どうしてベッドの上なのでしょう
「まあゆっくりしていけ。ほら、お茶入れてやったぞ」
「ありがとうございます……」
レヴィン様、もといレヴィン公爵様は私を歓迎してくれました。
お茶まで入れてくださって、とても手厚い歓迎です。
ですが、どうしてベッドの上でお茶を飲んでいるのでしょうか。
私もベッドに上がっておりますが、少し恥ずかしいです。
部屋は薄暗いですし、どうやらレヴィン様のひとり暮らしのようですし。
なんだか初夜のようで……。
いや、それは私の考え過ぎです。
私の思考がちょっとあれなだけです。
反省しなければなりませんね。
「えーと、イレミスだっけか。お前、確かアルト男爵と婚約したんじゃなかったのか?」
「ご存知なのですね。びっくりです」
「そりゃあ、男爵のとこに名家の聖女が嫁ぐなんて珍しいからな。貴族の間では噂になってたわ」
「名家……ですか」
私の家は確かに名家です。
しかし、才能は私に引き継がれなかったようですが。
「あ……もしかして地雷だった? すまねえ、寝起きであんま頭回ってないんだ。不快にさせたのならすまん」
「いえ、構いません。……事実でございますから」
そう言うと、レヴィン様は気まずそうにします。
「なら、ここにいるのもそういう理由でか?」
「……はい。お恥ずかしいお話ですが」
目を合わせることができませんでした。
私のような落ちこぼれが貴族様とお話すること自体おかしいのです。
「おい、ちゃんと目を見ろよ」
「は、はへ」
頬を引っ張られ、無理やり目を合わされました。
宝石のような瞳が、また私を貫きます。
彼の瞳は苦手です。
なんだか、全てを見通していそうで怖いのです。
「ならお願いがある。俺と結婚してくれないか」
「け、け、け結婚でございますか!?」
「お、急に元気になったじゃないか」
「元気というか驚きで……! すみません、失礼しました」
ですが結婚って……。
レヴィン様は一体何をお考えなのでしょうか。
「見たから分かっていると思うが、俺の国はもう限界なんだ。そこで聖女のお前に力を貸してほしい」
聞いたところによると、この国では農作物が育たず国民は飢えてしまっているらしい。
周辺国からの支援もないため、ほぼ孤立してしまっている……と。
「嬉しいお話なのですが……私には聖女の才がないのです。なので、国民を救うなんて私には……」
「聖女の才がない? お前がか?」
「はい。私には聖女のような力が発揮できないのです」
「……それはおかしいな」
レヴィン様は不思議そうに首を傾げました。
私も倣うように首を傾げます。
どうしてそこで首を傾げる必要があるのでしょうか。
イレミスには聖女の才がない。それで終わりなはずなのですが。
「お前って……あれのこと知らないのか?」
「あれのこと……? どういうことですか?」
そう尋ねると、レヴィン様は頭を抱えます。
そして、面倒くさそうに私をじっと見据えました。
「聖女の覚醒条件だよ。アルフォートのじいさんに教えてもらってないのか? いや、教えてもらえなくても姉妹からとかさ」
「え、え? どういうことですか?」
「なぁ。お前、もしかして家族に……いや、いいか。これも地雷だよな」
「地雷って、あの。私なにか……」
「いいんだ。とりあえず、お前が男爵に嫁がされた理由が分かった」
そう言って、だるそうにレヴィン様は立ち上がって私の方をじっと見据えます。
唇を噛んだ後、頭をかきながら苦笑します。
「聖女の覚醒条件は、キスなんだ」
「え?」
聖女の覚醒条件なんて初めて聞きました。
それよりもキス……?
キスってなんですか?
いや、もちろん意味はわかりますけれど。
「聖女の覚醒条件がキスなんて……ありえないですよね?」
「お前には申し訳ないが、本当だ」
ということは、聖女に覚醒している人はもれなく――キスを……。
なんということでしょう。な、なんということでしょう。
「いいか。大事なのは深呼吸だ」
「ちょ、ちょっと待ってください! 今から、今からするのですか!?」
「俺はお前のことが昔から好きだった。それで問題はないだろ」
「問題ありまくりです! っていうか私のことを好き!? 大丈夫ですか!?」
「大丈夫ですかって……あのなぁ、俺も一応貴族なんだぞ? 貴族に向かってよく『大丈夫ですか!?』って言えるな」
レヴィン様が呆れながら言います。
ですが、突然好きだと言われても心の準備が……。
「いいから黙ってキスされとけ」
「ちょ、ちょっと――」
その瞬間、レヴィン様が私の体を包容しました。
そして、私の口に……その、キスをしたのです。
驚きというか、なんというか。
私は誰かにキスをされる経験なんてなくて……。
しかも一応幼馴染らしいですが、私の記憶には一切ないお方なのですよ!
……でも、悪くはなかったです。
…………あれ?
瞬間、私の胸が熱く苦しくなりました。
まるで何かに焼かれているようです。
「い、いたっ……」
「おい! 大丈夫か!?」
私は胸を抑えながらベッドで悶ます。
まだ床じゃないぶん楽ですが、それよりも……苦しい……。
い、意識が……。
「おい! おい――」