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プロローグ・1/2 1話 漂流夢:魔王

プロローグは2/2の構成を予定していて、これが一つ目になります。

 突き抜けるような青い空。

 ぽかぽかとした陽気。

 そんな気分が緩む日本晴れ。


「いいか、ここからXの値を求めることによって」


 カツカツと黒板に白い文字が書きこまれていく。

 授業を聴きながら俺は頭を抱えていた。

 まずい。非常にまずい状況だ。

 授業が全く頭に入ってこない。


「くぁぁあ……」


 ね、眠い。眠すぎる。

 昨日の疲れが取れてないみたいだ。

 俺の名前は葉桜流(はざくらながれ)

 ラーメン屋でアルバイトしている高校二年生。

 十七歳だ。

 生活費の貯蓄が厳しく、バイトの疲労から来る眠気を必死に耐えている。

 現在、色々理由があって一人暮らし。

 メシやその他の家事を一人でなんとかしている。

 寮なども考えたが、両親の居ない一軒家を放置する訳にもいかない。

 教師がチラっとこちらを見た。

 あくびしてる所見られたな、こりゃ。

 だ、大丈夫っすよ。ばっちり聞いてます。

 あんまり頭に入ってないけども。


「――であるからして、ここにy'=3xが」

「ねぇねぇ、3組の佐藤の奴、停学になったんだって」

「まじ~?きもくない?」


 授業に混じって女子の会話が耳に飛び込んでくる。

 こういう事情にはやたらと女の子は耳が早い。

 女子ネットワークは敵に回してはダメだ。

 あらぬ噂を振りまかれて学園生活が終わってしまう。

 例えば窓際で真っ白になってる後藤君。

 つい先日いかがわしいゲームがバックの中から見つかってしまった。

 学校でのゲームの貸し借りはよくあるんだが、荷物検査のタイミングが悪すぎた。

 鬼畜王なんてあだ名つけられたの後にも先にもアイツぐらいじゃねーかな。

 俺ら男子のフォローも虚しく、今も死んだ顔で授業を受けていた。



 教師の解説が耳を通り過ぎていく。

 ダメだ。集中しないと。

 昨日予習した範囲内だから一応なんとかなるんだけどもな。

 天気がぽかぽか陽気なのが悪い。

 瞼が重くなってくる。

 ダメだダメだ! 起きろ俺!

 気合で眼ぇ開けろ! ひんむけ! クワッ!

 クワッとした側から気が抜けていく。

 瞼がまたシャットダウンした。

 クワッがダメならキリッとしたらどうなんだろうか。

 発想の転換ってヤツだ。

 キリッ! あ、これ余計だめだわ。体力すっごい使う。

 一瞬、世紀末で劇画チックな顔になった。

 しかし、今の体力じゃこれも厳しい。

 ぐ、ぐぁあ……。

 起きろ。気合だ。

 俺に睡眠など要らぬ―――!!!


「ぐぅ……むにゃ……」





 おかしい。

 身体が動かない。

 金縛りか何かか?

 俺はさっきまで教室で授業を受けていたはずだ。

 教室ではないどこか、別の場所に浮いている。

 あたりを見渡すと白い石造りの壁が目に入った。

 レンガ調って感じだな。

 見覚えが全くない。

 明らかに教室のコンクリート壁じゃない。

 全体的に礼拝堂か何か、厳かな場所みたいな印象を受ける。

 ただし、赤いペンキをぶちまけたような血の海じゃなければだけども。

 周りに兵士のような死体が折り重なっていて、無事な死体がひとつもない。

 どの死体もどこか千切れ飛んだりしていた。

 兵士は白い装備で統一されているが、どれも血で真っ赤に染まっている。

 まるでこの部屋でなにかが爆発したような、そんな惨状だ。

 なんなんだこれは――!?


