累肉 その壱
前回からの続きです
「おーい 原稿はもらったか? 」
「まだです! 今から取りに行きます! 」
会社の中は戦場の様に殺気立っている
仕事が無く活気の無い職場に比べれば、普段のミロクには心地よい
普段なら心地よい戦場だが、
最近のミロクは覇気が無く、ため息ばかりついている
「う~、、 なんでこんな事に、、 」
めくらさんの事件から無事東京に戻って来たが
あの事件の後から現実に戻りきれていなかった
あまりにも非日常的な出来事に、体や脳が対応しきれていないのだ
悪霊との遭遇
生命の危機
そこからの無事生還
悪霊
めくらさん
思い出すだけでも体が震える
だが、恐怖の対象だった めくらさんは消滅したのだ
都市伝説を殴るなんて聞いたことが無いが
確かにめくらさんは、ランラン先生に殴られた
あの瞬間を、ミロクは脳裏に焼き付けていた
理屈はわからないが、ランラン先生の拳がめくらさんにメリ込み
黒い血を流しながら吹っ飛び、めくらさんは倒れていた
しばらく倒れていためくらさんは、上半身を起こすと
殴られた顔を抑えながら シクシク涙を流し
フワッと空に上っていき、夜空へ消えていった
ランラン先生の除霊(=めくらさんを殴る)の後も驚きの連続だった
めくらさんの被害に遭った老婆と除霊士は、世間に知らされる事も無く
ランラン先生の一本の電話で闇に葬られる事になる
警察と死体処理の人間たちが、電話からたった15分程で集まり
現場を綺麗に処理してしまう
その光景を呆然とミロクは眺め
ランラン先生に質問したい事が山ほどあったが、
非現実的な出来事の連続から、ミロクの思考は停止していた
ランラン先生は、放心しているミロクの頭を軽くなで
ミロクが ハっ と気が付いた時にはバイクに跨り 現場から走り去って行った
静寂の中
ぐぅっとミロク腹の音がなる
「おなかすいた、、 」
ミロクは、ふとおばあさんが作っていた団子を思い出し
家の中へフラフラと入っていく
団子だ、、、!
青目団子をみつけた
団子が鍋に入ってる
このまま団子を放置したら罰があたる
ミロクは、鍋に入っている団子を指でつまむ
鍋の火が消えてから時間が経っているが、
まだじんわり温かい
青目団子は茹でるタイプの団子だ
つまんだ団子から水分が滴る
名前の通り、眼球の様なイメージがあるが
ミロクは考えを消すように首を振る
手に垂れてくる水滴を舐めると、ほのかに柑橘系の味がする
「ゆず? 」
おばあさんの丁寧な仕事にニヤリと笑う
この隠し味、好きだ
団子にがぶりと噛み付くと、口の中に
餡子の甘さと果物の味が交わる
餡子に柑橘系の果物の様な何かが練りこまれてる
「この味、なんだっけ、、??」
西洋の果物とは思えない
餡子の甘さに上品に重なるこの甘さは、、、
ビワだ!
餡子にビワを練りこんでいる
ゆず風味の餅皮もたまらない
パクパクと鍋に入っている団子を全て食べる
「ふ~ おいしかった お茶のみたいな~ 」
青目団子(閉店) ★★★★★(星5つ)
ビワを練りこんだ餡子に注目してしまうが
薄い餅皮に香る柚子が良いアクセント
水餃子みたいにツルンと口に突入してくる快楽は衝撃的☆
しばらくの間、味に感動していたが ミロクは我に返った
「あっ 」
現場にひとりになった事に気づき、
身の危険と恐怖から、大急ぎで人がいるコンビニへ駆け込み
タクシーの手配をし、大きな駅の漫画喫茶へ逃げ込んだ
ボロボロの気分で始発電車に乗り込みそのまま出社したが
記事をまとめていない事に気付く
お団子を食べてその感想のブログを書く筈が
めくらさんの衝撃が強すぎた
ミロクはパニックになりながらも昨夜の出来事を思い出し
ブログを大急ぎで更新する
寝不足のテンションから何も考えずに
めくらさんの出来事をブログにアップしてしまった
ブログは過去最高のアクセス数を記録したが、その代償は・・・
1000通以上のクレームのコメントで炎上
混乱からか、凄惨な現場の写真も一緒にアップしてしまい
コンプライアンスの観点からブログは閉鎖
もちろん会社からも こってりと絞られた末、
部署移動の辞令が出される始末
おかっぱ黒髪グルメヲタ女子ミロクは、
オカルト専門の記事を扱う マイナー雑誌の部署へ飛ばされた
それから大体1ヶ月
「ランラン先生のくだりが余りにも漫画的だよな~、、
そりゃ、ホラー好きにも避難されるよな~、、 」
「てか、折角料理やダイエットのブログを楽しみにしているのに
【めくらさん】のホラーブログなんて見せられたら発狂するよね、、 」
ミロクは涙目になりながらデスクに顔をぶつけた
「う~、、 」
大好きだった美容や美食の旅を経費で出来ていた幸せな日々が
都市伝説やホラーの世界に変わり、机にのめり込む時間が続いていた
「おい! 新人! 」
新しい部署の編集長が仕事をしないでうめいている新人を睨んでいる
「すっすみません!石橋編集長 」
石橋は40半ばの女性編集長で、ミロクと同じ様に20代半ばで
雑誌【 あっと!都市伝説 】に配属されていた
眉間にシワを寄せながらワナワナ震え ミロクを見ている
「いや、、 お前の気持ちはすごくわかるぞ 」
「社では、歩く都市伝説の広告塔とか、ホラーと寝た女とか散々言われているが、、、 」
「私は、今だに怖いことが大嫌いだ!!! 」
石橋は現在20年近く【 あっと!都市伝説 】に関わっているが
未だにホラーや都市伝説が怖くて仕方が無いのだ
「私だって、本当は美食や美容の事を書きながら
おしゃれなカフェで自然派の本を読んでいたいんだ!! 」
石橋の20年近い辛い叫びを聞きながら新人ミロクも涙を流している
ガチャっとドアが開く音と共に
ガタイの良い男が沢山のファイルを抱えながら入ってくる
「ま~た新人と愚痴ってるんすか~?
