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36 スキルがいっぱい

評価、ブックマークありがとうございます。

誤字脱字報告もありがとうございます。大変助かっております(^^)

誤字脱字報告はホント素敵機能ですわ。


さて、折角【裁縫】取れたから これを今すぐ取得すべきかと思ったが、自分の残りSPが5Pしかないことに気がつく。


(【付与(エンチャント)】は4P必要か…。【裁縫】は3P。これ取ったら、【付与(エンチャント)】は取れない。どちらか片方か~。うう、ジョブLv上げしてSP稼ぐか~)


悩んでいると職人さんが近づいてきて、練習した本返し縫いのチェックを始めた。


「お、どれどれ縫い方見せてみ。おお、上等上等。……ん、こっちは小さいドール種さんの縫い目か?」


メリッサちゃんの縫った方を見て、職人さんが ほう、と感心した声をあげる。


「お嬢さん、このチビさんにも手伝ってもらってもいいか? 勿論、1人前分の礼はするよ」

「あ、はい! --いいかな? メリッサちゃん?」

「勿論ですわ、おねーさま! わたくし、お役に立ちます」


メリッサちゃんが張り切って声を出す。

じゃあ、こっちにとメリッサちゃんは革靴の部屋へ促された。一応心配なので、ジローをお供に。頼むぜジロー! それに応えてジローはまたラジャと前足を上げる。あう。この動作は私の心をくすぐるわ。

で、私はというと革の小物の作成のお手伝い。ほぼ直線縫いばかりです。いいの。丁寧にやるぞ~。

ゲーム時間の17時に終業。


(ふー、よく働いた! でも、【サイズ調整】は出なかったな~)


額の汗をふきつつ、皆さんに挨拶。リオンちゃんは未成年だから残業はなし。他の人はまだ残って作業をするらしい。私はリオンちゃんのおまけだから一緒にあがる。

メリッサちゃんを引き取りにリオンちゃんと一緒に革靴の作業部屋に行くと、ジローに跨ってメリッサちゃんがこちらにふよふよ駆けてくる。手になにやら白い封筒を持って。


「おねーさまっ。これ頂きましたの。革のブーツのレシピですわ。報酬にお願いしましたら快諾いただきましたの!」


『レシピ"革のブーツ"を取得しました』


システムメッセージが聞こえ、メリッサちゃんから受け取った封筒はインベントリに消えた。

な、なんたる…!!


「メリッサちゃん、有能…!!」

「ドールたる者、マスターをお支えするのが使命ですわ!」


メリッサちゃんは胸をぐい、とそらす。

ジローさんから落ちないでね。

だが、"革のブーツ"の詳細を見ると、まだ選択不可になっていて、注意書きが出た。


(なになに、【工作・手芸全般】取得後、レベルに合わせて解放…。ふむ、スキルが必要か。まだ作れないかぁ…)


だけど。


「いや、これは助かるよ。大きな進歩だわメリッサちゃん。これでメリッサちゃんの靴が作れそう…!」


夜に一度ログアウトして、ご飯食べたらレベル上げだ。スキル取得するためのSP稼がなきゃ。

ああ、でも【サイズ調整】も取得しないと。あばばば、新しいスキル構成だけでSP吹っ飛ぶ…!

