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82 新天地 エデンに来たぞい

評価、ブックマークありがとうございます~。


――エデンに対して私は期待するものがあった。

まだ見ぬ大地、未踏の地。このファンシーライトオンラインを初めてログインした時のチュートリアルの草原で感じた風や光、自然の匂いをまたここで感じるのだと、大いに胸高鳴らせていたのだ。



扉を開けるとそこは夏――じゃなくて。


一人のオッサンがダラけて椅子に座っていた。

気持ちよさげにピュースカ鼻提灯を膨らませておる。

どうやら神官服なので、このオッサンがエデンの神官のようだ。

その隣には大きなガタイのオッサンたちが木造りの椅子に輪になって座り、中央のカードでゲームをしているようで、夢中になって札の読み合いをしている。テーブルの上にはワインやブランデーとレッテルのある酒瓶が並んでいる。

また、酒樽がひとつ、床に転がっていた。

よく見ると酒樽ではなく、ビール腹のオッサンだった。

窓辺にはナイフの手入れをしている髭のオッサンもおり、こちらをジロリと睨みつけた。

その彼の背景の窓の外は、ざあざあと音立てている土砂降りの雨。


扉の向こうは、オッサン、オッサン、オッサン、オッサン、オッサン、オッサン、オッサンサン。


そう、眼前には狭い小屋の中にぎゅうぎゅうに詰め込まれたオッサン達が、暇を持て余している情景が広がっていた。


「さあ、早く向こうに。転移門もいつまでも繋げていられないのですから」


背後から、プルミエ側の神官の、私を急かす声が投げかけられた。


(あーそうかい、転移門はどこでもドア形式なわけね。し、しかし、このエデンの小屋、お酒臭い気が…。二の足踏む~!)


すると、背後から ほらよ、とどんと背を押された。


(え!?)


押された勢いで私がたたらを踏んで転移門をまたぐと、無情にも扉は私の背後でバタンと閉まった。


「え…? え、ええ~~~!! クラウスさんたちは!?」


思わず後ろを振り返り、飼い主に捨てられたニャンコの如く、すでに閉じた転移門の扉をカリカリしてしまった。

するとピロリンとメールの届く音がして、クラウスさんからのメールが来ていた。


『フェザントへ。


あまりに戸惑っているので背を押させてもらった。怒るなよ。

そして急な話で悪いが俺たちは別行動になる。お前さんの情報はとても参考になった。

なに、お前さんのことだ、心配はいらない。ドール種を頼れ。彼らはお前を助けるためにいる。

あとのことはエデンの転移門を管理している神官に聞くといい。

                            ――クラウス』


「な、な、な、なんだと、クラウスーーー!!」


めっちゃ、声出る、めっちゃ声出る!

こ、こ、こんな知らないオッサンばかりの所で どうしろと言うの~~!!

ゲームじゃ人見知り忘れがちだけど、オッサン、怖い、オッサン!!


「おい、こら嬢ちゃん。うるせえんだよ、さっきから」


カードに興じていたオッサンの一人がガンと椅子を蹴倒しながら立ち上がる。

昼間から酔っているのだろう、顔が赤い。

テーブルの上の掛け金のコインがそのスキンヘッドのオッサンのところだけ少ない。負けが込んでいて機嫌が悪いようだ。

小屋の中は12畳程度の広さで、ほんとうに狭い。ラガーマンクラスの大男たちがそこで私に視線を向けていた。

私はそんな視線にヒュ~と血の気の引く音を聞く。

なんと言っても鼻提灯の神官以外の、小屋中のオッサン、オッサン、オッサン、オッサン、オッサン、オッサン、オッサンサンの瞳が私を値踏みしているのだから。


そんな中、スキンヘッドオッサンが一歩前に出た。


(い、いや~~~~!! 帰りだい!!)


私がすくんで足の震えを感知し、あ、これやばいな、強制ログアウト入るかもと焦った時、その高らかな声が響いた。


「――お控えあそばせ!!」


「どぅわ!!」


スキンヘッドオッサンが声を上げ、尻もちついた。神官の鼻提灯が割れた。私は目が点になった。


そして、私の眼前にはふよふよ浮かぶステルスアルマジロのジローと――その上で、大見得ポーズのメリッサちゃんが見事な【威圧】を放っていた。

お、落っこちないでね…。





****





「お~や、すいません、すいません。寝こけてしまって。ようこそ、エデンへ。わたくしどもは新しい開拓者、旅人(フォリナー)の皆様を歓迎いたしますです、ハイ」


ご陽気な口調で丸顔の鼻提灯神官が目覚めて言った。


「よ、よろしくお願いします…」


不安げな私の背後ではメリッサちゃんとフランソワ君が【変化】で人間サイズになって、お土産に買ってきたプルミエギルドのカップケーキをオッサン…、このエデン開拓のNPC(住人)たちに配ってくれている。

なーつかしい! と言う声が上がっているので結構好評のようだ。

室内の酒臭さは最初だけの演出だったようで、今は木の匂いに変わっている。

スキンヘッドのおじさんが口の中を紫にしながら謝ってくれた。


「いや、悪かったな嬢ちゃん。雨のせいで伐採に出られず、みんな鬱屈抱えていたもんだからよぉ」

「雨?」


NPC(住人)のおじさんたちは木こりの人たちだった。私は視線を小屋の窓に向ける。

窓には硝子がはめられており、その向こうは昼だというのに鬱蒼とした木々が立ち並び、強い雨が打ち付けている。


(そういや、このゲームで雨って初めて…。なんかのイベント? それともエデンは亜熱帯とかモンスーン気候? とか?)


「どうやら、精霊が居座っているようなんですよ、ハイ」


うお、丸顔神官さん、私の心を読んだか!?


「精霊?」

「ええ、森からは精霊が生まれると言います。雨の精霊が生まれたらしく、これが動いてくださらないです、ハイ」

「へ~、初めて聞きました」


そこに話に入ってきたのはメリッサちゃんだった。


「この精霊の神話はもともと緑豊かな隣国のお話ですわ、おねーさま。呪歌(ガルドル)は、もともとその隣国の精霊使いが使う術でしたの。精霊が人間に与えた魔法を劣化させたものだそうです。もともとは精霊が使う【精霊魔法】ですわ。ですが精霊の恩恵を忘れ、最後の王様が娶った精霊の王妃を、生まれた半精霊の姫君もろとも殺そうとしたことで精霊たちを怒らせ、隣国は滅びたとか」

「え、なんで、自分の奥さんと子供を殺そうと?」

「きっと、浮気してたのですわ、おねーさま! 男というものは油断なりませんわね!」

「急に下世話な話になったね!?」


丸顔神官さんが真実は知らされていないが、おおよそメリッサちゃんの話した通りだそうだ。

てか、もしかして。


「このエデンはその滅びた隣国の…近く?」

「ピンポンです、ハイ」


神官さんは続ける。


「開拓は精霊が人間に許しを与えたからと聞き及んでいます。神の使者である旅人(フォリナー)と一緒ならば森を切り開くのを許されました。もちろん、我々この世界の住民もその恩恵を受けるのですが。ハイ。ですから、この開拓は旅人(フォリナー)の皆様の力が必要なのです。聞き及んでいるでしょうが、まずは旅人(フォリナー)の皆様で一定の開拓費用を稼いでいただくことになります。ハイ」


「え…」


(それは知らんぞ…?)


私は掲示板を隅々まで読んでいなかった。

丸顔神官さんはその陽気な口調を崩さず言い切る。


「その金額――10億ゼニーです。ハイ」


窓の外に、雷鳴が響いた。


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