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第二十二話 レオナルド国王の趣味

 市場でアカイモの現物を確認した俺たちは、ロマランの宮殿へ向かった。ゆるやかにカーブした街中の道を進むと、眼前に大きな建物が現れた。宮殿である。


 キャサリンが思わず言葉を漏らした。


「な、なによ、これ・・・」


 ロマランの宮殿はとんでもなく豪華だった。建物全体に大理石の白い化粧石がふんだんに使われており、高原の澄み切った青空に、建物全体が白く美しく輝いて見える。アルカナの灰色の王城とは大違いである。


 手入れの行き届いた広い庭園は美しい花々に飾られており、そのあちらこちらに、等身大の様々なポーズをした見事な大理石の彫像が立っている。これらの高価な美術品は、おそらく交易で得た富を惜しみなくつぎ込んで作られたのであろう。


 宮殿の敷地の中央には、四隅に装飾塔の付けられた大きな建物があり、その広間で両国王の会見が行われることになっていた。俺たちが宮殿の門に到着すると、大きな建物に続く中央通路の両側に、正装したロマランの近衛騎士がずらりと並んで出迎えた。建物の前では、ロマランの国王レオナルド・ロッシと家臣が待っていた。


 レオナルド国王は背が低くかなり太めの体形である。もともと丸顔だったのだろうが、太ることでますます顔が丸くなり、首との境目がよくわからない状態だ。赤を基調とした派手な服に見事な金糸の刺繍が施されており、これでもかと言わんばかりに宝石をあしらった王冠が頭上に輝いている。


「ようこそおいで下さいましたアルフレッド陛下。はじめまして、私がロマランの国王、レオナルドです。遠いところお越しいただき誠にありがとうございます」


「こちらこそ。アルカナ国の国王アルフレッドでございます。以後お見知りおきください」


「そちらの美しいご婦人は、どちら様で?」


 キャサリンの機嫌がすこぶる良くなった。


「私はアルフレッドの妹のキャサリンでございますわ」


「キャサリン様、歓迎いたします。さあ皆様どうぞこちらへ」


 赤い絨毯の上をレオナルド国王と並んでゆっくりと歩きながら、俺が話しかけた。


「ロマラン王国とアルカナ王国は古くから交易関係にありますが、本日の会談により、一歩進んだ友好関係が始まるものと、期待に胸を膨らませております」


「我々も同じ思いでございます。隣国同士、より緊密な関係を築きましょう」


 立ち並ぶ彫刻に見とれながらキャサリンが言った。


「これほど美しい宮殿を拝見したことはございませんわ。建物の壮麗さもさることながら、お庭に並ぶ彫刻も実に見事ですわ」


「ありがとうございます。それらは、はるばる北方のザルトバイン帝国から有名な職人を呼び寄せて掘らせたものです。このあたりでは、これほど芸術性の高い彫刻を見ることは難しいでしょうな」


 レオナルド国王の先導で白亜に輝く建物の中へと進んだ。広間へ続く通路の壁には大きな絵画がいくつも飾られていたが、先ほど庭で見た見事な彫刻に比べると何か違和感がある。これは小学生の絵か、と思うほど下手糞なのである。


 総務大臣のミックが妙なものでも見るような目つきで、ジロジロと絵を見上げながら言った。


「この絵はなんでしょうか。これはなんといいますか・・・・」


 レオナルド国王が嬉しそうに言った。


「おお、それは私が描いた絵です。完成までに三カ月を費やした自信作です。いやあ、私は絵を描くのが趣味でしてな。妻には私の絵の良さがなかなか理解して貰えませんで、『そんな絵を宮殿に飾るな』と怒られるのです。大臣はいかが思われますか」


 それを聞いてミックの態度が豹変した。


「な、なんと、左様でございましたか。いやすばらしい、実に見事な絵でございますな。その・・・なんと申しましょうか・・・何の絵なのかさっぱりわからないところが、いかにも芸術的ですな。まさに画面が大爆発してございます。そのまま通り過ぎてしまうのが実に惜しい、ずっと鑑賞していたい気分になります」


「うむ、大臣殿はやはり優れた審美眼をお持ちのようですな。それほど気に入っていただけたのなら、一枚差し上げますので、ぜひアルカナの城内で一番目立つところに飾ってください。そうですね、この絵はさすがに差し上げられませんので、あちらの絵など、いかがですか」


