54 ハウジングイベント その陸
お久しぶりでございます。
さて、あの後は前方から何回かアンデッドやアンデッド・ナイトの襲撃があったが その戦闘ではクラウスたちは手伝ってはくれず私たちだけでの戦いになった。
アンデッド系はおそらく冥界門から現れる敵なのだろう。剣を持つ騎士の姿や槍を持つ軽戦士っぽい装備で悪魔のしっぽの顔色が青いモンスターだった。
(そっか、悪魔系がアンデッドなのね。ふむふむ。さて行け、猪突の弓に風魔法付与で追尾効果付きでスピードアップ出来ちゃうんだから!)
弓は矢の威力も上乗せされるのでかなり強力な武器だ。命中率が低いのが玉に瑕だが、精神の数値とプレイヤースキル。
(要は慣れだ慣れ。体幹しっかり、狙いすまして撃つべし、撃つべし、撃つべし! 集中、集中。私は外すことがほぼないけれど、出来れば必中のスキルとかアーツが出てきてくれるといいなあ! だって、矢が無くなったらおしまいだもんね)
そう考えたら近接でも戦えるように【リオンちゃん体術】も伸ばしていっているのは悪くないのかも。
私たちの今回の布陣は前衛の剣士のペケポンさんとマルチで私。後衛に魔法使いのクロとサーシャ。サーシャは水魔法の攻撃力が高くクロは少し変わった攻撃をしていた。
手に持ったオルゴールの蓋を開けたとたん雪景色に周囲が変わり、モンスターが氷の柱に閉じ込められたのだ。
「麻痺入ったから叩き放題だよ」
とクロ。
「お、すげーじゃん、クロ君。氷魔法は上級魔法なのにさ」
驚きの声を隠さないペケポンさん。
私とペケポンさんがザシュザシュ叩いていきます。私は矢がもったいないので体術で。なぜかメリッサちゃんがハンカチ噛みしめギギギとクロを睨んでいる。ほ、補助魔法系だから? ライバル視かしら。
「氷魔法か…! 上級幻想器を扱うのか…。錬金術師の弟子か? いやそれとも、幻想技師の…」
幌から覗いているポラリスさんの呟きを聞き取ってその正体を知る。
(あのオルゴール、あれが『幻想器』なんだ。魔法具みたいなものかな? あれ、もしかして クロは錬金術師の隠しジョブイベ進行中? "魔法具屋イグニスの店"のアルバイトさんだけども? 錬金術師は複数の発生方法あるみたいだし私の知らない発生条件でもあるのかな?)
クロが魔法具屋さんでログアウト出来ているんなら錬金術師のイグニスさんのお気に入り、つまり全プレーヤーで一番イグニスさんの好感度が高い筈だよね。それが何らかのキーになるのかな? もし錬金術師関連ならメリッサちゃんの態度も納得する。
(後で詳しく聞ーこうっと)
「さて、いい感じのペースで休憩地点に来ました!」
サーシャはクラウスさんたちの指定した森の中の拓けた場所でテンション高く言う。
「…いい感じ?」
「結構時間的にはギリでは」
私とクロが顔を見合わせて言ってしまった。
「た、タイムアウトしたっていいからイベント見ようって方向でしょ~! そういう突っ込みしないで~! 惜しくなっちゃう!」
「あ、ゴメン、サーシャ。そうだよね、時間は考えないようにしよね!」
(サーシャが不安定だ。敬語キャラだったのに。いや、むしろ気安くなったのかしら?)
むふんと少々鼻の穴膨らませるとそれをペケポンさんに見られSS撮られた。ソラに見せると仰せ。姉にか…。やはり二人は付き合っているのだろうか? まあ私のアホ面で二人の親睦が深まるならいいか…。
ふと見るとクラウスさんとヘレンさんが石で簡易的な竈を作っている。おお、本格的。私も手伝わなくては。
サーシャと一緒に用意した茶器や食器を出し、サーシャが事前準備していたサンドイッチとシチューを出す。シチューは鍋ごとだ。インベントリから出すので急に熱々の鍋が眼前に現れるからびっくりだ。
「【料理】はLv6まで上げてますからね。評価5のサンドイッチとシチューです。ふふふ、舌鼓を打つがいい…!」
意外~! サーシャはコスプレとか興味ありそうだったから【裁縫】とかのスキルを上げているのかと思った。
感心しながら私はシチューをよそい始めたサーシャを手伝い、馬車から降りてクロやペケポンさんが熾した焚火近くに座っている伯爵夫人たちに食事を運んだ。
温かいのがうれしいですわねとお嬢様も笑顔だ。
少しホッとしつつ気が付くと【変化】で小学1年生サイズになっているメリッサちゃんが クラウスさんたちが作った竈でなにやら鍋をかき混ぜている。
(ん? あれ、こないだ購入した調薬セットの鍋…)
思わず足音を消して懸命に鍋を混ぜているメリッサちゃんの背後につく。
覗き見ると鍋の中は なにやら赤黒い液体がグツグツと煮えている。
(なんか、メチャ魔女っぽいんですけど)
勿論そんなこと口には出さぬ。ドール種のメリッサちゃんにとって魔女と錬金術師は天敵だからね。
