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第百話 雪の町へ

 ある日の午後、珍しくルミアナが俺の所にやってきた。


「陛下、ちょっとお話があるのですが。実はエルフの国に住む私の父親から手紙が来まして、私に仕事を頼みたいから、エルフ王国に戻って来てくれと言うのです」


「なるほど、仕事か・・・。そういえば今まで聞いたことは無かったが、ルミアナの父上は、どのようなお仕事をされているのだ」


「はい、私の父はエルフ王国で『四大賢者』とよばれる長老の一人で、エルフ王を支援し、エルフ王国を守り、繁栄させることが仕事です」


「すごいな、ルミアナはエルフの賢者の娘なのか。その父親の頼みとなれば、断ることは難しいな。ところで、頼まれた仕事とはどんな内容なのだ」


「ある遺跡の封印の調査です。実は、10万年以上も前の大昔に、エルフ族が別世界から現れた侵略者と戦って撃退したことがあったのです。その時に開いた別世界に通じる大穴を巨大な石で塞ぎ、強力な魔道具で封印したと伝えられています。私の一族はその封印を守る役目をまかされ、その後10万年にわたって代々封印を守ってきたのです。


 ところが、父の手紙によれば、最近になってその封印に異変の兆候が見られるというのです。それで私に現地に赴いて調査して欲しいそうなのです。一族の中では、私が最も魔力に関する感覚力に優れているので、私の力でなければダメなのだとか」


「それは大変だな、すぐに行かなくては。もし必要なら私も手伝おう。他の皆にも声をかけて、手伝ってもらおうか」


「お気遣いありがとうございます。もし封印が部分的にでも壊れていたら、その周辺に異界の怪物が出てきているかも知れませんので、皆様に同行いただければ心強い限りです。でも、実のところ行こうか止めようか迷っているのです」


「え? それはまた、どうして。すごく大切な仕事じゃないか」


「それがですね、もしかすると、私の父が私を呼び寄せるためにウソをついているかも知れないからです」


「ウソ?」


「はい。以前にも似たようなことがあったのです。『父が死にそうだから帰ってきてくれ』という手紙が来まして、あわててエルフの国に戻ったら、死にそうなはずの父がぴんぴんしていたのです。そして『お前もそろそろ結婚して身を固めろ』としつこく迫られたため、怒って帰りました。結局、私を呼び戻して結婚させたかったためにウソをついていたのです。あれから10年になりますので、また同じ話かも知れません」


「まあ、話の真偽は行ってみなければわからないな。それに、ウソだったとしても私は構わないよ。というのも、ジャビ帝国との戦いで魔法石を大量に消費してしまったので、補充をどうしたものか考えていたのだ。この機会に、ルミアナと一緒にエルフ王国に行って魔法石を買い入れるのもありかも知れない」


「そうですね、確かに魔法石を仕入れる必要はありますね。そういう目的があるなら、一緒にエルフ国へ参りましょう」


「それよりも、エルフの国が、このアルカナから非常に遠いところにあるということが問題なのではないか? 以前に聞いた話では、ここからエルフ王国に行くには、通常は二年ちかくかかると言うじゃないか。二年もアルカナ王国を留守にするわけにはいかない」 


「そうですね、普通に陸路を通っていけば、それくらいかかります。ですが、エルフの遺跡にある転送装置を利用すれば移動時間を短縮できます。転送魔法の使える陛下でしたら、仮に遺跡の転送装置が故障していたとしても、転送先を示した魔法陣さえあればエルフの国まで全員を転送できます」


「そうだな。転送装置のありそうな遺跡は、アルカナの近くにあるのか?」


「はい。実際に行って確かめたわけではありませんが、古文書の記録で読んだことがあります。それによれば、アルカナ王国の北にあるエニマ王国の、さらに北に広がるバーナブル山脈の麓に遺跡があるらしいのです。その近くにはダンクという町があります。まずはダンクの町へ行き、そこで遺跡の情報を集めましょう」


「なるほど。今のところ差し迫った用事もないので、他の部下たちと共にその遺跡へ行ってみよう。そこに転送装置があれば、一緒にエルフ王国へ里帰りしようじゃないか」


「はい、陛下がそれで宜しければ」


 そういうことで、俺はいつもの部下たちを連れてエルフ王国へ向かうことにした。まずは転送装置があるとされる古代遺跡を探すため、バーナブル山脈の麓にあるダンクの町を目指すことにした。