 一段と何だかわからない絵が、黄金の立派な額縁に入れられている。


「はあ、なんともかわいらしい絵ですね、これは・・・ネコですか」


「犬のフランコですが、何か」


「いやー、最初から犬じゃないかと思ってました。レオナルド様の愛犬でしょうかね、実に賢そうな犬ですこと。頭が三つもあるんですね」


 広間の奥から背の高い、ほっそりした女性が現れた。国王とは対照的な体形だ。上品な服装からして王妃と思われる。


「あなた、また外国の偉い方を困らせているんじゃないでしょうね」


「何を言うか、困らせてなどおらんぞ、お前と違ってワシの絵の良さがわかる方々なんだ。この犬のフランコの絵をアルカナ城に飾ってもらうのだ。なあ、大臣殿」


「はい、それはもう喜んで。できればその黄金の額縁と一緒にお預かりさせていただければ幸いです。その美しい絵には黄金の額縁が大変に似合いますので」


 いやいや、それは明らかに黄金の額縁が欲しいだけだろう。


 広間の中央には御影石で作られた大きな長机が対面に配置されており、両国の代表が向かい合わせに着席した。頭上には大きなシャンデリアが下がっている。シャンデリアには数十本の蝋燭が灯されており、そこから放たれる光が無数のクリスタルガラスに屈折してきらめき、豪華で美しい。


 それにしてもレオナルド国王は大らかで友好的な国王である。こんなお人好しの国王では、もしジャビ帝国に侵略されたらどうなるか心配である。


 俺はレオナルド国王に尋ねてみた。


「最近、ジャビ帝国が軍備を大幅に拡張しているとのうわさを耳にします。ロマラン王国は兵力の増強を考えておられないのですか?」


「考えておりません。兵力を増やせば周辺国に脅威を与えることになり、相手を刺激して危険です。戦っても勝てないのなら、武力を持たないことが平和の第一歩なのです」


 どこかで聞いたセリフだなと思ったが、俺はあえて何も言わなかった。以前ロマラン王国がジャビ帝国に侵略された際には莫大なおカネを払って見逃してもらったとの話を聞いたことがある。いつもカネで見逃してくれれば良いのだが。


 懇談は終始なごやかな雰囲気で行われた。もともと交易立国であるロマランは多くの国の貿易商人を受け入れて発展してきたオープンな国だから、アルカナとの関係強化にも前向きだった。アルカナが栄えれば当然ながらアルカナとの貿易量が増え、ロマランにも恩恵がもたらされるわけだ。そこでアカイモの件を切り出してみた。


「レオナルド国王にはひとつお願いがございます。それはロマランで栽培されているアカイモという作物のことです。アカイモは干ばつに強く、小麦などが不作の際にもたくさん収穫できると聞きます。近年はアルカナで小麦の作柄が悪く、国民が飢えに苦しむ状況にあります。そこでアカイモを我が国でも栽培したいと考えておりますが、栽培法を教えていただくことはできないでしょうか」


 レオナルド国王は時々頷きながら話を聞いていたが、にこやかに言った。


「そうですか、承知いたしました。アルフレッド殿にご協力いたしましょう。詳しくは後程我が国の農業大臣と打ち合わせをしてください。アカイモは干ばつに強いため、我が国において、とても重宝しております。それに私はアカイモが大の好物でして、宮廷では私の肝いりでさまざまな料理を研究しておりますぞ」


 キャサリンはあまり興味なさそうに言った。


「こちらへ伺う途中に、市場でアカイモを見ましたわ。あまりおいしそうには見えませんでしたの」


「ほっほっほ、それは皆様がまだアカイモの真のおいしさをご存じないからです。それでは皆様に宮廷自慢のアカイモ料理を味わっていただきましょう。実は、そのつもりで準備しておりました。さあ給仕の皆さま、お客様に料理をお出ししてください」


 宮廷のアカイモ料理と聞いて、期待で爆発しそうな表情で待ち構えていたキャサリンの目の前に、丸ごと一個の焼き芋が出された。期待の表情が落胆に変わった。


「何これ、単なる丸焼きじゃないの。しかも、ネズミの丸焼きみたいですわ」


 俺はあわてて言った。


「しーっ、キャサリン。失礼なことを言わない」


 レオナルド国王が自信たっぷりに言った。


「そうです、単なるイモの丸焼きです。ですが普通に焼いたものではありません。専用の窯を用いて低温で四時間かけてじっくり焼き上げてあるのです。見た目は悪いですが、まあ食べてみてください」


 給仕係が焼き芋を切って中身を皿に盛りつけた。一口食べたキャサリンが叫んだ。


「うわ。甘いわ、まるで蜂蜜でも混ぜてあるみたい。すごい美味しい。こんなの初めて。こんなおイモに目を付けるなんて、やっぱりお兄様はすごいですわ」


 ルミアナも感心したように言った。


「本当だわ、世界を旅してきたけど、こんなに甘いイモを食べたことはないわね。これならアルカナ国でも、間違いなく人気になるわ」


 レイラは何も言わない。何も言わずに黙々と食べている。普段は我慢しているが、本当は甘いものが大好きなのに違いない。


 アカイモは同行した女性たちに大好評だった。その後もスイートポテトやあげイモの蜂蜜掛けなど、甘いものがどんどん出てきたが、なんだかんだ言いながら彼女たちはすべて平らげてしまった。甘い食べ物を、それほど頻繁に食べられない時代だったから、よほど美味しかったのだろう。


 レオナルド国王も上機嫌で、一時間ばかりアカイモの料理について話をした。平和でおだやかな時間が流れた。こんな生活がいつまでも続けば良いのにと思った。


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