『―――!!』


 悲鳴を上げようとしたが声がでない。

 怖いはずなのに。

 恐ろしいはずなのに。

 どうにもちぐはぐで俺が俺だという感覚がない。

 意識だけでふわふわと浮いている感覚。

 監視カメラにでもなった気分だ。


「ここか、夢見の宝珠があるのは」

「ええ、魔王様。ここに安置されています」

「わざわざルナルヴィ法国まで転移したのだ、あってもらわねば困るな」


 俺の後ろから二人ぐらいの声が聞こえる。

 振り向こうとしたが、そもそも首が動かない。

 というか今の俺に身体があるのかすら怪しい。

 情報が欲しい。

 眼をよく凝らしてみると視界の端に手足みたいなものが映った。

 俺の身体がうっすらと透けて浮かんでいる。

 え、なにこれ。

 俺もしかして死んでるのか?

 死んだときに枕元に浮かぶご先祖様的な。

 俺自身が幽霊なったってヤツなのか!?

 ハッハッハ、んなバカな。これマジ?

 体に対して感覚がリアルすぎるだろ。


「この世界のどこを探しても奴の痕跡は見つからなかったのだ。

 となれば、ここではないどこか、異世界に他あるまい」


 二人は会話をしながらこちらに近づいてきた。

 浮いている俺の真後ろぐらいに気配を感じる。

 どうやら二人とも俺が見えていないらしい。

 黒と金に装飾されたマントを羽織っている金髪金眼のヤツ。

 捻じれた角を側頭部から生やした悪魔っぽい女性。

 その両名が俺の身体を通り抜けて行った。

 金髪の方が若干背が低い。

 二人が通り抜ける時に身体に奇妙な感覚が走った。

 背筋がぞわぞわする。

 ぬるっと自分の中を何かが通り抜けるような。

 そんな感じのアレ。

 うぉぉぁ、この感覚なんか気持ち悪いな!?


「ですが、その人間の身体でこの規模の魔法は少々お体に障るかと……」

「この規模? ハッ、この程度ならどうということはない」


 俺がなんともいえない感覚に唸っていると二人は部屋の中を進んでいった。

 ちらりと顔が見えたが、どちらも整っていて美人だと言っていい。

 金髪のヤツは男にも女にも見えるから正直どっちかわからんが。

 この惨状はどうやら金髪のヤツが作ったようだ。


「だが――この身体を、ルミナを侮辱する事はお前でも許さん」


 金髪が恐ろしい形相で側にいる女性をギロリと睨んだ。

 視線だけで人を殺せるならば、多分殺せているぐらいの迫力。

 こえぇ……何だアイツ……。

 絶対ヤバイ奴だ……。


「―――ッ! 申し訳ありません! 直ちに自害させて頂きます」

「良い、許す。二度目はない」


 悪魔みたいな女性は謝罪の言葉を述べ、すぐさま自害しようとした。

 手を黒い光で包み、自分の首の後ろから振り下ろそうとしたのだ。

 それを金髪のヤツが手で掴んで止め、興味が無さそうに女性から目を離した。

 どうやらこの二人は主従関係にあるみたいだ。

 とすると魔王と呼ばれたのは金髪の、ルミナってヤツの事になる。


「これが夢見の宝珠か。確かにいい結界で守られている」


 ルミナが部屋の奥にある祭壇を見つめていた。

 祭壇の上には黒い宝珠がキラキラと輝いている。

 夜の星空がそのまま球体になったかのような、そんな模様だ。

 大きさはリンゴぐらいで、ガラスケースみたいな光の箱で守られていた。

 ルミナが手を伸ばすとバチリと火花が散る。

 あいつの指先から焦げたような煙が立ち上っていた。

 その様子に食い入るように見入ってしまう。

 随分とファンタジーな光景だな。綺麗だ。

 現実感ないし、やっぱりこれって夢じゃね?

 そんな他人事みたいな考えをしているとばしゃりと音がした。


「が、はぁっ……! お前らの好きにはさせん!」

「――む?」


 さきほどまで血の海に浸っていた兵士が凄まじい勢いでルミナへと突進する。

 甲高い音を立てて火花が散った。

 完全に意識外からの奇襲だった。

 だが、死角からの攻撃すらアイツには取るに足らない物だったらしい。

 空中で刃が静止してしまっていた。

 彼から飛び散った血の雨がルミナを避けて球状に落ちていく。

 まるでそこに見えない壁でもあるみたいだ。

 彼がいくら力を込めようと刃はそれ以上進まない。

 ギリギリと金切り音が響く。


「ほう、生き残りが居たか」

「魔王――!! 貴様……ッ! 貴様だけはぁああああ!!!」


 彼は異常な眼光で魔王ルミナを睨んでいた。

 元々白かったであろう装備が血で真っ赤に染まっている。

 頭の先から下まで赤くないところが一つもない。


 まさかこいつ、今まで血だまりで息を止めてたのか!?