石橋さん いー加減なれましょうよ~ 20年は働いてるでしょ?? 」
「香山~ そんな事言ったって~ 」
ギャンブル雑誌【 パチンコバベル 】の名物記者の香山は
石橋と2年遅れで入社した記者で
部署は違うが20年経った今も交流が続いている
「今回も面白いネタ(都市伝説)持って来ましたよ 」
香山は怖がる女性2人を見ながらニヤっと笑う
石橋は香山の表情に青ざめ、ミロクに向きなおり
真面目な顔をしながら指令を出した
「ミロクくん 初仕事だ。 よろしく頼む 」
上司の一言でミロクは、石橋と同じぐらい青ざめる
「石橋編集長、、! 」
ミロクはすがる様な声を出すも石橋は、
自分には関係ないというような顔をしながら自分の席に戻る
美容? 美味しいご飯?
そんなものは必要ない
ここで必要なのは
【 未知 】と【 恐怖 】
新しい職場に絶望するミロクにお構いなく、香山は
仕入れたばかりの都市伝説を披露するのだった
--― 累肉 ―--
数あるSNSの中でも王者と呼ばれる【 ツイツイ 】
国民の70パーセントが使用しているモンスターSNSだ
日常の出来事や写真、自身の作品の宣伝などを
シンプルで簡単な操作で投稿できる
何年か前の災害時にも【 ツイツイ 】は国民の声を共有し続け
現代人には無くてはならないツールとして君臨している
人が集まれば、当然悪意も集まる
”あいつ ”は
【 ツイツイ 】の中にいた
おもしろいスレットをみつけたんだ
3chのスレッドにいつだったか投稿されていてね
最近アップデートされたツイツイの機能でフォロウァーの誰かが
面白い投稿に【最高ね!】ボタンを押すと自分のツイツイに表示されるんだよ
今回の話はその機能から起こった話なんだけど、、、
3chスレのタイトルは なんだっけな、、
たしか・・
【 俺のツイツイ が殺人予告されたから、みんなでそいつを晒した後、通報しようぜww 】
だったかな?
1:以下、名無しにかわりましてスレ主がお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 0:02 ID:j5tCdrdU4
俺のツイツイ が殺人予告されたんだが、どうすれば良い?
教えてエロい人、、!
「 全然、レスが集まってなくてかわいそうだったな 最初のうちは 」
3:以下、名無しにかわりましてchがお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 0:23 ID:GdRfQDFT0
釣りか?
「 とか 」
24:以下、名無しにかわりましてchがお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 0:40 ID:WIScWe7X0
かってに氏ねカス
「 とか ぽつぽつレスが投稿されているけど盛り上がんなくてね 」
26:以下、名無しにかわりましてchがお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 1:12 ID:yrQVKTCg5
kwsk
「 ってレスが上がったら嬉しそうに今の状況を書くんだよ 内容は、 」
27:以下、名無しにかわりましてスレ主がお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 1:23 ID:j5tCdrdU4
殺人予告されたから
大まかな流れを晒すな
仕事が終わって家でやることが無いからツイツイで
アイドルの投稿とか眺めてたんだよ
特に何も考えずにね
フォローしてないアカウントが 累肉 さんの投稿を【最高ね!】しました
って表示されたんだ
何気なくそのアカウントみてみたらアイコンが気持ち悪くてね
加工した女のアカウントなんだけど目がでかすぎるんだよねwww
黒髪のさらさらストレートで色白の肌!
