうと湯気のような煙になり、眉毛も凍り始めた。レイラは下着姿のまま震え始めた。このままでは凍えてしまう。俺は凍結魔法を止めた。


 スライムは完全に凍りついたようだ。そのまま放置すれば解凍して復活する恐れもあるが、しばらくの間は大丈夫だろう。ハンマーのようなもので叩けば、ばらばらになるかも知れない。が、とりあえず体を温めるのが先だ。


 俺とレイラはスライムと反対側の壁際へ行くと床に座った。尻が冷たい。とにかく体を温めるため、俺は床に魔法石を置くと魔法で火を起こした。魔力を調整して、丁度よい火加減にする。


「陛下、ものすごく寒いです。凍えそうです」


 俺は上着を脱ぐと、下着姿のレイラに掛けてやった。レイラの体がでかすぎて、下の方はほとんどむき出しだったが、何もないよりはマシだろう。俺もズボンを脱いでしまったので下半身が寒くてかなわない。寒さを防ぐため、俺とレイラは自然と体を寄せ合った。ふと思ったが、こんな姿を誰かに見られたら大変だ・・・。


 突然、俺たちの横の壁から音が響いてきた。そして壁の一部が上へ上へと引き上がり、通路が口を開けた。通路から、キャサリンとカザルが飛び出してきた。


 キャサリンが俺を見つけて言った。


「まあ、こんなところにお兄様が。ご無事でしたのね。それにレイラも・・・あれ? ここで何をしているんですの? 二人で抱き合って・・・」


「う、うわ。ち、違うぞ。やましいことは何もしていないからな。部屋が寒いから、二人で温まっていただけだ」


 カザルが寒さで身震いした。


「うげ、旦那、なんですかここは。とんでもねえ寒さですぜ。なんでこんな寒いところで抱き合ってるんですか。裸で抱き合うなら、もっと温かい部屋がいいと思いますぜ」


「いやちがう、抱き合ってるわけじゃないんだ、体を温め合っているだけだ」


「同じことですぜ」


「ええい、やかましい、あれを見ろ!」


 俺はガチガチに凍結させた巨大スライムを指さした。


「なんですか、ありゃあ・・・あのかたちは・・・巨大なウンチですか」


「馬鹿野郎、あんな巨大なウンチをする生き物なんかいるかよ。スライムだ、スライム。あれが、鋼鉄を溶かすほど強力な溶解液を飛ばして攻撃してきたため、レイラの鎧も俺のズボンもやられてしまったんだ。そして、あれの動きを封じるために強力な凍結魔法を放射した。だから部屋が凍りついて、あやうく凍死するところだった」


「へえ、あれがスライムですかい。あっしは初めてみやしたぜ」


 ルミアナが言った。


「そうですわね、スライムは異形の怪物だから、この世界ではめったにお目にかかれません。私も本物を目にするのは初めて。レイラも災難でしたわね。私のマントを貸してあげますわ」


 そう言うと、ルミアナはバッグからマントを取り出すと、レイラの肩に優しくかけた。俺はカザルに言った。


「ところで、あのスライムは魔法でカチカチに凍らせてある。今のうちに、カザルのハンマーで叩き割ることはできないか?」


「は、お安い御用ですぜ、旦那」


 カザルは凍りついたスライムに駆け寄ると手前で大きく飛び上がり、勢いを付けてスライムの真ん中めがけてハンマーを打ち下ろした。ガキンと音がして、スライムにヒビが走った。カザルがスライムの上で同じ場所にハンマーを何度も打ち下ろすと、ビビは大きくなり、やがてスライムは真っ二つに割れた。念のため、さらにバラバラにしてもらった。


 スライムを破壊したあと部屋をよく調べると、隅の方に小さな扉があり、隠し部屋が見つかった。隠し部屋にあったレバーを操作すると部屋の壁がせり上がって、広い通路が現れた。通路の両側には複数の扉が並んでいる。扉の上にはエルフ文字が刻まれており、その一つをルミアナが読んだ。


「・・・保管庫」


 ついに保管庫を発見したのである。



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