 わからない。理解できない。

 一種の狂気すら感じる。

 あまりの光景に頭がついてこない。

 これは本当に俺の夢なのかよ。


「良い根性だ。だが、無意味だ」

「ごはぁっ……!」


 ルミナが空中で静止している兵士を蹴り飛ばした。

 身体が壁まで吹っ飛び、激突して新しい血の沁みを作る。

 彼はそのまま崩れ落ち、全く動かなくなった。


「そのまま沈んでいれば生き残れただろうに」


 ルミナは兵士を見ながら呟く。

 こいつ、人をサッカーボールみたいに蹴り飛ばしやがった。

 なんて身体能力してやがる。


「宝珠を使用している間は任せたぞ」

「御身を守護させて頂くありがたき幸せ。お任せください」


 部下に声を掛けるとルミナは祭壇に向きなおった。

 女性悪魔は優雅に一礼するとそのまま部屋から退室していく。

 その直後。

 背後から振動と破裂音が鳴り響く。

 悲鳴と怒号。

 それに金属がぶつかり合う鈍い音と爆発音が断続的に続いていた。

 なんなんだ!? 戦争でもしてんのかこいつらは!?


「さて、使わせてもらうぞ」


 ルミナは右手を黒く輝かせると、祭壇へ向かって手を横に振りぬいた。

 ガシャンという音と共に光の箱が崩れる。

 結界の破片がキラキラと光を反射して空気に溶けて消えていった。

 ルミナは黒くなった右手でそのまま夜空を凝縮したような球に触れる。


「――展開(エグゼクト)検索(エクスプロード)


 ルミナが呟くと部屋がプラネタリウムのような星空に埋め尽くされた。

 血の海や兵士が消えて無くなり、俺と魔王ルミナだけがこの空間に残る。

 いや、これは宇宙だ。

 惑星みたいな物が見えて、流星が流れていく。

 背景には無限に続く夜空と、星々がキラキラと無数に輝いていた。

 さっきの宝珠の中身はこんな感じになっていたのか。

 ものすごく綺麗だ。


 ルミナは目を閉じてしばらく佇んでいた。

 なんだ、なにかとてもまずい予感がする。

 早くここから逃げなければと全身が叫んでいる。

 だけど、身体が全く言う事をきかない。

 ピクリとも動かない。


「――見つけたぞ。ルベド」


 あいつが、金色の魔王が目を開けて俺に視線を向けていた。

 まずい。

 完全に俺を見ている。

 宙に浮いている俺に向かってゆっくりと歩いてきた。

 金と黒の光がルミナから放たれていた。

 凄まじい圧力を感じる。



 来るな。

 こっちに来るな。

 魔王は俺に向かって歩きつつ、真っ黒な手を伸ばしてきた。

 クソッ来るな、俺に近寄るんじゃない。

 俺に、俺に近寄るなぁぁああ!!!

 奴は俺の真正面に来ると顔を覗き込んだ。

 こちらからは逆光でよく見えない。

 荒れ狂う光の中、金色に光る眼だけが俺を見つめていた。

 金と黒の洪水に押し流されそうだ。

 だけど俺の身体は何かに引っかかってるみたいにその場から動けない。

 アイツの眼が怖い。完全に俺を殺す気だ。

 クソッ! 一体なんなんだよ!? この状況は!

 ヤツは闇色に輝く手をゆっくりと俺の心臓のあたりに置いた。

 必死に逃れようと身を捩るが、どうしようもない。

 金髪の魔王がニタリと笑う。


「――逃がさん。貴様だけは」


 次の瞬間には俺の胸板を、その黒い右手でブチ抜いていた。

初めての投稿になります。

色々上手く表現できない部分。

二重表現や言い直しなどが多いとは思いますが読みやすい文章を心がけていきたいと思います。

プロローグ2話目も読んでくれると嬉しいぜ!


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