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おまけ 慣れぬお節介など焼くものではない(ノア)

「これ、返すぞ」


 私はタズルナの王宮にある第三王子の部屋で、持っていた手紙の束をテーブルの上に投げた。

 向かいに座っていたメルはそれを見て眉を寄せた。


「卒業試験、通ったのか?」


「当たり前だろ。おかげで首席を譲らずに卒業できることになった」


 私がニッと笑ってみせると、メルはますます顔を顰める。


「そもそも、相手を間違えてる。恋文はロッティに送れ」


「何言ってるんだ。これは呪いの手紙だぞ」


 確かに、今テーブルの上にある手紙には「試験を受けるな」とか「留年しろ」といった文言とともに呪いの言葉や魔法陣のような図柄が並んでいた。あれが魔法陣だとしても、下手くそすぎて効果はないだろうけど。

 最初の2通で読むのをやめたが、それ以降も多分似たり寄ったりの内容だったに違いない。


 それでも、この手紙は紛れもなく恋文だった。


「メルが私を留年させたかったのは、そうすればロッティがまたここに来ると思ったからだろ」


 ちなみに、センティアで留年になるのは特別な理由があると認められた場合だけ。学年末試験で何科目か赤点をとって追試も不合格なら、退学が原則だ。

 そんな厳しい規則が色々ある学校だったため、王子でも許可なく校内に入ることはできず、私は直接呪いをかけられずに済んだわけだ。


「違う」


 メルは真っ赤になって叫んだ。


「こんな手紙を書くよりも、ロッティに素直な気持ちを書いて送るほうがよほど簡単だと思わないか?」


「ロッティに書くことなんか何もない」


「ロッティはきつい性格に見えて情が厚いから、メルに『会いたい』と言われれば無視はできないはずだ」


「別に会いたくない」


「そうか。それなら良いが。……ほら、兄の贔屓目かもしれないが、ロッティはなかなか可愛いだろ?」


 ロッティ自身は「自分は地味だ」と思い込んでいるが、姉上やアリスと比較して、という前提をいつの間にか忘れている。


 メルは頷きかけてやめた。


「これからはどんどん綺麗になっていくだろうし、学園に入って社交界デビューして関わる人間が増えれば、中身も含めてロッティの良さに気づく男も少なくないはずだ。その中に、ロッティを幸せにしてくれる男もいるかもしれない」


 もちろん、コーウェン家の娘だからという理由で近づく不届きな輩もいるだろうが、そのあたりはロッティなら承知しているに違いないし、いざとなれば私が潰してやっても構わない。


 メルの顔色が変わった。


「ああ、メルには関係ない話だったな。とにかく、私は予定どおり卒業式が終わったらエルウェズに帰るが、外交官になるつもりだからいつかまたタズルナに来ることもあるかもしれない。それまで元気で」


 私は立ち上がって出口へと向かった。扉を開ける前に、メルを振り返る。


「そうそう、最後にもう一つ。次に呪いの手紙を書く時は筆跡を変えて、偽名を使うことを勧める。じゃあ」


 誰よりも妹の良さを理解しているはずのメルが、将来、私の義弟になれるかどうかは、これからの努力次第だ。

 正直、大事な妹を任せるには頼りない王子だが、その分ロッティがしっかりしているから大丈夫だろう。

 何より、ロッティもメルのことを憎からず思っているはず。




 数日後、私はメルの王子らしからぬ行動力を軽視して彼を煽ってしまったことを後悔することになる。

 まさか、恋文を預かるのではなく、メル本人をロッティに届けることになろうとは。

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