だけど、
目がエイリアンのグレーばりにでかいw
でもうpされている画像が、殆どちょいエロでちょっと興奮するww
無駄にエロい体でwww
29:以下、名無しにかわりましてchがお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 1:30 ID:fFT449L80
ああwwわかるw
顔ともかく無駄にエロいからだ、うpする女いるなwww
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 1:31 ID:t6FPJOYT00
>>29
ぐうシコな
31:以下、名無しにかわりましてスレ主がお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 1:41 ID:j5tCdrdU4
>>29
まさにそれw
で
ふーんえっちじゃん とか思いながら
フォローしてないアカウントだけど
【最高ね!】していた累肉さんの投稿みてみたのよ
それがさ
鳥肌たったよねww
この画像に【最高ね!】してくれたフォロウァーさんのお肉を細切れにします
って書かれてて
うぇーキモっ!!メンヘラかよ、、とか 思ったんだけど
一緒に投稿されている画像が、 加工されていないアイコンの画像なんだけど
めちゃめちゃ可愛いのよwww
目もパッチリで二重で大きいけど
不自然じゃない感じで
なんでアイコン気持ち悪く加工するんだよwwwとか思いながら
余りにも可愛くて【最高ね!】しちゃったんだよ
34:以下、名無しにかわりましてchがお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 1:53 ID:6UfiXZLH42
>>31
www
【最高ね!】すんのかよwww
性欲オバケかよ!www
36:以下、名無しにかわりましてchがお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 1:55 ID:Zjn+HqqT6
>>31
お肉を細切れにします
今夜はハンバーグよー
37:以下、名無しにかわりましてchがお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 1:56 ID:Zjn+HiXZL
>>31
おい! メンヘラはマジでやめとけ
俺はそれで5針縫った
39:以下、名無しにかわりましてchがお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 1:57 ID:qT6Zjn+Hq
>>37
ナニソレkwsk
「 段々内容が面白くなってきたから レスも少しだけ盛り上がってきた 」
41:以下、名無しにかわりましてchがお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 1:57 ID:IuDrrfXS0
画像うpしろ
「 とか 」
45:以下、名無しにかわりましてchがお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 1:58 ID:vyA562m/x0
ツイツイ アカウント発見w
「 とかね 」
「 でも段々内容がホラーよりの内容になる 」
53:以下、名無しにかわりましてスレ主がお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 1:59 ID:j5tCdrdU4
で累肉 さんにフォローされたんだよね
エロかわの女の子にフォローされたのがうれしくて、 すぐフォローをかえしたw
そしたらDMが届いたんだよ
画像がついていたからエロいやつ??とか思ってワクワクして開いたら
最悪
グロ画像が届いたんだ
血まみれの肉とか死体とか10枚ぐらいかな?送られてきて
即効でブロックしたんだけど
なぜかDMが届くんだよ
今度はメッセになって
ー お肉を細切れにするね? ー
って何通もwww
54:以下、名無しにかわりましてchがお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 2:13 ID:Uvrg52F6E0
>>53
おいふざけんな!
トイレいけなくなるじゃねーかwww
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 2:16 ID:BHN9OF6E6
>>54
DM送るわw
お肉を細切れにするね?
58:以下、名無しにかわりましてchがお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 2:17 ID:Uvrg52F6E0
>>あかんwwww
60:以下、名無しにかわりましてスレ主がお送りします@(^o^) 20xx/xx/xx 2:25 ID:j5tCdrdU4
now → 3ch のスレットを立ち上げる
こんな感じなんだけど
コレって通報しても良いよな??ww
軽く殺人予告だよな?ww
この投稿から スレ主(スレッドを作った人)の投稿がピタッと止まる
で暫くしたらスレッドが消えているんだよ
ツイツイでも 累肉の名前で検索しても出てこない
結局、ウソの投稿だって事で終わったんだよ
香山の話を青い顔をしながら石橋とミロクは聞いていた
「で、、でも、オチもないし結局誰も死んでないんですよね?? 」
香山は、その言葉を待ってましたと言わんばかりにネットニュースを見せてきた
同日、同時刻に 複数の人間が自殺
高速道路、電車、飛び降り等
「人数だとざっと16人 死に方は別だけど、 み~んなバラバラだ 」
香山は一呼吸置いて、石橋とミロクをゆっくり見回す
「気持ち悪い偶然だと思わないか? 」
ミロクが青ざめる
青ざめて言葉を失っているミロクと石橋の表情を見て
香山は耐え切れず吹き出した
「ギャハハハ! ミロクちゃんは、簡単に信じるね 」
大笑いする香山をポカンと見つめ ムッとする
「ネットで広がる都市伝説なんてそんなもんだ 嘘のソースでも適当に貼って
時系列をそれっぽく伝えるだけで大体がみんな信じる 」
「都市伝説の話を作って広めるなんて 簡単さ 」
香山が情報をまとめた資料をミロクの前に ぽんっと置く
「もしかしたら新しい都市伝説を作れるかもよ? 」
香山は一瞬考え
「累肉 SNSに潜む殺人鬼 で、どうよ? 」
きゃっきゃっ と嬉しそうに話す香山を見ながらミロクは、
【 累肉 】 と言う名前、ストーリーに嫌な感覚が拭えず 後頭部がゾワゾワしている
「累肉、、 」
ぼそっとその名前を呟き
自分の新しい職場を呪うのだった
続く