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51 ハウジングイベント その参


店主の女性から渡された鍵を、言われた部屋の鍵穴へ差し込む。カチャリと小さな音立てて、扉は開いた。開いた先には月明かりが差し込む古びた部屋。しかし、そこには白銀の髪の男の子がいた。

彼は出窓に腰掛け、楽しそうに会話をしている。その相手は。


(よ、妖精! 初めて見た!)


さすが、ファンタジー。定番中の定番、妖精さんもいるとは。

虹色に変わるかげろうの羽、薄い衣をまとった、金の髪の、小さな人。1/12サイズドール種より大きい。30cmくらいだろうか。姿かたちは大人っぽい造形だ。全体に金色の光がこぼれている。


(う、美しーい!)


「妖精?」


確認するようにクロがこちらを見た。

私は頬を紅潮させて握りこぶしを掲げて うんうん頷く。

クロのとなりのペケポンさんがあーあ、と言った顔をしている。


「妖精か~」

「え? ダメなんですか?」


思わずペケポンさんに聞いた。私の前に立つサーシャが顔を覆っていた。


「…ヤバイ。コレ、フラグだ…。ディスケートのイベント起きる…! じ、時間が…足りなくなる…!」


なんか、ダメらしい。


「そ、そっか。じゃあ巻いていかなきゃ。こんばんはー!」


思わず見とれたが室内に無言で立ち入るのはさすがに失礼だ。ココンと壁も叩いておく。すると少年は驚いてこちらを見た。これは何とも整った顔立ちの子だ。


(リオンちゃんよりひとつ、ふたつ上位かな?)


「…誰?」


少年はいぶかし気に聞いてきた。さっきまでの笑顔は鳴りを潜めている。

妖精は彼を守るように前に出てきた。


「貴方タチ、何者!?」


(もしやこの子が保護者さん?)


「申し遅れました。今回護衛を担当いたします冒険者です。ええと…親御さんでしょうか?」

「……妹ちゃんて、天然?」

「フェザントちゃんはちょっとその傾向はありますね…」

「ちょっと! いつもの私は閃光のような突っ込みだからね!」

「いや、それはどうだろう」


おい、クロさん、それはない!


「仲間割れかい? おお、いやだ」


そう言って奥から現れたのは、やはり白銀の髪の青年で、窓辺にいる少年とよく似ていた。


「おじさん…」

「私がその子の叔父だよ。さて、我らを無事神殿に送り届けてくれる優秀(・・)な冒険者とは彼らでいいのかい? ディスケート、お前の星読みも当たらなくなったものだね」


おじさんと呼ばれた彼は面白そうな笑みを浮かべて少年を見た。長い髪がサラリと肩からこぼれる。


(なる。星読みって予知能力者なわけだ。アレ? ディスケートだけ表記が違わない?)


星読みではなく星黄泉(ほしよみ)――。


「来ていたか」


後ろから声が聞こえてビクリとなる。

咄嗟に振り向くとS級冒険者の二人がいた。


「クラウス。彼らが頼りになる冒険者なのかい?」


おじさんは鼻で笑って突然現れたS級冒険者、クラウスに言った。

あ~、びっくりした~。


「今のところは判断しかねるな。全員揃ったなら馬車へ移動だ。ポラリス、ディスケートも一緒に来い」

「ご領主一家は馬車かい?」

「――ああ」


するとポツリとディスケートがつぶやく。


「死の匂いがする」


その言葉に全員がハッとなった。


(なんたる不吉なことを~)


それはNPC(住人)の彼らも思ったらしく、おじさんが手を引いていたディスケートに向き直る。


「ディスケート。いいか、もうお前は星読みじゃない。だから見えても言うな。知らなくていい未来もある。お前の安全のためだ。――いいな」


先ほどまでの少しふざけた色は消え、おじさんの言葉は真剣だった。

その真剣な目で見つめられ、ディスケートもうん、と頷いた。彼の周囲を慰めるようにさっきの妖精さんが飛んでいる。


(大丈夫かな…)


何というか、今のやり取りでディスケートの二つ名が彼らにとって歓迎できる由来ではないのが察せられた。それに。ディスケートは傍目には納得していないようにも見える。唇かみしめている彼からは悔しさがにじんでいる。


(いやでも病気の人がいるのに、あの人もうすぐ死ぬねーとか言っちゃダメだしな! おじさんの言っていることは一理あるんだよねっ)


ハラハラしながらディスケートの様子を見つめているとクラウスから声をかけられた。


「心配か?」

「それは、まあ」

「…厳しいことも言うがポラリスはディスケートが可愛いんだ」


クラウスの隣のヘレンがそれにゆっくり頷く。

すると急に私の肩の上にメリッサちゃんが現れた。


「そちらの方はお喋りにならないのですね。無口な性質ですの? それとも…"人形"は喋らない方がお好みですの?」



――爆 弾 発 言 だ っ た。



サーシャもペケポンさんも知らない情報だったらしい。慌てて私たちに向き直っている。しかし、これはどうやらイベントらしい。彼らが会話に乱入してくることは出来ずにいた。

しばしクラウスがメリッサちゃんを見た。


「…ヘレンが喋れないのは魔女の呪いだ。それを解くために俺たちは人形の家の主を探している」


(まさかの秘匿ジョブイベント関わりーー!!)


まさか、この二人がドールマスターのイベントに関わりあるとは…。

あ、いや最初から冥界門開けた時から好意的だったような気がしてきたぞ。よもやメリッサちゃんがいたからか?


アワアワしている私を後目にメリッサちゃんが会話を続ける。


「それはお気の毒に…。私たちも実は人形の家の正統な後継者を探しておりますわ。なにかお互い情報が入ったら連絡しあいませんこと?」


(むむ、微妙にいつものメリッサちゃんと口調が違う気がする…。イベント会話だからか。そして、何となく置いてきぼり感あって寂しい…)


クラウスがヘレンと視線を合わせて確認とってから私に連絡先だ、と言ってメモを渡した。

すると、私のフレンドリストにクラウス:NPCという表記が現れた。


(うーむ、プレーヤーとNPC、ほとんど同じ機能が使えるってホントなのね…。というかヘレン、ドール種だったのか…。あれ、するともしかしてクラウスってドールマスター?)


ここでイベント会話は終了したらしく、メリッサちゃんは消えていた。インベントリを見るといつも通り"ペット欄"でこちらを見上げて瞬きするサムネになっている。




「フェザント~ちゃ~ん~…」


サーシャが困り眉でこちらを見てきた。


「いや、ごめん。まさかイベント会話起きるとはつゆ知らず」


視界の端で、刻々と減っていく時刻表示に、私は慌てて言い訳する。ごめんよ~!

だがサーシャの反応は意外な反応だった。


「いいんです。まさか、このタイムアタック中に他のイベント複数ぶっこんで来るとは思いませんもん! 実はこのイベント、まだ無料で購入権手に入れた人いないんですよね…」

「え! マジ?」

「マジマジです。正直評価得点は公開されないのでわからないんですが、態度から推察するに、おそらくクラウスとヘレンの評価が低いのではないかと。そう考えれば今の状態は高得点クリアに向かって良い状態なのではないかと思うのです。むしろ、イベント発生で時間とられるのは怖いけど、このイベント会話で好感度上がれば評価もググっと変わるかも…!」


よし!


「頑張ろうね~!」

「はい!」


思わずサーシャと恋人つなぎで微笑みあった。


それから馬車で眠る伯爵と、その隣に心配そうに佇む伯爵夫人とお嬢様の3人と対面する。



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