ーーー


 ダンクの町はアルカナより北方に位置するうえに標高も高い。季節はまだ晩秋だったが、いつ雪が降ってもおかしくない寒さだった。


 アルカナ王国は比較的南に位置するため、ほとんど雪が降ることは無い。降ってもチラつく程度であって、積もるほど雪が降ったことはない。


 ダンクの町に到着したのは日も暮れてからのことだ。町は山の麓にあるため、坂と階段が多い。そのため馬車で直接宿へ乗り付けることはできず、坂道の下にある厩舎に馬車を預けて坂道を歩いて登り、宿に着いた。


 道中、何日か野営が続いた疲れもあって、俺たちは食事を済ませると早々に寝てしまった。翌朝、目が覚めてみると、外はすっかり雪景色になっていた。雪が朝日を受けてキラキラ輝き、一面に真っ白な情景が広がる。


 朝食の後、俺たちはダンクの町で遺跡に関する情報を集めることにした。さすがに寒い。俺たちは寒冷地用のコートを着て外へ出た。吐く息が真っ白になって広がる。まるで煙のようだ。冷気が鼻を刺し、なんだが鼻毛も凍ってきたような気がする。


 この寒さの中、サフィーは相変わらずのビキニアーマーである。


「なんじゃ、アルフレッド。分厚いコートなど着て、おぬし、軟弱じゃのう」


「いや、雪の中で裸みたいな恰好をしている方が、どうかしてるぞ。というか、その姿をみたら町中の人が驚くぞ」


 アルカナで生まれ育ったキャサリンは生まれて初めて雪景色を目にしたに違いない。真っ白な景色を見て、さぞ喜んでいるかと思いきや、不機嫌である。


「寒い、寒いですわ。お兄様ったら、よく平気でいられますわね。鈍感なのかしら」


「文句を言うなよ。だから、ついて来るなと言っただろ」


 キャサリンは、寒さが大の苦手のようだ。服を何枚も重ね着したうえに、分厚いコートを羽織っている。着ぶくれして、まるでダルマのように丸くなっている。そこへアネスがやってきた。アネスも寒いのが苦手らしく、キャサリンに負けず劣らず着ぶくれしている。朝に弱いアネスはまだ半分寝ぼけているようだ。そんなアネスが、ちょこちょこ歩いてキャサリンにくっついて来た。 


「キャサリンお嬢様って、寒がりなのですね。私も寒がりなのです。お似合いなのです。寒い時は二人で一緒にくっつけば、暖かくなるのです」


「ちょっと、あんまりくっつかないでよ。バランスが崩れるじゃないの」


「えへへ、キャサリンお嬢様・・・」


「あっ・・・」


 アネスがぶつかった拍子に、キャサリンが雪で足を滑らせた。バランスを崩したキャサリンがアネスにしがみ付いたので、二人とも派手に転んでしまった。ここは坂道の上である。丸々と着ぶくれしたキャサリンとアネスは、そのまま雪の坂道を転げ始めた。


「きゃあ、誰か止めてえ」


「あーわわわわ、目が回るのです」


 俺は驚いて叫んだ。


「ヤバイぞ、止めろ」


 一度転がり始めると、どんどん速度があがって、追いかけても追いつかない。坂道をどんどん転がり落ちてゆく。二人の体は転がるうちに雪がどんどんくっついてさらに丸くなり、いよいよ巨大な雪玉になってきた。二人はそのまま坂の下にある建物の方へ転がって行った。


 建物は冒険者ギルドだった。ギルドマスターが朝の訓示をしていた。


「えー、本日は、今年初めての雪になりました。例年、最初の雪の日には足を滑らせて坂を転げ落ちる馬鹿者がいるので、冒険者の皆様も、くれぐれもご注意ください」


 そこへ、窓ガラスをぶち破ってキャサリンとアネスが飛び込んで。そしてギルドマスターの背中を直撃すると、そのままカウンターの奥へ突っ込んで棚をぶち壊した。あたりに大量の雪が飛び散り、部屋が雪だらけになった。ギルドマスターは腰をやられて倒れたままだ。ギルド内は騒然となった。


