65 ダンジョン
ポーンという音と伴にワールドアナウンスが流れる。
《――プルミエ冥界門、開門――》
そのアナウンスの後、眼前の黒い門が厳かに開いた。
(以前開けた時は普通に軽く開いたのに。いや、演出だってわかってはいるさ!)
すると。
門の向こうから上空をなにかがバサバサとはばたく音をたてて飛び出してきた。
怪鳥ロブロスとある。なかなか怖い顔をしていて、イベントムービーかなぁ なんてのんびり見てたら、やにわ、その怪鳥が急降下とともに、口からビームを吐き出した。それをジローが私の眼前にアイギスの盾を展開して初めて私も気が付く。
――戦闘だ。
そう意識した途端。その空から滑空してきた出てきたモンスターを、プレーヤーの後方から巨大な炎の塊が飛び出て直撃し、一撃で燃えつくした。怪鳥は光になって消えていく。
「モンスター?」
「モンスターだ…!」
「門から出てくるぞ、スタンピードだ…!!」
ざわりと喚起の声が上がる。そして、冥界門の向こうに獣たちのギラギラした目の光が見え、それらが門の外に向かって駆けてきた。
「行くぞ! レイドイベント参加者同士のフレンドリーファイヤはない! 遠慮するな!」
先頭にいた黒騎士たちが声を上げ、隣にいた姉が駆け出し、巨大なモーニングスターでモンスターを横なぎに叩き伏せて先頭集団が進軍を始めた。
そして、中盤にいた私含めたプレーヤーが鬨の声を上げ、門の中目掛けて走り出した。
***
「いやー、凄まじかったね」
思わずそうこぼした。
自分も含め、周囲の熱狂にあてられた。私たちパーティーはあの後集団に飲み込まれ門の中に駆け込み、魔法や武器の飛び散る中をかいくぐり、地下1Fまでたどり着いた。
私たちの周囲にはプレーヤーは既にまばらで他は地下2Fに向かったようだ。それ以外はどうやら門の外で待ち伏せたり、プルミエへの通り道での待ち伏せに徹しているらしい。
プルミエ冥界門の中は薄暗いが光源があり、意外に周囲は見渡せる。中は存外広く、広場のようになっていた。そして天井は鍾乳洞のようになっている。
悪魔が出てくるダンジョンだから、もっとおどろおどろしいものを想像していたけれど、たまに蝙蝠が飛び立つ以外、音がない静謐な空間だった。
門の中すぐのその広場のような空間には枝分かれした道が数本あり、その先が迷路になっているらしい。
事前に攻略されているのでボス目当ての集団は階下へ迷うことなく進んでいった。
私たちも事前に入手した地図を片手に歩き出す。
(いやホント、この状況になるまでは全くてんやわんやでしたわ。いつものんびりプレイの私には辛い。
特に開門同時に出てきた怪鳥を魔法一発で燃やした、有名プレーヤーさん怖い。
いくらフレンドリーファイヤないとはいえ、炎のエフェクトには焦るわ。しかも、最後尾からガンガン全体攻撃魔法かけていたし。
アレ、絶対私らパンピー追い立てていたよ。あの有名プレーヤーさん最下層に着くまでに魔力切れになるんじゃないの)
私やサーシャは怖くて後ろ振り向けず周囲に合わせて とにかく駆け抜けてしまった。
あれが、アリアドネと言うクロの説明聞く余裕はなかった!
