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魔法使いの予感

「おい! 今、なんて言った!」


「いや、だから無理しすぎだって言っているのよ!」


 禍々しい魔王城の城門を前にして、パーティーの中まである魔法使いが今さら尻込みをしやがった。


「まあまあ、勇者。魔法使い、俺も今さらそれはないと思うぞ? そう言うからには、理由があるんだよな?」


 パーティーのタンク兼物理攻撃の主役で、普通なら動けないとすら思えるような重装備に身を包んだ戦士が、その兜を外して魔法使いを見る。しかし魔法使いは気にもしていない。


 大体この女は、いつも慎重すぎる。


 慎重になることが悪いとは言わないが、何かにつけて慎重論を出すのが最近は気にくわない。


「じゃあ、言うわ。あなたたち、ここに来るまでにかかった日数は何日? その間に補給は出来たの? 僧侶はMPこそ大丈夫だけど、肉体的疲労は隠せていないわ。その原因が、勇者と戦士にある事は分かっているの? 戦士は止めてもモンスターに突っ込むし、勇者だってあれは何よ! 低レベルの魔物一匹に広範囲殲滅魔法を惜しみなく使ったり、かと言えば魔物の大軍に魔法無しで突っ込んだり。私がどれだけカバーしているか分かっているの?」


「いやいや、ちょっと待て。俺は効率を考えてだな。ちゃんと魔力の計算もしているぞ」


「ギルティ! それが出来ていたら、ここに到着するのはあと三日早かったわ!」


「うっ……」


「回復魔法は皆さんが考えるよりも、体力を使うんです。何より患部に近づけば近づくほど効果が高くなるのですから。範囲回復もありますが、あれでは一時しのぎです。そうなると、どうしても魔法使いさんに護衛してもらいながら、近づくしかないんです。しかも相手は攻撃してくる相手よりも、攻撃してこない相手を潰そうとしてきます。どうしても攻撃の手段が乏しい私のような回復系は、狙われるんです」


「わ、悪かった」


「おい待て、戦士! お前、逃げる気か!?」


「逃げるも何も、彼女たちの言っている事が正論だ。そしてパーティーに回復役がいなくなれば、戦線は維持できない。それは勇者だって分かっているはずだ」


「そういうのは、気合いと根性っ……」


 一斉に3人が俺を睨んだ。そんなに変なことを言っているのか? 今まで通りだろうが。


「私ね、今回数えたの。出発した町からここに来るまで、僧侶がいなかったら、勇者は27回、戦士は16回死んでいるわ。そしてそれを助けにいった私達は、戦士の回復が間に合わなかった場合に4回、勇者の場合で7回は死んでいるはずなの。そもそも斥候役の盗賊が抜けてから、被害が拡大しているのは分かっているんでしょ? そして、その盗賊だった彼女がパーティーを抜けたのは勇者のセクハラじゃない! いい加減にして欲しいわ! もう、回復用のアイテムは帰還分しか残っていないの! 魔王のところに到達もしていないのに、この消費量だと間違いなく魔王と対峙した時は、アイテムは空よ! その時はどうするつもりなのよ! 気合いと根性なんて言わないで!!」


「わ、分かったよ。じゃあ、今回は一旦戻ろう。体勢を立て直して、再度来れば大丈夫だ。魔物の種類も既に把握しているのだし、次は大丈夫だ」


「ちなみに勇者様は気が付いていますか? 魔王は既に私達を監視しています。アソコにある石像。あれはガーゴイルです。あの手の石像は、離れた仲間に情報をこっそりと知らせることなど簡単なことです。そしてこの周辺には、ガーゴイルを含めて石像タイプの魔物が20体はいます。私達はその真ん中にいるのです。魔法使いは先程からそれを警戒していますが、勇者と戦士はまるで気にもしていませんよね? 石像タイプの魔物は、普通の魔物と比べて全体が硬いため、急所と呼べるような場所がありません。一度で首を落とせば別でしょうが、魔王城の扉の前にいる石像が、それ程簡単に倒せるとは思えませんよ?」


「ちょ、ちょっと待て! あれは単なる飾りだろう?」


「……いや、魔物だな」


 そう言って戦士は急ぎ兜を被り直す。


「攻撃をしてこない所を見ると、私達は誘い込まれているわ。既に引き返せないのよ。あとは、二人がどれだけ怪我を負わずに魔王の所まで行けるかにかかっているわ」


「じゃあ、なんであんな事を言うんだ。今さら引き返せないだろう!」


「勇者。あなた自信過剰なのよ。正直、私達が魔王に勝てるとは思っていない。出来るだけのことはするわ。何せ名誉ある勇者一行だもの。せめて私達の攻撃が、一時的にも魔王の力を削いで、魔王軍の勢いを止められれば御の字。全て勇者、あなたの無謀な行動が招いた結果なのよ? 以前にも私達は注意したはずよね? それを勇者は無視した。死に場所はもう決まっているの。あとは、どれだけ私達があがけるかのみよ」


「ちぃ、飛んだ貧乏くじじゃねえか。しかし、今さらだな。勇者! お前の必殺技が頼りだ! 俺はしっかりと援護するから、決めろよ?」


「わーってるよ! どうせ後戻りできないなら、倒せば良いんだ! 気合い入れていくぞ!」




 その後、魔王が勇者に倒されたという情報も無く、勇者達は誰一人として戻ることはなかった。


 ただ風の噂では勇者達4人が、魔王のペットとして飼われているとまことしやかに言われているが、その真相を知るものはいない。

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