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苦手な方はご注意ください。

色の無い夜に・Colorless night

俺と君の形~佐伯ヶ原episode~色の無い夜に・Colorless night外伝  

作者: 兎森りんこ

Twitter

フォロワー様1000人越え企画で

短編要望の声が1位でしたので書いた記念のお話でございます!



 ――ただの形だ。



 俺の名前は佐伯ヶ原亜門。


 水環学園2年2組

 美術部部長



 あの人を初めて見たのは

 高校の入学式だった。


 俺はそれまでは

 物心ついてから

 絵を描くことに没頭し

 絵描くことに専念し

 絵を描けばコンクールにも入賞は間違いなし

 天才現る、賛美の嵐

 そんな人生だった。


 と言ってもまだ16年。


 とは言っても16年が全て。


 絵が俺には全てだった。


 アウトプットばかりしてた俺の心に

 深く突き刺さる出来事


 それが

 咲楽紫千玲央との出会いだ。


 俺は特殊な才能が

 もう一つあって

 ありとあらゆる術が効かない。


 カースブレイカーという能力がある。


 玲央は呪われていて

 その美しさに誰も気が付かないようだ。


 それでいい。

 みんな気付かなくていい。


 俺だけの美しさだ。


 彼は、憂いに満ちた顔をする。

 切なそうな、寂しそうな

 呪いのせいだろう。


 それでも彼は

 図書愛好会なんかに出入りをしたり

 何かと誰かのために働いている。




 梅雨時期

 雨が降っていた。


 薄暗い、図書室で絵の資料を探していた。


 俺は背が低い。

 コンプレックスとは思わない。


 形がそうなだけだ。


 ただ、高い本棚の本は取れない。


 無人の図書室。


 踏み台を探しに行くか……と溜息をついた時


「どれですか?」


 横に感じた気配。


 俺も一応

 白夜団の団員。

 戦闘力の低さは自覚しているが、気が付かないとは。


「あ……」


「取りますよ?」


 咲楽紫千玲央。


 濃いまつ毛が揺れる笑顔。


 こんなにも近い距離に

 咲楽紫千玲央がいる。


「……? すみません、余計なお世話でしたか」


「いえ、あの、お願いします」


 声がうわずってしまった。


「どれですか?」


「あ、その鉄道の……」


 軽々と、咲楽紫千玲央は俺の手に

 本を持たせてくれる。


「カウンターの方にも踏み台あるので使ってくださいね」


「はい、ありがとうございます……」


「いえ」


 1分か、2分もあったか

 それだけのやり取り。


 でも俺はそのシーンを網膜に、脳みそに焼き付けた。

 何枚

 その時の玲央をデッサンに描いたか。


 何度か図書室に通って

 俺は本を読むふりをして

 藤堂美子の手伝いをする彼を見つめた。


 そして

 またカンバスへと彼を描き写す。


 巨大なカンバスも俺のアトリエに設置してもらった。



 夏に

 図書愛好会から図書部になる前の

 一大花火イベントがあった。


 夜のイベントという事もあって

 野次馬が最初は群がったが

 テレビの取材も入ることになり、内容的にはかなりお硬い。

 参加者はレポートを提出するのが決まりだったので

 軽薄な連中は参加しなかった。


 俺も参加しなかった。


 ただ、その日は絵を完成させるためと許可をとって

 学校に居残っていたのだ。


 美術部から

 校庭が見えた。


 また彼はあっちこっちへと走り回り

 誰かの為に動いている。


 いや、藤堂美子のためか――。


 そんな事をしても、何も報われない


 藤堂美子とは白夜団の会合で、顔を見た事はあるが

 特に話した事もない。

 あの顔を見れば、玲央の兄の咲楽紫千剣一に恋をしているのは一目瞭然だ。


 誰かが誰かに恋をして、それが叶う事を望んでいる。



 皆が花火をしているのを、裏方で働いて

 自分は見守るだけの玲央を、俺は見ていた。



 花火が映った、あの瞳は美しいだろう――。


 俺はその姿を、またデッサンした。




 俺が俺という形をしている事も

 玲央が玲央という形をしている事も


 ただそこに存在している事実。


 ただの形なのに、何故かそこに

 この形と、この形は適合しないという法則が一般的にはある。


 美意識だけでは、飛び越える事はできない。


 だけど俺は

 彼が、その形で美しいから惹かれているのだ。


 俺もこの形で生まれたからこその、心の形で俺なんだろう。


 よくわからない迷路に紛れ込んだ――。






「うわ!!」


 凍りついた氷の上に、雪が乗っていて

 俺は盛大に転がった。


 運が悪く、持っていた絵の具のセットが散らばって埋もれた。


 俺は特に友達もいない。


 創作の時間が一番大事だから。

 どうも気が合う人間もいない。

 絵を描く人間には僻まれるだけだ。


 だから、帰り道も1人。


 上から舞い落ちる雪が、虚しさを深めていく。

 1人だから虚しいんじゃない。


 絵の具を暗くなる夕暮れに1人で雪の中、手を突っ込んで探しているのが虚しい。


 今回の絵

 アクリル絵の具の黒を大量に使いたいと、買った、あと一本。


 どこへ飛んで行った。


 上質の手袋をしているが、寒いものは寒い。


 諦めようかと思っていた、


「大丈夫ですか?」



 なんだ――。


 薄暗い灰色の空から堕ちてくる白い雪が

 咲楽紫千玲央の艶めく黒髪をまた滑り落ちていく。


 なんなんだ――。


「捜し物……絵の具ですか」


「……あ、はい」


 コートとマフラーをがっちり着込んだ俺と正反対に

 学ランの中にセーターを着ただけの玲央は

 素手のまま、地面の雪を払っていく。


「あ、あの」


「手伝いますよ、まだまだ無いんですか?」


「あ、黒が1本」


「あぁ、はい」



 なんなんだよ――。


 王子様かよ。



「あった、これですか?」


「あ! はい、あ、ありがとございます」


「いえ、じゃあ」


「あの、お礼」


「はは、そんな大げさですよ、じゃあ」


 赤く濡れた手を、彼ははぁ―っと白い息で温めながら歩いて行ってしまった。


 きっと呪いのせいで

 彼に感謝しても、次の瞬間には忘れてしまうんだろう。

 だから、礼など望まないんだろう。


 でも俺は忘れない。


 忘れられない――。





 俺は特殊な才能があって

 ありとあらゆる術が効かない。


 カースブレイカーという能力がある。


 だけど、呪いがかけられてしまった。


 最悪な呪いだ。


 俺の心の形に、かけられた呪い。


 どうしたら、解術できるのか、わからない――。


 カンバスの絵は完成できないまま

 高校生活二度目の若葉の風が吹く。






お読み頂きありがとございました!

感想等頂けると嬉しいです。


本編へは

上のシリーズリンクから飛ぶ事ができます


Twitterもマイページのリンクがありますので

是非

遊びに来てくださいね


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― 新着の感想 ―
[良い点] れおんぬが覚えてないだけで結構接点があったんですね。佐伯ヶ原、好きなキャラなんでどういう視点でれおんぬを見ているのか分かって良かったです。 [一言] ふと気づいたけど本編でもわりと詩みたい…
感想一覧
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