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87 精霊とお食事会


「良かったですわね、おねーさま。大層喜んでいただけて」

「泣いている人もいましたね、マスター」


早速メリッサちゃんお手製の革の雨合羽を着て、私たちは木こりさんたちの小屋に行き、お弁当を差し入れた。

小屋の様子は昨日より落ち着いていて、転がった空の酒瓶などの荒れた様子は無くなっていた。


(貯まった金額じゃなく、NPC(住人)のメンタル状況で変わるのかな。じゃあ、お金を貯めるより先に環境改善が出来るってことだよね)


武器屋のアルバートおじさんも「うちの味~!」と喜んでいて、おじさん、定期的にファンシーに帰っているんじゃないの? と突っ込みたくなってしまった。

このお弁当、5Pを"魔力量"に振った結果、驚くことに魔力量50%アップが付いていた。これは今後のために作っておくしかない。

雨はまだ降り続いているが、私たちは晴れ晴れした気持ちでホームに戻った。


ちなみにメリッサちゃんによる呪歌(ガルドル)の【付与(エンチャント)】は大成功。

雨合羽を着ていると"浮遊"の呪歌(ガルドル)がかかって、悪路もフッツーに歩けるのだ。水たまりもチョチョイのチョイと飛び越えちゃう。地面から10cmほどの高さ固定なので高くは飛べないけど、地形による不利がなくなるのは凄い。

これ、川面も歩けるのよ。おかげでホームから小屋に行き来する時、小舟を使わず川を渡れた。

付与(エンチャント)】後、メリッサちゃんの魔力が0になったのも頷ける。

ミミッキーとジローの分も作ってくれて、ジローに関してはもともと飛べるので別の歌を付与してくれていた。

ちなみにこれを身に着けていると、定期的にメリッサちゃんの声で小さくBGMが聞こえてちょっとドッキリする。



ホームでキッチンルームに入った後、ちびっ子たちはいったんインベントリ収容。

その後、雨具を脱いで皆で生産活動だ。

昨日今日と小屋までの往復で薬草も入手したので、メリッサちゃんは【調薬】、私は【料理】、そしてフランソワ君には"華御膳"を食べてもらってから【冶金(やきん)】を試してもらうことにした。ちなみにジローとミミッキーはアルゼンチンタンゴの練習だ。ハマっているのか…。


そうこうしていたら、玄関の呼び鈴が鳴った。


「おねーさま、お客様ですわね?」

「おじさんかな?」


私は はーいと言いながらドアを開ける。

そして、開けた途端、笑顔のままで固まった。

――ドアの外にはそぼ降る雨を背景に、銀に柔らかに光る女性が立っていたから。





****





(油断していた、まったく油断していた…!)


私は冷や汗をだらだら流して立ち尽くしていた。

うっかりしていた。『イベント"精霊の訪い"進行中』――になっていたのに。


(夜にならないと来ないと思い込んでいたよ~!!)


私は動揺から硬直。だが、とある人物の一言が私を正気に戻した。


「おねーさま!! 精霊様をお待たせしてはいけません。ささ、精霊様、どうぞお上がりになって!」


当然のごとくメリッサちゃんである。相変わらず頼もしい。


(ハッ、そうだ、戦闘モードになっていないというのなら…、精霊イベントなんだわ、これ!)


精霊はじっと私を見つめていて、私の返事を待っている。


「ど、どうぞ、今お茶を入れますので」


すると彼女はしずしずとキッチンルームの中に入ってきた。

不思議なことに雨の中に佇んでいたはずなのに、彼女は全く濡れていなかった。

椅子は3脚しかなかったのでメリッサちゃんの椅子を精霊に譲り、メリッサちゃんはドールサイズに戻ってテーブルの上へ。なぜかそれを見てフランソワ君も慌ててドールサイズに戻ってメリッサちゃんの隣で二人チョコンと座っている。

ミミッキーとジローも踊るのをやめてドールたちの隣でテーブルの上に腰を下した。


椅子を勧められた精霊はしずしずとそこに腰かけた。

よく見ると彼女は中世の古い王族の王女様のようなドレスを着ていて、頭には王冠があった。

お茶、と思ったところでメリッサちゃんが私に耳打ちした。


「おねーさま、お弁当を。あれが一番出来がいいですから。それに精霊は魔力の塊ですわ。きっと気に入りますわ」


(そ…そうか…?)


――と疑念を抱きつつも見た目も綺麗な"華御膳"を出す。評価10プラスアルファで魔力50%アップのステータス料理なので、確かに今私が作れる【料理】の中で最強だ。

中世の王女様の手元に松花堂弁当…。似合わない…。

しかし精霊は楚々とお弁当の蓋を開け、まあと軽く目を見開いたあと、フォークとナイフで器用にお弁当を食した。

そしてにっこりと笑う。


「美味しいわ」


ちびっ子たちがキャアと感嘆の声を上げ、私はむふーと思わず満足げに頷いてしまった。

そうでしょう、そうでしょう。"ダシノモト"どんだけ使ったとお思いか。

そして、完食した精霊にメリッサちゃんが思い切って、という風に話しかけた。


「あ、あの、精霊様。実はわたくし、呪歌(ガルドル)を嗜んでおります。これは元は精霊魔法だったと聞き及び、助言をいただきたく…。呪歌(ガルドル)がすでに修練度が上限に達してしまったのでございます。ですが、より高い呪歌(ガルドル)をどうにか手に入れる方法はございませんか…?」


私はそのメリッサちゃんの言葉に驚く。


(そういや、メリッサちゃんの【呪歌(ガルドル)】、Lv10だった。【呪歌(ガルドル)】はLv10が上限なんだ…。気が付かなかった。もしや【呪歌(ガルドル)】も上級がある…。だけど、私が狩人なせいで、上級の【呪歌(ガルドル)】が芽生えない…? あり得るかも。

メリッサちゃんはジローやミミッキーに乗っているのに、スキルとして【騎乗】は持っていない。これは多分 私が騎乗系のスキルが芽生えるような行動をとっていないからなんだ)


そこに思い至り、私は精霊の答えを待った。

すると精霊はメリッサちゃんではなく私を見つめて言った。


「……上級の【呪歌(ガルドル)】については私も知りません。ですが条件次第では、呪歌(ガルドル)の元となった、【精霊魔法】を教授いたしましょう」

「条件とは?」


私が返す。

精霊はきらきらと銀に煌めいた髪を揺らして頭を下げる。


「私がここを訪れたのも、あなたたち人間の助けを求めるため。私は雨の精霊。この土地から世界を巡り、命の源の雨を落としていかなくてはならないのです。ですが、風の力が足りず、私はここから動けずにいます。あなた達からは【風魔法】の気配を感じます。どうか、私の背中を押すだけの風を吹かせてください」


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