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第十五話 女騎士の決闘

「お客様、順番を守っていただかないと困ります」


「うるせえクソじじい!俺たちを誰だと思っているんだ。エニマ王国の大貴族、スペンサー様の私兵隊だぞ。その俺たちが先に乗せろと言っているんだ。つべこべ抜かすな」


 これだから特権階級は嫌いなんだ。俺たちは馬車から外に出ると、船着き場の方へ向かった。五、六人の武装した私兵が船頭を取り囲み、怒鳴りつけている。


 その様子を見たミックが、毅然として私兵たちに言った。


「おやめなさい。貴族の私兵ともあろう方々が、見苦しいと思わないのですか。我々も大人しく順番を待っているのですよ」


「はあ? 何を偉そうに、誰だお前らは?」


「我々は、アルカナ王国の国王アルフレッド様の一行である」


 男たちは顔を見合わせると、大声で笑った。


「こいつは面白い。昔は大国だったが、今じゃすっかり落ちぶれちまったアルカナ王国の国王ご一行様かよ。それでエニマ王国に何の用だ? カネが欲しくて頭でも下げに来たのか」


「おのれ言わせておけば・・・」


 怒るミックを押さえてレイラが前に歩み出た。


「まあ待て。アルカナ王国が本当に落ちぶれたかどうか、私の剣で試してみるがよい。それとも、エニマ王国の私兵とやらは、口先だけの腰抜けな連中か?」


「何だと、抜かしやがったな! 上等だ。スペンサー私兵隊隊長、ジョージ様がじきじきに相手をしてやる。もしお前が勝ったなら、俺たちは大人しく引き下がろうじゃないか。もし、俺が勝ったら・・・」


 ジョージはイヤらしい笑みを浮かべて言った。


「すっぱだかになって、首輪を付けて俺たちの犬になってもらおう。はは、どうだ?」


 レイラは軽蔑したような目でジョージを睨みつけた。


「ふん、ゲス野郎らしい下品な要求だな。上等だ、受けてやる」


 他の私兵の男たちはニヤニヤ笑っている。


「は、馬鹿な女だな。腕前にすこしは自信がありそうだが、女だてらに、エニマ王国の武術大会での優勝経験もあるジョージ隊長に勝てると思っているのか」


「うへへ、あの身の程知らずの女を、裸にひん剥いてやるのが楽しみだぜ」


 船着き場の前では、剣を構える二人を人々が丸く取り囲んだ。レイラは銀色に光る近衛騎士のプレートアーマーに身を包み、鋼鉄のタワーシ―ルドと長剣を構える。一方のジョージはえんじ色のブリダンガインにチェインメール、ウッドシールドに長剣といった装備である。レイラは防御力に重点を置き、ジョージは動きやすさに配慮した装備だ。


 ジョージは考えた。相手は所詮女だ。いくら鍛えてあるとはいえ、腕力で男に勝てるはずがない。ここは正面からの連打で押し込んで叩き伏せ、身の程を知らない生意気な女に、男の腕力がどれ程のものか思い知らせてやろう。先手必勝だ。


「じゃあ、俺から行くぜ」


 ジョージはレイラの正面から全力で突っ込むと、上段から渾身の力を込めて剣を叩きつけた。しかし、剣を受けるレイラのタワーシールドは微動だにしない。ジョージはさらに激しく何度も打ち続けた。しかし、並みの男ならバランスを崩してもおかしくない程の剣の衝撃を、レイラはいともたやすく受け止めている。


 ジョージは思った。さすがに国王の警護をするだけあって、それなりに鍛えられているようだ。とはいえ、相手はプレートアーマーにタワーシールドという重装備だ。あの装備は男ですら持て余すほどの重さがある。まして相手は女である。まともに動けるはずがない。左右に揺さぶれば隙が生まれるはずだ。


 ジョージは回り込みながら、レイラをめがけて続けざまに剣を打ち込む。しかしレイラはタワーシールドを軽々と操り、すばやく打ち込まれる剣先をすべて受けとめる。右からも、左からも回り込むが、まったく隙がない。


 ジョージは驚いた。こいつはとんでもない筋力と反射神経を持っている。本当に女なのか? しかし焦ることはない。あんな重装備で激しく動けば、屈強な戦士でもすぐに体力を使い果たす。ここは受けに回って、相手の体力を消耗させることが得策だ。


