70 ようこそ、第2ドール
さて無事アリアドネともフレンド交換し、そこにいたメンバーも散り始めた頃、背中から声をかけられた。
「あの…」
「はい?」
「なんだい?」
アリアドネも一緒に振り向いた。
振り向くと、あの赤毛ドールちゃんのマスターの男性プレーヤーがいた。
そしてハタと気づく。
【変化】したままのメリッサちゃんと赤毛ちゃんがまだお手々をつないだままだったことを。
「あ、ごめんなさい! メリッサちゃん、その子のマスターさんが迎えに来たよ。インベントリに戻れないからお手々離してあげて」
すると彼が慌てて言い募る。だが、周囲に聞こえないよう小さな声で。
「いや、違うんだ。その、さっきの話、有効かな」
「さっきの?」
(――あ…)
悟った。
アリアドネも同様だろう。彼女は意地悪そうに口の端を上げる。
「正直、ドール種を持て余しているんだ。でも可愛いし…。ただ、相方が面白くないようでさ…。リアルでも子供苦手なんだよね」
(あ、あの女性プレーヤーさんの方か。マジ修羅場だったのね…)
「20万でしたよね」
「え? その金額でいいの?」
驚き顔の彼に私がびっくり。アリアドネが口を挟む。
「ドール種はステ確認が出来ない。そのリスクと、不適格な職業の場合、本気で役に立たないよ。それを踏まえての相場がある。オークションでは紅薔薇がピッドしていたけど早々にひいたよね。それを知っていたからさ。実際、20万は相場より高い」
その言葉に ん~となったが。
「いえ、20万で。…あの子、【変化】付けてますよね。魔法具屋さんでもらった魔法具の付属では?」
「ああ、でもそれが付いていたムーンストーンの首飾りはさすがに譲れないけど」
「【変化】付けた状態でこの子を譲ってもらえればいいです」
「…あと、【魅了】【調薬】【彫金】も外させてもらっていいかな」
(う?)
「それ、このドール種が最初から持っていたスキルだろう?」
アリアドネが眉を顰める。
そーかー、スキル外せるんだもんな、ドール種。
「【剣術】【造成】【変化】を付けて渡すんで…」
「【造成】?」
「こ、これもこの子の付属スキル。でも造成なんかしたって家なんか建てないしさ。上級スキルだけど使い道なくてさ」
その言葉にピンときた。――ある!
(あなたにはなくても、私には!――使い道がある!!)
アリアドネが何か言いかけたが私はそれを遮った。
「結構です。それで!」
****
赤毛ドールちゃんを金銭トレードした後、なぜか私とアリアドネはパーティー組んで、ぶらぶらとファンシーに向かっていた。イベント中も参加者はファンシーとプルミエの往復は自由にできる。プルミエの神殿に寄って呪いを解くついでに、防具屋ビリーの店や魔法具屋イグニスの店で赤毛ちゃんの装備をそろえるつもりだ。
同じ呪いにかかっているアリアドネも一緒についてきてくれたのだ。
彼女のドール2体は【変化】を解いて、1/3サイズになっている。1/3と親しくなったのは初めてなので、メリッサちゃんが興奮し、彼らの周囲をジローに乗ってグルグル回っている。剣士のアラクネの方は少々鬱陶しそうにしている。タランテラはむしろお喋りなメリッサちゃんを気に入ったらしく、二人で情報交換中だ。
そして赤毛ちゃんは人見知りなのか、インベントリにおこもりだ。
トレード確定した時は、メリッサちゃんと二人で万歳三唱していたから、このトレードが不本意ってワケではない…と、思う…。
(――が、メリッサちゃんに釣られていただけかも。おおう、武器屋の自分の部屋に行ったら、じっくりお話せねば)
二人で戦闘しながら のんびりファンシーへの街道を歩いていたが、アリアドネが聞いてきた。
「良かったのかい? あの1/12ドールに20万も出して」
ああ、と目だけパチリと見える真っ黒なシルエットのアリアドネに、同じく真っ黒黒助な私が返す。
地味に周囲のプレーヤーに注目されているのはキニシナイ。
「ありがとうね、アリアドネ。でも大丈夫だよ。私、ほら開拓団に入るじゃん? そこで【造成】が必要になると思うんだ。狩人は、上級スキルが出てこないから、むしろありがたいのよね」
「そうかい? 正直、あのプレーヤーにボクは好意的ではないな。ドール種の持つスキル込みで取引すべきだろう」
「そういうもんかー。でも、スキル取得のSP使いたくない気持ちわかるから、入手できるスキルは手元に残したいっていうのも無理はないかなって」
「……まあ、キミが納得しているのなら、ボクが口出しすべきじゃないが」
「ありがと。アリアドネ、いい人だね」
「ふふふ、大抵の人は付き合ううちにボクを見直すのさ!」
「第一印象、アレだもんね」
「キミ、口が悪いと言われないかい?」
言われるとも。
でも、アリアドネは面白そうに私に視線をよこし、こういうやり取りを楽しんでいる。
正直楽な人だなー。
でも、だからと言って、雑に扱っていいワケではない。いいお友達になれそうな人だからこそ、気遣いせねば。
キャッキャウフフと二人でファンシーの神殿の長い階段を登り切った先、そこに意外な人物を見た。
その人はピンクのふわふわな髪にエルフ耳を隠し、巨大なモーニングスターを背負い、神官服に身を包んで立っていた。
そして、すう、と息を吸うと見た目に反した野太い声で がなり立てた。
「悪いごはいねが―――――――!!!!」
――それはお前だ、姉。先頭切って冥界門の最深層に潜ったはずなのに、なんで、先回りしてんの?




