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婚約破棄

 私は残念ながら落ちこぼれでございます。

 聖女の一族の生まれでございますが、聖女になれなかった落ちこぼれなのです。


「君との婚約は破棄させていただく。聖女ではない者は必要ない」

「アルト様……私が落ちこぼれですものね。分かっております」


 男爵家の令息であるアルト様と私、イレミスは婚約のお約束をしていました。

 ですが、それは私に聖女の血筋だったから。


 蓋を開けてみれば、聖女の力なんて微塵もない落ちこぼれだったのです。

 真実の愛を見つけたからとフォローを入れてくださっていますが、事実はきっとそうでしょう。


 だって、彼の隣に立っているのは私の幼なじみなのですから。

 私と同じ聖女の血を引く者。


 そして、私とは違って聖女の才能があった者。

 貴族様の中では、強い聖女をお嫁にした方がパーティーでお自慢できるらしいですから当然のことです。


「イレミス、ごめんね? 私、あなたの婚約者さんを取っちゃった」

「ははは。いいんですよ。お似合いです」


 乾いた笑い声しかでなかった。

 身なりも私より幼なじみの方が綺麗だ。


 綺麗なフリルがあしらわれたドレスを綺羅びやかで、じっと見ていることができないくらいに輝いている。

 私が着たら、きっとだらしない物になるのでしょうけれど。


「それでは、お世話になりました。リーン様もお幸せに」


 私はとぼとぼとお屋敷を後にしました。

 もちろん、行く宛なんてありません。


 今更実家に帰っても、門前払いされるだけでしょう。

 そんなこと分かりきっております。


 公爵領で一番大きな街に行き、馬車に乗せてもらうことにしました。

 どこか遠くの辺境で、のんびり一人で暮らすことにしたのです。


 偽物の聖女が大きな街にいたら笑われてしまいます。

 それに、この領地にいるとアルト様にもご迷惑をおかけしてしまうでしょうし。


 ゆらりゆらり揺られ、何度も馬車を乗り換え。

 いつの間にか知らない土地に来ていました。


「あの、ここはどこでしょうか?」

「……ここはリーン公国だ。おらは仕事で忙しいからそれじゃあな」


 やせ細ったおおじい様がそうおっしゃいました。


 リーン公国……知らない国です。

 どうやら無事、目標の辺境に移動することに成功したみたい。


 去っていくご老人を見ながら、私はぐっと伸びをしました。

 ここなら聖女という役職を引きずることなんてないでしょう。


 自由……とまではいきませんが、のんびり暮らせます。

 後はそうですね……やはりお金が必要です。


 働くとなれば、まずはお役所に行ってみましょう。

 大抵の求人はお役所に集まると聞いています。


 農地が多いように見えますから、きっと力仕事が主になってくでしょう。

 力にはあまり自信がないのですが、やるしかありません。


 ◆


「お役所……なのでしょうか?」


 歩いてみたものの、大きな建物なんて一つしかありませんでした。

 それこそ小さな街ですから間違いなくここがお役所だと思うのですが……。


「なんだかお屋敷のように見えますね」


 まるで誰かの家みたいです。

 ですが、私には行く宛なんてありませんので誰かに頼ることしかできないのは事実。


 意を決してドアを叩くことにしました。


 ――コンコンっ


 軽やかな音が響きます。

 しばらく待っていると、足音が聞こえてきます。


 だんだんと近づいてきているようで……。

 良かったです。お留守ではないようで――


「あー! 誰だよこんな時間に! 俺はオネムの時間なんだが!?」

「は、はへ……」


 思わず変な声が出てしまいました。

 眼前には、ボサボサの髪にパジャマ姿の男の人がいます。


 ですが、目の色はサファイアのように美しく輝いていて思わず見とれてしまいました。

 ちなみに今はお昼です。


「ああ……? なんだお前、見慣れない顔だな。……いや、どこかで見たか?」


 男の人はそう言うと、ぐっと顔を近づけてきました。

 私の顎をくいっと上げて、さながら少女小説のような状態になっています。


 あわ。

 あわわ。

 あわわわ。


 宝石のような瞳が私をじっと見据えてきます。

 意識が吸い込まれてしまいそうで、私はぐっと唇を噛みました。


「あ、お前アルフォートの娘だろ。どうして聖女がこんな貧乏国家にいるんだ?」

「私……あなたと会ったことがございましたでしょうか……?」


「あるある。だってアルフォートのじいさんと俺の親が仲良くてな。小さい頃お前と遊んでた。懐かしいなぁ、まったくお前は変わってないようで安心だわ」


 どうやら私のお父様とのお知り合い……どころか私の幼なじみに当たるお方らしいです。

 ですが、いくら考えてみても思い出せません。


「あれ、もしかして俺のこと覚えてない?」

「えっと……はい……」


 そう返すと、あからさまに面倒くさそうに頭をかいていました。

 なんだかだらしないお方です。


「俺はレヴィン。リーン公国を治めている貴族だ」

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