コント『未来からの使者』
男:ツッコミ
使者:ボケ
〇ファミレスで一人の男がメニューを見て悩んでいる。
男「どれにしようかな。無難にデラックスハンバーグセットか、それともチキングリルステーキセットか……。よし、今日はチキングリルステーキセットにしょう」
〇そこへ、未来からの使者が勢いよく駆け込んできて男を制する。
使者「ちょっと待った!」
男「え、なになに?」
使者「……はあ、はあ、よかった。間に合った。あなたは、チキングリルステーキセットを頼んじゃダメなんです!」
男「は? 俺が何を頼もうが勝手でしょうが? なんなんですか、あなたは」
使者「いいですか? 吉岡さん、落ち着いて聞いてください」
男「なんで、俺の名前を?」
使者「私は、三百年後の未来からやってきたんです」
男「はあ? 未来から? あなた、いったい何を……」
使者「私は、未来からやってきたエージェントなんです! いいですか? あなたが今日この時間にこの場所でチキングリルステーキセットを頼んでしまうことによって、三百年後の未来では、地球が滅亡の危機に陥っているんです!」
男「チキングリルステーキセットを頼んだくらいで?」
使者「私はそれを阻止しに来ました」
男「いや、俺がチキングリルステーキセット頼むくらいで地球が危機になるわけないでしょ? 何を言ってるんですか、さっきから」
使者「吉岡さん、信じられない気持ちは理解できます。でも、よく聞いてください。いいですか? 今、あなたがここでチキングリルステーキセットを頼むと、店員があなたに和風ソースかガーリックソースかの選択を迫ってくる。そこであなたは和風ソースを選びます。これは既定路線です。そのあと、店員はセットのライスの分量を聞いてきます。今日のあなたはお腹が空いているので大盛りを選ぶ。店員が注文内容を繰り返し、厨房にオーダーが通る。すると、厨房ではコックがあらかじめグリルしたチキンを焼き始めてしまう。外はカリッとさせ、中の旨味をしっかり閉じ込めるようにね。さらにコックは焼き上げたチキンをすぐさまアツアツのテッパンに盛り付ける。そう、ブロッコリーとフライドポテトを添えて……。そしてコックはオーダー通りに和風ソースを……」
男「いや、もういい! そのペースで説明してたら三百年経つのにどれだけかかるんだよ! 外はカリッと中の旨味を閉じ込めるように焼き上げるって宣伝文句みたいなことまで言ってたけど」
使者「いいですか? 吉岡さん! 未来とは、小さな出来事の積み重ねで成り立ってるんです!」
男「それはそうだろうけど、限度があるでしょ! 大体、あんたが未来から来たなんて信じられるわけがないだろ。店員さーん! チキングリ……」
使者「やめろー! どうしても信じてくれないというなら、分かりました。証拠を見せましょう。これです!」
〇使者、男に手帳のようなものを見せる。
男「なんだ、これ?」
使者「時空間パスポートです。未来では、誰でも過去や未来を行ったり来たりできるわけではありません。難関試験を突破してこのパスポートを発行されたものだけが時空間を移動できるのです」
男「……時空間移動特別許可証、世界危機回避特命エージェント、吉岡一郎。……吉岡?」
使者「はい。私は、三百年後のあなたの子孫なんです」
男「子孫?……いや、でも、まだあなたが未来から来たっていうのは信じられないな」
使者「お願いです。未来で、妹に約束したんです。必ず、地球を救ってみせるって……。あなたに注文を変えさせるために、厳しい訓練も積んだんです」
男「そんな使命感じるほどのことでもないだろ、注文変えさせるくらい。あと、どんな訓練だよ。……まあ、別にそこまでチキングリルステーキセットを食べたいわけでもないし、第一、腹減ってしょうがないや。わかったよ、あんたの言う通り、デラックスハンバーグセットの方にするよ」
使者「本当ですか? ありがとうございます! これで、未来の皆に良い報告ができます。あなたは三百年後の未来で、地球を救う大きな決断をしてくれた英雄として語り継がれることでしょう」
男「いや、チキングリルステーキセット頼まなかっただけだけどね」
使者「それでは、私はこれで。もうあと十秒もすれば時空が歪み、未来へとタイムスリップして私はこの場から消えます。そして、未来人である私と接触したという記憶も、あなたの中から消えてしまいます。口外してしまうと、未来がまた変わってしまう恐れがありますからね。過去で接触した人物の記憶を消す決まりになってるんです。……もう、あと三秒」
男「え、ちょっと待って、記憶消えるんでしょ? 俺、まだデラックスハンバーグセットを頼んでな……」
使者「二、一」
〇時空が歪み、使者が消えていく。
男「……あれ? なんだろう。何か変な感じするな。おかしな夢を見ていたような。ま、いっか。腹減ったな」
〇男、店員に向かって……。
男「すみませーん! チキングリルステーキセットひとつ!」