捌 朔とのお風呂
「いいわよー」
「…分かった。ほら、おいで。朔。」
お母さんから風呂に入ってもいいという
知らせを聞いて、私は朔とタオル3、4枚を抱えて風呂場に向かった。
当然、家族に見つからないように。
「先に入ってていいよ。」
朔を風呂場に押し込んで、服を脱いで私も入る。
すると、朔はこっちを見たかと思うと尻尾をピーンッと伸ばして
椅子の影に隠れてしまった。
「どうしたの? おいで。」
私は隠れた朔を抱き上げて、シャワーの音にビックリしないように
ゆっくりと勢いを増しながら出した。
けれど、幸運なことに朔はシャワーの音が大丈夫らしく
大人しくシャワーを浴びていた。
「先に身体、洗おうか。」
朔の身体を抱えて、椅子に座って膝の上に座らせる。
そして、無添加の固形石鹸で朔を優しく洗っていく。
(大人しいなぁ…もしかして、人に飼われてた?)
そんなことを考えながら、朔の泡をシャワーで流して
私も一通り終わらせて湯船に浸かる。
当然、最後なので朔も一緒に湯船に浸かる。
「……なんで、あそこにいたの? 朔…。
それも、あんな怪我をして……。」
(車に轢かれたとしてもあの傷はおかしい。
あれは刃物で切られたような故意的な傷だった。)
「クゥ~ン」
朔は一鳴きするとペロペロと私の頬を舐める。
「くすぐったいよ…朔」
クスクスと笑いながら朔のペロペロ攻撃から逃れる。
そして、苦しくないように朔をギューッと抱きしめる。
「………もし、いなくなっても絶対に怪我をしたら駄目だよ。」
(届いてればいいけど…。
というか、急に大人しくなったような。)
胸元にいる朔を見てみると、キュ~という音が似合いそうな感じで
意識を失っていた。
「朔!?」
私は朔を抱えて急いで風呂からあがってタオルで
水気をとって、ドライヤーで乾かす。
そして、ミニチュア扇風機で涼しい風を送りながら
昨日のような恰好に着替える。
すると、朔が目を覚ました。
「良かった…急に気絶するから……」
(なんで気絶したんだろ…湯船に浸かり過ぎたかな?)
そんなことを考えながら、自分の部屋に戻って
朔の包帯を巻きなおして眠った。