 ジョージが挑発的な態度でレイラに言った。


「は、なんだお前。俺の打ち込みに堪えるのが精一杯で、手も足も出ないってか? 降参するなら今のうちだぞ」


「ならば、こちらから行かせてもらう」


 そういうが早いか、レイラはジョージに向かって猛烈なダッシュで踏み込むと、上段から思い切り剣を振り下ろした。その速さに不意を突かれたジョージは、かろうじてウッドシールドでレイラの剣を受け止めたものの、あまりの衝撃に姿勢を崩しそうになった。レイラは休むことなく左右から続けて剣を打ち込んだ。ジョージは防戦一方である。


 ジョージは焦ってきた。なんて馬鹿力なんだ。これは受け止めるだけで精一杯で、カウンターを狙うどころではないぞ。まあいい、こんな勢いで剣を振り回せば、すぐにスタミナ切れで動きが鈍るはずだ。

 

 しかしレイラの剣に鈍る様子はまったく見られない。それどころか、ジョージはじりじりと後ろへ押され続けている。私兵たちが唖然とした表情でレイラを見ている。


「あのジョージ隊長が押されているぞ。どうなってるんだ」


「おい、隊長の盾が・・・」


 レイラが繰り出す激しい連打の威力によって、ジョージの盾がゆがんでいる。そして次のレイラの一撃で盾がジョージの手から叩き落され、バラバラに割れて木片が飛び散った。


 ジョージは頭が真っ白になった。まさか盾が割られてしまうとは。これはまずい、片手剣一本であの怪力女の剣は止められない。もちろん負けを認めることなど絶対にできない。こうなりゃ手段は選べない。


 ジョージは足元の砂をつかむと、レイラの剣を避けて横に飛びながら、レイラの顔をめがけて砂を投げ付けた。ヘルメットの隙間から砂粒がレイラの目に入った。


「うあ」


 ジョージは腰を落としたレイラの横から小手を狙って打ち込み、レイラの剣を地面に叩き落した。ジョージはレイラの剣を足で蹴って向こうへ弾き飛ばすと、激しく肩で息をしながら剣を構えなおし、勝ち誇ったように言った。


「馬鹿め、俺は実戦を重視してるんでな。こういう戦闘にも慣れておいた方がいいぞ。さあ、剣なしでどうするんだ? あ?」


「卑怯者め・・・」


 レイラは立ち上がると、タワーシールドを体の正面に構えたまま、猛牛のようにジョージに向かって突進した。


「うおおお」


 意表を突かれたジョージだったが、とっさに右に避けて難を逃れた・・・かに見えた。しかし、レイラのタワーシールドが、まるで全力で振りまわされた巨大なハンマーのような勢いで、ジョージの体に横から叩きつけた。ジョージは衝撃で空中に放り上げられ、体が九の字に曲がったまま飛んでいき、船着き場の浮き桟橋の向こうの川に落下し、大きな水柱が上がった。私兵の男たちは茫然とその様子を見ていた。


「アルカナには、こんな化け物のような女騎士がいるのか・・・」


 レイラはジョージの体が飛んで行った方向を確認した後、叩き落とされた自分の剣の近くまでゆっくり歩いてゆき、剣を拾い上げると私兵たちに向き直り、再び戦闘態勢で身構えた。


「さあ、次は誰が相手になるんだ?」


「いえいえ、もう結構です。約束通り、我々は順番に並びます」


 レイラは私兵たちに言った。


「たとえ貴族であろうと不正は絶対に見過ごさない。間違いは正され、正義はなされなければならない。たとえ地獄の果てであろうと、悪を追い詰めて倒す。それを行うことが、アルカナ王国の騎士たる私の使命である」


 周りを取り囲んで行方を見守っていた人々から、拍手が沸き起こった。レイラが剣を挙げて人々に応える。


 いやー、レイラは惚れ惚れするほど素晴らしいな。まさしく絵にかいたような正義漢だ。とはいえ、真面目過ぎて融通が利かないんじゃないかと心配だ。間違ってレイラにセクハラ発言でもしようものなら、頭から真っ二つにされちまうかも知れないぞ。あぶない、あぶない。レイラの性格を少し柔らかくしてやらないと・・・。


 一行の馬車は無事にエニマ川を渡ると、エニマライズへと急いだ。



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