 着ぶくれしたキャサリンとアネスが、目を回しながら、ふらふら立ち上がった。


「ちょっと、あんたが悪いのよ。アネス」


「ご、ごめんなさいなのです」


 少し遅れて俺たちは冒険者ギルドに駆け込んだ。俺は腰をやられたギルドマスターに、さんざん平謝りして許してもらった。もちろん、窓ガラスと部屋の備品は弁償である。俺はギルドマスターに言った。


「部屋をぶち壊しておいて、こんなことをお尋ねするのもなんですが、この近くの山にエルフの古代遺跡があるとの噂を耳にしたのです。どなたかご存じの方はおられないでしょうか?」


「おお、私が知っていますよ。かなり山の上の方ですけどね。一年中雪に閉ざされてます。以前にここらの冒険者が遺跡を調査したことがありますが、めぼしいものは見つかってないですね。それに、あの遺跡には妙な噂がありましてね、あまり人が近付きたがらないのです」


「妙な噂ですか」


「はい。何でも妖怪『雪女』が出るんだそうですよ。その雪女というのが、気に入らない人間がいると、その人間に呪いをかけてカチカチに凍らせて、自分の家の周囲に飾っているんだとか。なんでも、雪女の誘いを断ると機嫌を損ねて呪われるらしい。だから、もし雪女に会ったら、とりあえず雪女の言う事に従っておいて、隙を見て逃げたら良いらしい」


 雪女なんて居るわけ無いだろと思ったが、ここは何でもありの異世界である。貧乏神だって現れたくらいだから、用心するに越したことは無い。


「ありがとうございます。ところで、遺跡の場所を示した地図のようなものはありますか」


「ああ、あるにはあるが、山奥は雪が深いし道もないから、あまり役にはたたないだろう。いちおう、目印になる山や岩が描いてある程度だ。なんなら貸してやるよ」


「それでも十分に役立ちます。ありがとうございました」


 俺たちは冒険者ギルドを後にすると、宿に戻って装備を整えた。ここから先の行程では馬車は使えない。荷物を背負い、山へ向かって登り始めた。積もった雪で道はすぐにわからなくなった。地図に示された山の形から向かうべき山に見当を付けると、山麓を上って行った。


 幸いなことに天気は良い。日差しが雪に反射してまぶしい。山麓の斜面には樹高の高い針葉樹が無数に立ち並んでいる。どの樹木もたくさんの雪ぼうしを被っていて、どきどき、その雪がザーッと音を立てて落ちる。木々の間には、ところどころに雪に埋もれた岩が顔を出している。


 カザルの故郷は山の中にあり、雪山にも慣れているというので、カザルを先頭にして雪山を登ることにした。しばらく進むと視界の開けた場所に出た。朝からずっと上り続けてきた俺たちは、ここで休憩することにした。


 水、水といいながらリュックから水筒を取り出したキャサリンが騒ぎ出した。


「なによこれ、水が出てこないわ。水筒の水が凍ってしまったのね」


 カザルが雪の中をキャサリンに歩み寄って言った。


「お嬢様、あっしの水を分けてあげましょうか」


 キャサリンはカザルからコップに水をわけてもらうと、一口飲んで言った。


「ありがとう。へえ、あんたもいいところあるわね。ところで、カザルの水筒の水はどうして凍らずに済んだのかしら」


「へっへっへ、水筒を俺の腹のところで、ずっと温めてたからですぜ」


「想像したら、なんだか急に飲みたくなくなりましたわ」


「なんでぇ、人がせっかく親切でわけてやったのに、ひでえなあ」


 そういうとカザルは少しばかり歩き、近くの木の幹に片手で寄りかかるとキャサリンに向かって言った。


「山に向かって『ヤッホー』って叫ぶと、ヤッホーってやまびこが応えるんですぜ」


 そういうとカザルは、思い切り息を吸い込んで、両手を口に当てて大声でヤッホーと叫んだ。すると頭上の枝から大量の雪がドドッとカザルの上に落ちてきて、カザルは首まで雪に埋もれてしまった。それを見たキャサリンがカザルを指さして大笑いした。


