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22 足りないものは?

本日2話目の更新です。


冒険者ギルドの両開きのドアを押し開いたとたん、人人人の渦が眼前に広がった。

外の物寂しい風情と裏腹に、プレーヤーがわんさといるよ。おおお、なんか、衝撃。


「汗臭そう」

「フェザントちゃん、何気に口悪いよね」


いや、実際に体臭はないけど、見た目革鎧とか、中世風の人とか多くて。なんかね。

それにしても、この人の波、なんだろうか。


すると、ピンコロンとメールの着信音に気がついた。

見てみると、公式からの運営メールだ。



--『ハウジング実装のお知らせ。第3の町ドゥジエムに一定数のプレーヤーが到着したため、ハウジングシステム解放いたします。隠しパラメーターによる条件発生のイレギュラーイベントで個人所有、またはクランで所有可能の土地、家が手に入ります』--



「は、ハウジング…!」


震えるような声で読み上げたのはホノカお姉さんだ。さすが、待ちに待っただけある。

ヒューと口笛吹くハニーさん。

私もサーシャと顔を見合わせ笑顔になる。


「さっそく手紙をギルド長に届けてきましょう! それからハウジング情報を集めましょう!」

「うん! あ、でも この混雑のなか、カウンターの順番待ちが…」


--と思ったら、すぐ自分の番が来た。

アレか、インスタンスなんちゃらか。VRだもんね。並べば機械が処理してくれるんだもんね。無限に広がるギルド嬢…。万里の長城並みに超長いカウンターに、見えなくなるほどの人数のギルド嬢が座っている。そんなイメージかしら。


「ようこそ、プルミエの冒険者ギルドへ。ご用件は?」


そんなアホな空想していたら、カウンター越しにギルドのお姉さんに声かけされた。いけない、いけない。サーバー容量は無限じゃないのよね。


「ファンシーの冒険者ギルド長からプルミエのギルド長への手紙を預かっています」

「はい。かしこまりました。ではギルド長へ直にお届けください。こちらへ」


ギルド嬢は私を二階の部屋へ連れて行く。

イベント空間なのか、さっきまでの喧騒が消えていた。


二階の少し重厚な扉を開けて、ギルドの受付嬢は私を中へと促す。

すると大きな窓を背に、ご高齢のお爺様が考え込むように椅子に座っていた。


「ギルド長。ファンシーのギルドから手紙が届いております」


ギルド嬢はそう言って、しずしずと退出していく。


(あばばば。私はどうすれば)


どうすれば、じゃない。手紙を渡すのを思い出し、インベントリから慌てて取り出し、ギルド長へ歩み寄る。

プルミエのギルド長は、今更気がついたように面を上げた。


……私には、疲れきっているように見えた。


「あの、お疲れですか?」


思わず心配してしまう。

それで、ついインベントリからポーションを出して勧めてみた。


(ギャっ、私、ちょっと間抜けか!?)


そう思ったが意外なことにギルド長はそんな私の出したポーションを目を細めて受け取ってくれた。

私の中で、プルミエギルド長株爆上がりの瞬間である。キュンきた!


「ありがとう。旅人(フォリナー)にもお前さんみたいな人間もいてくれるのが嬉しいよ」


キュンキュンキュン!! やばい、実は私、お祖父ちゃん子であった。天邪鬼で気難しい私にもやさしいお祖父ちゃんが大好きなのだ。おじいちゃん萌え来た!


言いながらギルド長は老眼鏡をかけ、手紙に目を通す。


「おお、国にかけあってくだすったか…! ファンシーのギルド長…! 感謝する…!」


そして読み終わった彼は立ち尽くしていた私に目を向け、曖昧に微笑む。どこか、苦い思いもかみ殺しているようにも見える。ぐぐぐ、胸が痛む。恋? これ、恋!?


「フェザントと言ったな。ありがとう。……この手紙はプルミエの住人の今後を左右する手紙じゃった……。詳しくは話せんが、いずれ、お前さんに依頼する仕事があろう。お前さんならはもう少し狩人としての経験を積まねばならん…。おそらく2つも上がれば充分に力になってくれると思う。だが、その道はお前さんの運命を大きく変えるかもしれん…。その心の準備が整ったらここへまた来てくれんか?」


そう言ってギルド長は手元から半分に欠けているコインを取り出した。

--割符だ。


(ジョブLvをあと2つ上げろってことね。任せろ! んで、この割符が仲間の印。おおお、滾る~)


「ギルドで狩人に頼みたい依頼が多くある。それらを受けてみてくれんか。待っておるぞ」


「--はい!」


うん、お爺ちゃん、私頑張るよ!