私が背後から盗み見ていることについぞ気づかず彼女はそろとその小さな指で沸騰している液体をひとすくいしてペロと舐めた。
「わ~! 何してんの!! 火傷っ! 火傷しちゃう、ポーション、ポーション!!」
ひいいいいッ!!! 私は慌てて彼女の指をつかみインベントリからポーションを出して振りかけ――ようとして。
「あれ? 全然大丈夫…?」
「おねーさま? いかがなさいました?」
あ、もしや調薬時のモーションなだけで、実際ケガにはならないのか! そうだよね、リアルだからつい現実と同じように反応してしまうけど、ここはゲームの中なのだ。
思わず虚脱。私の剣幕にメリッサちゃんも驚いたようで目をパチクリしている。あわわ、驚かしてしてしまった…。
「ふむ」
直後私の背後から低い男の人の声がした。ヒッ! 人斬り――PKの記憶が一瞬フラッシュバックし思わず警戒して距離を取る。
そこにいたのはS級冒険者、クラウスさんだった。
「ふむ、…いい出来だな」
鑑定の出来る彼はどうやらメリッサちゃんが何を作ったか知っているらしい。
「お、脅かさないで下さいよ~!」
「ああ、すまんな。いい材料を使っている。レシピの入手は困難を極めたろう」
「へ?」
「おわかりですか!?」
「ああ」
あ、メリッサちゃんが嬉しそう。ちょっと、嫉妬。だってクラウスさんは私よりうんと優れたドールマスターだもん。
(しかし、入手困難なほどのそんな凄いレシピあったけ? メリッサちゃんにはインベントリの材料で出来る範囲のお薬の調合許可は出していたけど。もともと彼女が覚えていたレシピなのかな? 今まで材料が揃わなかっただけで、この森での道々採取した材料で作れたってこと?)
疑問が顔に出ていたのかメリッサちゃんが胸張って答える。
「わたくし、お料理にチャレンジしてみましたの! おねーさま、武器屋のお母さまからお料理のレシピブックを頂いていましたでしょ? それに書いていた材料の"パワパワキノコ"と"白熊の肝"が揃いましたので!」
――絶句。
「そうか、旨そうだな」
「あ…の…、この子、【料理】持っていないのだけど…」
私は震え声で告げる。
「む」
クラウスさんも鍋のしゃもじを掴んだ状態で一瞬固まる。
そう、このゲームはスキルなしでもある程度のことは出来る。そして私、武器屋のおばさんから新婚時代に使っていたというステータスアップ料理のレシピブックを入手していた。メリッサちゃんはそれを見て必要材料の判別が出来たのだろう。
だが、待て。
ステータスアップ料理を美味しく作るには経験…、【料理】が必要。
ステータスアップ料理の美味しい味付けには【料理】が必要なのだ……。
大事なことなので2度言う。
「つまりこれはステータスアップ料理の材料を使っただけの【調薬】…か。……鑑定結果は"熊鍋、体力、攻撃力アップ"だ。効果はあるぞ…」
「……この子の作るお薬、効果高いけどわりと苦いの……。あと、私、調味料は簡易調薬セット中級に入っている生薬くらいしか…。塩コショウも持ってないんだよね…」
そばでは どや? どや? とワクトキ顔のメリッサちゃんが私とクラウスさんを見つめている…。
「……食べます!」
私、センブリ茶も結構イケるし! ……レバー苦手だけど! 味覚が現実再現度の高いこのゲームで調味料不明の熊肝料理食べる蛮勇!
私は盛大にその赤黒い汁を器によそう。意外や匂いは美味しそう。
(もしかしたら、イケるんじゃないかしら!?)
「……頂くとしよう。ヘレンは遠慮しろ。お前に体調崩されたら困る」
言って彼も器によそう。
鍋は器によそってもぐつぐつとした効果音が出て、蒸気が噴き出ている。
「フェザント。【料理】スキルはお前さんが取得してドール種に付けて育てさせるといい。ドール種が育てたスキルは俺たち人間が育てるより効果が高い。しかもそれをドール種から外して共有できるぞ。彼らは武具だからな。レベルアップでスキルスロットも増えるんだ」
「え!」
クラウスさんの意外なドールマスター基礎講座! なんと、有効スキル数増やせるとは!
ありがとうございます! と思わず礼! そして、私に称号がついた。――"ドールマスタークラウスの一番弟子"。
(こ、これは小躍り!)
思わず鍋から器に盛った熊鍋をパクリ。
クラウスさんもパクリ。
――クラウスさんと目が合う。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
無言で彼は果実水を取り出し口に含み、私にも差し出した。
私もありがたくいただく。
熊鍋は私たちだけで完食した。サーシャが上げてくれたディスケートや伯爵夫人らの好感度のために。
そして私は【料理】スキルを3P使って取得し、私の残りSPは1Pだけになった。