新しい何か解放したりするとSPも貰えること多いもんね。は~、本気で攻略組目指そうかな。


まあ、最低限の【裁縫】と【付与(エンチャント)】、【サイズ調整】取得を目指そう。

狩人じゃなかったら、基本職のLv10でスキル構成やステータスによって生産職の転職先が出ていたのかしら。

まあ、いいわ。

上位職がないとわかっている私は、何が出るか不安になることがないのが良いよね。

それに、"ドールマスター"はどうやら、生産職のくくりっぽいし。

まずはコツコツ積み上げねば。千里の道も一歩から、よね。生産職道、頑張るぞ~。


ふんむ、と鼻息荒くしていたら、隣でメリッサちゃんが針をワンピースの腰に刺そうとしている。

ちょっと危ないんじゃないかな。借り暮らしの小人みたいで可愛いけど。


「リオンちゃん、この余った革の切れっぱし、貰っていい?」

「いいよ? ゴミだから朝の掃除の時捨てるだけだもん。何するの?」


私は床に落ちていた革のくず切れを集めた。

細い切れをくるんと縦に筒状に丸めて、今日習った本返し縫いでチクチク。

んで、木っ端切れでまたベルトを作り、この筒を取り付けて。

ベルトは…。


「あ、このビーズももらっていい?」


小物作りで使う白いビーズをひとつ、つまむ。


「うん、いいよ」


リオンちゃんも興味しんしんで見つめている。

私は目打ちでベルトにいくつか穴を開け、片方にビーズを縫い付ける。


「あ、メリッサちゃん。その針を貸してくれる?」

「はい、おねーさま!」


メリッサちゃんはまたしずしずと私に針を捧げる。

……針を渡す仕草は固定なのか。


小物作りで使う木綿の余り切れを針の持ち手あたりでクルクル包み、グリップ代わりにした。それから小さくお椀状に縫った革の中心に針を通す。フェンシングのエペで使う剣みたいになったぞー。


これを先ほど作った筒の中に入れて、手招きしてメリッサちゃんを呼び、彼女の腰にくくる。

丁度いいベルト穴にビーズボタンを通して固定。


「できた! なんちゃって、ソードベルトー!」


なーんてね。


「どうかな? これで危なくないでしょ。針のグリップや革のところは使いづらかったら外していい…か…ら」


視線を上げると--メリッサちゃんが泣いていた。

私は驚きで言葉が出ない。

メリッサちゃんの瞳は紫色で、そのビー玉のような瞳いっぱいに涙をためて、こちらを見つめている。


「ご、ごめん、気に入らなかった!?」


私は慌ててしまって、思わず謝ってしまった。もしや、こんな粗末な出来のモノ、腰にくくり付けられて困ってしまったか!?

だが、メリッサちゃんは くしゃと顔を歪めて首をふるふるとする。


「……う、嬉しいのです……。おねーさまが、わたくしの身を案じてお造りになってくださったから……。それだけで、……ドールは嬉しいのです……。おねーさまは、おねーさまは…、わたくしの見込んだとおりのお方です……!」


--今度こそ私は言葉を失った。


これはイベントじゃない。

私の作ったものはレシピにもないし、なんのフラグにもならないものだ。

だけど、そんなものでも、メリッサちゃんは嬉しいと泣いてくれる。感動して--くれたのだ。

このメリッサちゃんの感情が、今度は私の心を揺さぶる。

大きく、激しく。


「げ」


私は呟いた。


「おねーさま…?」

「おねえちゃん?」


メリッサちゃんが真珠の涙をたたえて見上げる。

リオンちゃんも不安な目で私を見ていた。


「げ」


「げ…?」


「ゲロ吐きそう?」


--違うぞ、リオンちゃん!!


「げんがいだ~~~~!!!」


私は滂沱の涙を流した。もう、決壊だ。

ダミダごれはダミだ~~~~~~!!!!


「わ、わだじ、ごんなにぎだいざれだのも、よろごんでもらえだのもはじめでなの~~~~~!!! う、うれじいの。ありがどう~~~!」


ゲームでこんなに感情を揺さぶられるとは思わなかった。

私を一途に慕う、ドールのメリッサちゃんが愛おしい。これが、ドールマスターへの思慕故なら、そのくびきが存在するなら、私はむしろ いじらしく感じる。


ああ、もう、私ゃ、落ちたよ。やるぞ、ドールマスター! 苦手な類の転職試験を越えて、手に入れるぞその職業を! 転職先がないからじゃない。あえて、あえて狙うぞ茨の道でも。


ピコンと、またシステム音とアナウンスが出た。


『【工作・手芸全般】が発生しました』


「あら、…【工作・手芸全般】、割と簡単に生えた」


思わず泣き止んだ。


「おねえちゃん、現金って言われない?」


リオンちゃんがジト目です。

ハハハと思わず照れ笑い。


「おねーさまは笑顔がいいですわ!」


と、メリッサちゃんも ぴょーんと跳ねて、私の肩に飛び乗った。やーだ、結構ジャンプ力あるのね、この子。

あはは、うふふ、もう! と誤魔化すように笑ってしまった。延々と。

正直、今は何も言葉にしたくない。

さあさあさあ、と私は追い立てるようにリオンちゃんと一緒に帰路についた。

さー、今日の予定はこの後レベル上げかぁ。うーん、いいや、もう寝ちゃおうね。ゲームの中だけど! 何もかも忘れて!


何故って?




……黒歴史確定だからだよ……。


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