ともかく、私たちは目当てのモンスターを探して歩き出した。
目当てのモンスターはそう、【料理】のレベルが低いと不味くなるステータスアップ料理を美味しくしてくれる、"ダシノモト"を落としてくれるのだ。
戦闘態勢なので私もペット全員を呼び出している。
ミミッキーは飛べないので足元をちょろちょろ、メリッサちゃんは定位置のふよふよ飛んでいるジローに騎乗です。
歩きながらメリッサちゃんお手製の"回避草のキッシュ"を皆で食べる。【料理 Lv2】に上げたので、食べられないものではない。味がないんだけど。
「ステータスアップ料理、私はドゥジエムの図書館で"郷土料理図鑑"見て覚えました。実際に王都まで行かないとその存在を知っている人少ないんですよね~」
「王都には専門店あるらしいからね。私はリオンちゃんのお母さんのお料理で知った。レシピもNPCから貰うものみたいね。それ以来、お料理のお手伝いするとリオンちゃんのお母さん、これは防御に効く、とか具材の説明してくれるようになったの。そしたら、素材覚えられた」
「え? 本は読まなくてもいいんですか?」
「それ、罠っぽいよ~。リオンちゃんのお母さんは教えてもらえばわかる、と言っていたし」
やっぱ、【料理】必須かとクロ。
「俺も幻想器や魔法具を作る時、器用値上げたいんだよね」
クロはキッシュを持っている果実水で飲み込んでいる。
「あ、すご。すばやさ上がっている。ただ、【料理】のレベル上げまでしている時間なさそうなんだよね。だからダシノモトの話は魅力的だな」
「う~ん、【料理】未取得でもメリッサちゃんは実際に作れていたよ。【調薬】効果だったかもしれないけど。料理自体は私もメリッサちゃんも一緒にお手伝いしていてリオンちゃんのお母さんに教わっていたんだ」
味は壊滅的ではあったが…。これから未開の地へ行く私たちは、レベルが上がるまで持っておられんのじゃ。許して、メリッサちゃん…!
そして そっと後ろ暗い気持ちを隠して彼女を見るとメリッサちゃんはいつもの美味しいクッキーにかぶりついていた。
「え? どうして自分が作ったキッシュ食べないの? 回避率、大事だよ?」
私がメリッサちゃんにキッシュを差し出すと、メリッサちゃんはイヤイヤしおった…。
「思った以上にフロアが広いダンジョンだね」
「ですね。洞窟型だと聞いていましたけど、うっすら灯りがこぼれているし、天井も高いです」
そうこうしながら私たちは人気のない奥に入り込む。
なんと、ここまで地下1Fのモンスター遭遇、0。
もう、ここも他のプレーヤーが狩りつくしちゃったのかな。
「ここの横道に入れば、えーと、"キッチンデビル"の出現場所だね…ていうか、それらも門の外目指して来るんじゃない?」
あんな感じで、とクロは正面を指さした。
その先には、少々コミカライズされた小さな悪魔が3体、手に凶器を持ってイシシと笑っている。そしてこちらに向かって走ってきていた。
「おられる!」
思わず私、驚き声を上げた。
「敬語?」
え、クロさん、突っ込むとこ そこ?
「キッチンばさみ、ナイフ、まな板…! キッチンデビルです! 弱点は…聖属性です!」
誰も持っていなかった。
「持っているでしょ、フェザントちゃん、破魔の装備ーー!」
「おとと、あまりにナチュラルに普段使いしていたので忘れていました。オーエス!」
一撃!
――右ストレート一発で中央にいたまな板持ちが消えた。左右のキッチンデビルが急に慌て始める。小さい悪魔なのでなんだか可愛いな。
とは言え手は抜かぬ。次々【リオンちゃん体術】の餌食だぜ!
結果、3発で戦闘が終わってしまった。
インベントリには目当ての"ダシノモト"がしっかり入っていた。
「なんか、私たち何もしてませんね…。フェザントちゃん、更に強くなった?」
「この間のイベントでは弓中心だったけど、体術も育てていたんだな」
そんなに驚かせちゃったかしら、んふ。
「あ、称号"冥界を開きし者"が仕事したかも。ダンジョン内のクリティカル率アップだし。あと"一撃の覇者"」
「この辺は他のプレーヤーもいませんからね。次々行きましょう! あ、肩でも揉みましょうか?」
苦しゅうないぞ。サーシャ、ノリいいな。




