41 ヘルメス商会
2020/10/8 誤字修正しました。
相変わらずプルミエはチーンシャララン、チーンシャランと風の音とお鈴の音がする暗いBGMだったが、実際の町の様子はプレーヤーがワイワイ騒がしい、賑やかな状態だ。
なんだか、シュールだな。
以前、薬草を売ろうとしたら、ヘルメス商会以外、または彼らが許可した店以外は引き取ってくれなかったが、今回は違った。
プレーヤーの"商人"が率先して買取していたのだ。
もともと、プレーヤー間での取引が主流だったこの町。
あちこちでプレーヤーの行商や露店が立ち並び、NPCの人たちから奇異の目で見られながらも、経済が廻り始めている。
「ヘルメス商会の--会員になったプレーヤーが多いんだよ」
ハニーさんが広場に集まるプレーヤーたちを見て苦笑いする。
プルミエにハニーさんとホノカお姉さんが居たので、あの後、一緒にお茶になったのだ。
クロはハニーさんと初対面。
ハニーさんが「え!? 文月麻耶!?」とお約束の反応。
私たちは広場を見渡せるテラスのある店でのんびりコーヒーだ。
おお! 怪しい色味のカップケーキ! でもこういうの好き。茶色に青いチョコがかかって、アイシングがまた可愛い。私はアンケートに高評価をつける。
「これは凄い色だね…」
「若い子と私たち感性違うかも。緑のケーキって…」
ううむ、ホノカさんとハニーさんはなかなか厳しい。世代がやはり違うのかしら…。
パクパク食べているクロを見習ってくださいな。
美味しいは正義ですよ、お姉さまたち!
でも、食べると舌が青くなっていたワ。
食べながら、私も広場を見渡す。
すると一部のプレーヤーの露店に柄の悪い人達が絡んでいた。だが、露店を出しているNPCは誰も助けようとしない。隣の露店のプレーヤーが助け舟を出したが、驚いたことに、助けたプレーヤーの露店がいきなり消滅した。
「……あれ、出店禁止にされたんだよ。あの絡んでいた奴ら、おそらくヘルメス商会だね。絡まれたプレーヤーも助けたプレーヤーもヘルメス商会の会員じゃないんだろうね」
ハニーさんが呟く。
「会員にならなければ、もしかしてハブられる…?」
以前の薬草買取してもらえなかったお店を思い出す。
「そう。ああやって嫌がらせがあるから、プレーヤーは大抵入会するね。ヘルメス商会にはあたしも声をかけられたよ。会員になると特典もあるけど、プレーヤーズメイドの融通や、モンスターやダンジョンからのポップ品の情報提供の義務が課せられるの。プレーヤーは"ゲームだからそういうもの"だと納得する人が多いけど、NPCは納得は出来ていないみたいだね。酒場で愚痴っている人が多いよ」
「かく言う私もそうだーー!」
ホノカさんが声をあげた。
「あんた、プレーヤーでしょ」
「でも、断ってもしつこいのよ! あげく、一般人の振りして近づいてきた薬屋が、魔女の手先って、どんなイベントよ~!」
「秘匿ジョブイベントだよ--錬金術師の」
ハニーさんがこちらを向いて肩をすくめた。
「ああ…」
私は頷く。
「知らないで"魔女の調剤薬局"にMPポーション卸していたのよ~。これを薬師ギルドに知られると、私ギルド追放になるって…! ギルド所属していないと手に入らない調薬レシピあるのに! しかも選択肢のない強制イベントだった~!!」
「わかります。ドールマスターも強制でした」
「わかってくれて嬉しい、フェザントちゃん。はあ。掲示板見たら、どうも錬金術師は一度魔女の所業に手を貸して、そこから心を入れ替えるっていうストーリー展開のイベントらしいだよね~…! カルマ値関係なく、治癒師Lvと、作製出来る調薬レシピの数でも発生ルートがあったみたい」