「どうでした?」


うほほーいと浮かれた私にサーシャが言った。

あの後、階段を下りたら普通の空間に戻ったらしく、すぐ隣にサーシャ、ホノカお姉さんがいた。ハニーさんはお使いイベントは発生していなかったらしい。


「私、魔術師協会へ弟子入りすることになっちゃいました…。魔法の種類を増やせと言われて。土魔法生やしなさいと言われてます…」

「私は治癒師のジョブLv上げ。それぞれ言われたことは違うのかしら」

「私もジョブLv上げ。ギルドで受注して上げて行けって」

「うわー、いいな。私はLv19なのになんで発生しなかったんだろ」


ハニーさんが首をひねる。思った以上にハニーさんのレベル高くてビックリだ。


「商人はプルミエじゃあまり評判良くないからかしらねぇ。なんのかんの言って、プレーヤーメイドのポーションがファンシーより高く売れるからついついここで売るけど、NPCには行き渡らず、価格高騰しちゃっているんだよね」

「はあ」


このゲームはイベント達成時に結果発表であって、受注時に選択肢が出ることが少ない。でも、この空気。絶対なんか重要クエだよね。ハニーさんの残念な気持ち、わかるよ。


そう言って話していると、チラチラ見ているプレーヤーたちの視線に気がつく。このお揃いの装備のせいか、さっきから見られているのだ。なんとなく居たたまれなくなり、私たちはそれぞれ目的を果たすべく、冒険者ギルドで依頼を受注し、個々人で達成することにした。






「しばらくは私もイベント発生条件探すわ」


そう言って、ハニーさんはプルミエの常宿を紹介してくれた。なにげに初宿である。

私、リオンちゃんちで寝泊りしていたから。

満腹度が皆ヤバかったので、宿の食堂でお食事し、サーシャが情報を集めている間、料理に舌鼓。

ここでもチラチラ見られて居心地悪い。

ここで見てくるのはNPCの人達だ。

確かに、旅人(フォリナー)への視線がドゥジエムやファンシーと違う。


「やっぱり、何かのフラグで町の状態がフェーズ移行したのかしらねぇ」


ハニーさんもいぶかしむ。


「ここの宿、食事が美味しいから利用していたんだよ。でも、見て」


そう言って彼女はシチューの中をかき回す。


「お肉が入っていないでしょ。今まで出ていたシチューは大きい肉入りだったんだよ」

「こういうシチューかと思っていました」


つい、小声で返す。


「ううん。何か町も荒んでいるし…。イベントよね、きっと」


ネットを確認していたサーシャが何かを見つけた。


「掲示板に書き込みありましたよ! 私たちと同じようにお使いイベント発生してます…。皆プルミエへ手紙を届けていますね。--ハウジングのイレギュラーイベントじゃないかと疑っている人が多いです。ギルド長が言っていた"プルミエの住人の今後を左右する手紙"、"いずれ依頼する仕事"と、キーワードから見ておそらく…」


そう言って、ハニーさんを見た。

サーシャは言いづらそうにしていたが、えい、と口にした。


「あの…、隠しのカルマ値が影響しているんじゃないかって意見が多いです…」


それを聞いて、ハニーさんが あー、と声を出し額に手を当てた。


「カルマ値?」


訊ねたのはホノカお姉さんだ。

それに答えてハニーさんが天を仰いで言った。


「覚えあるある。カルマ値はまあ、ゲーム的に反社会的行為を犯すとたまる数値よ。PKとか、犯罪とか。おそらく、プルミエで活動していた商人は多かれ少なかれ、NPCに迷惑かけているもの…。プレーヤーによる素材買占め、高額取引、市場独占。【暁旅団】だけじゃなくね。言ったでしょ。ここではポーションは よそより高く売れるって。あー、もう、このゲームの使用目的忘れちゃダメだね!」


「使用目的?」


今度聞いたのは私だ。


「そ。最初の説明書で書いてあったでしょ。このゲームの開発陣は大学の研究所よ。都市管理用AIの育成目的のシュミレーションに使用って。つまり、ゲームの体裁の、AI用の箱庭なわけ」


「はこにわ」


「そう。AIが人間社会の管理するための練習場ね。だから、NPCの感情が豊かなの。これらを実際の人間と接触させることで育てることが目的。だから、運営の干渉が少なく、NPCが判断したイレギュラークエストによってイベント展開していくんだわ。もう、私ってば~」


と、熱く語ったところでハニーさんが正気に返った。


「あ、いやだね、私ペラペラと恥ずかしい。いい大人がゲームで熱くなっちゃってね」

「つまり、あんたも金の亡者だったと。運営の罠にハマったのね」

「ホノカに言われると腹立つね!」


ふむむ。


グルリと店の中を見回した。暗い顔の人達が多い。はしゃいでいるのはプレーヤーだけだ。

昼に見た、冒険者ギルドの依頼も、狩人向けが多かった。狩猟によるお肉の納品クエストだ。ドゥジエムのように牧畜があった街では害獣排除がほとんどだったのに。


むむむ。


(明日は、それこそ、狩人の仕事精一杯やろう…!)


その日、ゲームを始めてから初めて、なにかモヤリとした気持ちでログアウトした。




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