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1-2 この木何の木

この世界の名前は『ナートメア』というらしい。なーとめあ?ナイトメアのことかな?英語で悪夢という意味だ。何の捻りもなく、そのまんまだよ。きっと名付けた人は英語圏の人に違いない。

「あ〜、前世の不幸話しめっちゃオモロいわ。他にもっとないの?」

死んでしまうより不幸な話なんてないよ。

『あ、あの、私の話よりこの世界のことをもっと教えて欲しいの。あなたは誰なの?私は木に生まれ変わってるの?このナートメアって悪夢みたいな怖い世界なの?』…………

「うわー、めっちゃ色々聞いてきて面倒いー。まぁ、面白い話を聞かせてくれたお礼に少しは答えたるわ。アンタは木で間違いないで。しかもこの世界に存在しない異世界の木や。」

『異世界の木?異世界の木って何?』

「そんなん知らんわ。ともかくこの世界には無い木やで。何の力もないっぽいし。普通のこの世界の木は魔物に食べられんように『契約益魔虫』とか『精霊の守護』とか自衛の力を持って生まれてくるねん。アンタ……ノーガードやで。」

衝撃の事実だ。私は異世界にノーガードで転生したようだ。しかも木だよ。

『……どうしよう?』

「どうしようもあらへんよ。精々、命あるうちにこの世界を楽しむんやね。それじゃ、うちはもう行くで。これでも忙しいねん。バイバイー。」

『えっ、ちょっと!!まだ聞きたいことがいっぱいあるのに待って。』

…………。

返事はもうなかった。

関西弁少女の正体は結局何も分からなかったし、聞きたいこともほとんど聞けなかった。分かったことは、私はノーガードで魔物にいつ食べられてもおかしくない異世界の木で、この世界は『ナートメア(悪夢)』ということだ。フワフワした光の中、私の意識は次第に薄れていく。凄く眠い。


どのくらいの時間が経ったのだろうか。気がづくとフワフワとひた光は消えていて、その代わり真っ暗な闇の中、赤、青、金、銀の4色の無数の光が不規則にキラキラと輝いては消えていく。凄く美しい光景だった。もしかして、木として生まれた私は魔物に食べられてしまって、また新たに転生したのだろうか。

「ねー、きこえる?」

突然、また声が聞こえた。凄く幼く可愛らしい声だ。

『……聞こえてるよ。あなたは誰?』

「ママー、きのあかちゃんおきたよ。」

きのあかちゃん?木の赤ちゃんかな。木の私はまだ生きているようだ。そして赤ちゃんなんだ。新しい事実だわ。

「ずっとまってたの。ぼくたべなかったよ。ママとのやくそくあるから。ほめて?」

うん?この可愛らしい声は私を食べたいの?ママが来たら食べるつもりなのかもしれない。

『えらい!!食べなくてエラかったよ。カッコいい!!最高!!』

私は食べられないように必死で褒めた。

「ぼく、えらいでしょ。ぼく、おおきくなったら、ぬしになるんだ。だから、いっぱいたべておおきくなるんだ。」

『私のことも食べたいの?』

「ママとやくそくしてるから、まだたべない。ママがいいよっていったらたべるの。」

私の命はママ次第のようだ。ママがいいよ、と言えばバクッと食べられてしまう。

そのとき、キラキラと輝いていた光がその瞬きを止めその場に硬直した。

今までに感じたことのない圧力を感じる。自分の存在が小さく圧縮されてしまいそうだ。そのぐらい大きな力を持った存在が近づいてくる。

「ママー、ぼく、やくそくまもったよ。」

「まぁ〜可愛い坊や。なんて賢いの。ママとの約束を守れて偉いね。カッコいい!!最高!!」

私と褒め言葉が丸かぶりである。ボキャブラリーの少なさに親近感を覚えた。

「初めまして、珍しい木さん。私はこの森を管理している森のヌシ。少しお話ししませんか?」

話し言葉は丁寧だが、凄いプレッシャーだ。私は力を振り絞って答えた。

「わ、私はこの世界に生まれて間もないようで、分からないことだらけです。何も分からないまま死にたくないので、どうか、どうか食べないでください。」

私は必死にお願いした。力のない私には願うしか方法がない。

「そんな怖がらないでも大丈夫よ。まだ、あなたを食べたりしないと約束しましょう。あなたが大きくなるまで、この森に住む魔物や魔虫達と見守りましょう。」

『!!!!大きくなったら、食べるんですか?』

「そうですよ。皆んな食べたがっていますから。まだ小さ過ぎて分け合うこともできないし、このままでは争いに発展して森が荒れてしまいます。だから、早く大きく育って下さいね。みんな待ってますよ。」

とても優しく酷いことを言われた気がする。この森のヌシは、まさに高級食材を大切に育てて出荷する農家だ。私は出荷される食材の気持ちを少し理解した。

「ママー、おおきくなるのいつかな?あしたかな?」

「珍しい木だからママにも分からないの。でも、とても良い匂いがするから美味しいと思うのよ。皆んながいっぱい食べられるように大きく育てましょう。」

私は何の木なのだろう。もし実がなる木なら命までは取られないだろうか。

「珍しい木さん、あなたは何の木なの?」

『自分でも分からないんです。もし私が実を付ける木なら、実だけを食べてくれませんか?』

「……あなたの様な木に出会うのは初めてです。いいでしょう。あなたが実を付ける木ならば、その葉や幹や枝を決して傷つけません。でも、もしそうでなければ根っこの先まですべて頂きますよ。」

少しは希望は繋がったかな?できれば林檎とか蜜柑の木だといいな。森の皆んなに大切にされて、美味しい実を食べてもらって皆んな幸せだよ。

『分かりました。ところで森のヌシさん、あなたは魔物なのですか?私、本当に何も知らなくて。この世界のことを教えてくれませんか?』

「ねー、ママ。このきへんだよ。しりたがりのきなんて、ぼくしらないよ。もうたべようよ。」

私、何か変なことを言ってしまったのだろうか?どうしよう、食べられちゃう?

「坊や、珍しい木さんが怯えているわ。知りたがりの魔物の木は知っているけど、木にもいるのかもしれないわよ。珍しい木さん、私が知っていることなら教えてあげます。今は、まだ見えないけれど少し成長すれば目も見えるようになるでしょう。その時、私についてもお話ししましょう。」

最後まで読んでくださりありがとうございました。

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