「おーほほほ、カザルったら相変わらずのお間抜けさんですわね。木の近くで大声を出すから雪が落ちてくるのよ。やまびこなら、わたくしも知っていますわ。こんどはわたくしがやって見せますから、よく見ていなさい」


 キャサリンは樹木の少ない場所に来ると、大きな声でヤッホーと叫んだ。そして両手を耳に当てると耳を澄ませた。何も聞こえない。もう一度、さらに大きな声でヤッホーと叫んだ。耳を澄ませた。ややおいて、山の上の方から、やまびことは明らかに異なる音が聞こえてきた。地鳴りである。


 カザルが青い顔で言った。


「・・・な、雪崩だ。キャサリンお嬢様の大声で、雪崩が発生したらしい。しかも相当デカい雪崩だ。どうする」


 俺は驚いて言った。


「キャサリンの声で雪崩が発生したのか、まずいぞこれは」


 アルカナで生まれ育ったキャサリンは雪崩を知らない。キャサリンはカザルに訊いた。


「え? え? 雪崩ってなによ?」


「山に降り積もった大量の雪が一気に崩れて、山の上から流れ落ちてきて、木も岩もすべて押し流してしまう自然災害ですぜ。これはまずい、もうそこまで押し寄せてきているぞ」


「ちょっと、わたくしのせいじゃないですからね。やまびこのせいだわ、やまびこが雪崩を起こしたんだわ」


 俺は大声で叫んだ。


「サフィーのバリアで防ぐしかない、皆、サフィーの近くへ行け。サフィー頼むぞ」


「あっはっは、われにまかせよ。それ・・・」


 俺たちは必死に雪をかき分け、サフィーのそばに寄る。


 小山のような雪煙を巻き上げながら雪崩が押し寄せてきた。サフィーが両腕を前方に突き出すと、素早くバリアーを展開する。その直後、前方から凄まじい勢いで流れてきた雪の塊が、次々にバリアーに激突し、腹の底に響くような不気味な衝撃音をたてて四散する。あたりは雪煙がもうもうと舞い上がり、風が渦巻いて息もできないほどだ。キャサリンとアネスが悲鳴をあげて、頭を抱えている。


 雪崩が通り過ぎてしばらくすると、ようやく視界が晴れた。根元からなぎ倒された大きな木が、目の前に数本、転がっていた。


 サフィーが言った。


「ふう・・・なかなかの衝撃だったのじゃ。おかげで魔力を消耗して腹が減ったぞ」


 俺はあたりを見回しながら言った。


「すごかったな・・・こんな雪崩をまともに食らっていたら、完全に死んでいたな」


 キャサリンは半分むくれて言った。


「お兄様、わたくしのせいじゃありませんからね、やまびこのせいですわ」


「わかったわかった。気にしていないから大丈夫だ」


 アネスがニコニコしながらキャサリンに向かって歩いて来た。なんだかうれしそうだ。両手で口元を押さえながら、くすくす笑っている。


「えへへへ」


 キャサリンが怪訝そうにアネスを見た。


「な、何よ、何がおかしいのよ」


「だって、キャサリンお嬢様ったら『トラブルメーカー』なのです。私も天界では『こんなトラブルメーカー見たことない』って言われてたけど、キャサリン様の方が私よりもっと酷いのです。私だけがトラブルメーカーじゃなくて、良かったのです」


「なんですってアネス。変なこと言うと、雪の中に埋めるわよ」


「あわわ、それは困るのです」


 俺たちは再び山を登り始めた。それからしばらくは何事もなく順調に進んだ。標高が高くなり、木々の数も減ってきた。日も傾いて来た。俺は地図を見ながら言った。


「もうずいぶん登って来たな。そろそろ目印になる岩があるはずなんだが。双子岩・・・二つの大きな岩が並んで立っているらしい。そこから西へ向かうと書いてある」


「あ、あれがそうではないですか」


「おお、恐らくそうだな。よし、ではここから西へ向かうとするか」


 カザルが空を見上げながら言った。空には黒い雲が広がりつつあった。


「雲行きが怪しくなってきやしたぜ。これは吹雪になりそうです」


「本当か、それじゃあ急ごう。日が暮れるまでに、野営できそうな場所を見つけるのだ」


 間に合わなかった。野営地を見つける前に、俺たちは猛吹雪に巻き込まれたのである。


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