そうなんだ、と感心した。
「ゲームなんだから、それも含めて楽しみましょう」
「フェザントちゃん、大人だな…。オバちゃんは熱くなってしまうのだよ…。VRだと、もう、真に迫るというか、腹が立って、腹が立って。ああー、ヘルメス商会と魔女に泣きっ面かかせてぇ!」
(ホノカさんによる、ざまあ展開か。見てみたい気もする。錬金術師のストーリーも面白そう…)
思わず、秘匿ジョブの錬金術師もいいなとグラグラ心が揺れたのは内緒だ。
ふと、前にプルミエの門番兵が言っていた言葉を思い出す。
「前にプルミエの門番さんが言っていたんですよね。プルミエは"魔都"になるって。私、今回のイベントのスタンピードのことかと思っていたんだけど、もしかして違う意味なのかな?」
思わずクロを見る。
クロも さあ、と首を傾げる。
「NPCは旅人のせいでプルミエ冥界門が出来たことは知っているから、そういう意味とも受け取れるけど」
「違う意味なら、まだ、プルミエの町で何か起きるのかなぁ…」
(--それとも別のイベントが用意されている? うう、掲示板で情報収集したくなるけど…! でも、知ってしまうと驚きがなくなってしまう)
私は葛藤しながら、残りのケーキを口に放り込んだ。
午後はクロとも別行動。
魔法使いのクロは やはり魔法使いのサーシャ同様、魔術師協会に行き、土魔法を生やすよう言われ、そちらに強制連行だ。
冒険者ギルドにお肉を卸した後、私は時間に間に合うようにファンシーへ戻る。
学校から帰ってきたリオンちゃんとまた連れ立って、防具屋ビリーの工房へ。
「おねーさま、行って参ります!」
ボディガードにジローを連れて、メリッサちゃんはまた靴の作業室へ。
昨日よりメリッサちゃんの受け取り報酬上がっています。心なしか、職人さんのメリッサちゃんへの態度も恭しさが増している。
私でも作れるレシピがもらえるよう期待しているよ!
メリッサちゃんと別れて、またリオンちゃんの案内で私は工房の一室に通された。
そこで待っていたのは。
「古着…?」
古着が山になっている。戸惑っていると後ろから声をかけられた。
「あなたがリオンの紹介の冒険者さんね。私、ビリーの妻のハリエットよ。裁縫師をしているの。今日はこの古着の裾上げを頼むわね。【裁縫】があれば簡単よ。今日中に【サイズ調整】がつくわよ」
(あ、そうだ、私【サイズ調整】のために この工房に来ているんだっけ)
いけない、いけない。【工作・手芸全般】でサイズ調整出来ると聞いていたから、なんか忘れていた。
プルミエへの往復でジョブレベル上がってSP入ったので慌てて【裁縫】を取得。
裾上げが上手くできないとイヤだからね。
それに、ドール種の防具-ドレス-製作には必要スキルだもんね。
取得後、声の主に挨拶しようと振り向いた。
すると、そこには赤毛のベリーショートの女性がいた。白いシャツに黒いジーンズというほっそりした女の人だ。
(ズボン履いている女の人、一般職のNPCでは初めて見た。あ、いや、でも、この人)
「え、妻? ビリーさんの?」
「そうよ?」
オネエ言葉だけど、トランスジェンダーじゃなかったのか、ビリーおじさん。既婚者だったとは…。
しかし、えっと。
「…奥様?」
今一度問う。
「ええ。そうは見えないってよく言われるわ。ふふ、私、仕事を持っているから若く見られるのね」
「………ソウデスネ」
彼女は鈴の転がるような声で コロコロ笑う。ええ、大層チャーミングです。
若い…。若いよ。--ファッションは!
でもね! ハリエットさん、リアル年齢、80過ぎに見えるんだけど!
ババ専か、ビリーおじさん! あんた どんだけキャラ濃いのよーー!!




