拾 追いかけっこ
* * *
私は役員の仕事で秋月くんと学園にまだ残っていたので
昇降口で、秋月くんと別れる。
「じゃあ、ばいばい。秋月くん。また明日。」
「はい、また明日。」
乃羽というと、身体を動かしてくるという理由で
私を置いて先に帰ってしまった。
(薄情な片割れの姉だ。)
「今日のご飯はなんだろ…。余りモノかな?」
そんなことを考えながら歩いていると
遠くから凄い速さで走ってくる人影が見えた。
(走ってる?)
だんだんとその影が近づいてくると、その正体は自分の
片割れの姉であることが分かった。
「どうしたの…? 乃羽。」
「……乃、蒼ッ!…お母さん、と…おとう、さんが…!!」
「お母さんとお父さんが何?」
「……はぁ、はッ…はぁ…死んで…殺され、て…」
「…え? お母さんとお父さんが殺されてってどういうこと?」
「とにかく…逃げよう!! 殺した、奴が…追ってきてるの!!」
乃羽はそう言うと、私の手を掴んで走り出す。
私は勢いよく掴まれたからコケそうになったけど、立て直して
走り出す。
「……乃羽、なんで……そんなことに、なってる、の!?」
「私だって、知らないよ…なんか、お母さんがチャイム鳴ったから
普通に出たら、なんか……真っ黒い人がいて、ゲホッ…」
乃羽は走りながら、必死に伝えようとしてくる。
すると、後ろからズズッ、ズズッと引きずる音が聞こえてくる。
私は気になって振り返ろうとすると、乃羽は視ちゃダメ!!と叫んで私の動きを制する。
「…!! なんで、」
「あれは、アイツは視ちゃダメ…ッ……お父さんもお母さんも
アイツを見て、殺されたの…!!
私は…このブレスレットのおかげで……大丈夫だったんだけど…」
「ブレスレット?」
「昔、朔夜って子から、貰った…ブレスレット!!
アイツを見た瞬間に、私の代わりに砕けたの!」
ということは、これは…身代わり?
私達のもう1つの残基っていう事か…。
「…乃羽、こっちに逃げよう!」
「え?!」
私は乃羽の腕を引っ張って、近くにあった祠のような
場所に向かって走ると、何かに引っかかって二人そろってこける。
「「…ッ?!」」
「いったた…」
何もないところに引っかかった?
どうして? 普段ならこけないのに……。
【……】
追ってきた奴はゆっくりと私達に近づいてくる。
ズズッズズッという音を立てながら。
黒い奴の目を見ないように、ちらっと姿を知りたくて見ると
私のブレスレットも砕けた。
「なんで見たの!!」
「…ごめん、目を見なければいいかなって……」
そう言っていると、黒い奴はさっきよりも早いスピードで
近づいて来て、手を伸ばしてくる。
「…たすけて」
「……早く、来て…!」
私と乃羽がそれぞれ言葉を言った途端、視界の端から
小さな何かが飛び込んできた。
「フーッ…グルル……」
「朔!? なんで、朔が…」
朔が黒い奴に唸ると黒い奴は伸ばしてきた手を引いて後ずさっていく。
まるで朔に怯えているかのように。
「後ずさってる……」
私が驚いていると、朔は近づいて来て
口をペロッとなめるとボフンッという音と共に煙があがった。
私達は煙を軽く吸ってしまって、せき込む。
そして、目を開けると、視界に広がったのは刀を片手に持つ
青年の後ろ姿だった。