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覇王様は記憶喪失!?  作者: りっつー
chapter 1 記憶喪失の少女
4/5

episode 3 黒煙龍派

アルスが先導し、森の中を歩いていく。

アルスが歩く早さに合わせて、何かの音が聞こえるが、オメリアは気にも止めなかった。


「ところで。さっきの忍者の格好してた人の生死は心配しないんだね」


さっきの忍者?はてと首を傾げ、ああ、と思い当たった。心当たりがあったからだ。


「それってさっきこくえんりゅーなんたら?って言ってた方ですよね。黒煙龍とか痛々しい」


忍者、というのは先程の影の事だ。オメリアには早すぎて姿が見えなかった、と解釈する。

オメリアの言葉にアルスは黙って頷いた。反応も何もなかったが、きっと彼も痛々しいと思ってたんだろう。勝手に納得した。


「さっき私を殺そうとした相手を気にかけれるほど精神は図太くないので」


オメリアは今の心情を吐露したつもりだ。そう、つもり。


「そっか。まぁ当たり前かもね」


またもや返事はそっけなかったが、おそらく記憶を失う前のオメリアも人の生死についてこんな事を言ってたんだろう。アルスにとっては当たり前。

飼い主がいれば、飼われている方は似る。逆もまた然り。

アルスが昔も、今も襲いかかってきた人を平気ではなくとも見せしめのために消し炭にするような人物像であれば、前のオメリアはそれを咎める事なく、悲しむ事もなく、主人の愚行を放置していた事になる。当事者も傍観者も人殺しとなんら変わらない。

だからこそ、オメリアは、聞いてみる事にした。


「あの、なぜ黒煙龍の忍者の人に私達は追われてるんですか?

そもそも、黒煙龍とは一体?」


そう、この二つだ。

アルスやオメリアだけが悪いのかと思うのなら、前述の通り人殺しでいい。

だが、もし、忍者側も悪いとしたら?または忍者側だけに非があり、無関係でもなく、手負いの少年に襲いかかってきたのなら?それは正当防衛として、世間に通る筈だ。

アルスはなぜそれをしない?


「うーん...。どこから話そうか。

まず追われてる大勢の勢力について」


え?大勢の勢力?


「今の俺たちは全世界から狙われていると言ってもいいほど詰んでるんだ」

「...はぁ?」


全、世界...?

どんだけ殺人を犯したんだ、という決めつけの思考を慌てて振り払う。

まだアルスが殺人鬼とは決まってない。呼吸を整え、落ち着かせる。


「追われてる理由は言えないけどね。でも俺らを狙ってるのは黒煙龍派閥だけじゃない。ああ、俺は殺人とか犯して懸賞金かけられてるとかじゃないよ」


どうやら頭の中が見えるらしい。そこまでできるというのはよほど付き合いが長かったのだろうか。と他人事のように分析していく。

...理由はいつか話してくれるのだろうか。


「黒煙龍派閥は元々隠密な行動が得意な集団でね。素早いんだよ。情報源もどこから仕入れてるのか知らないけど、俺達の行動は筒抜けだったみたいだしね。どうしても、場所を探されてしまう。

だから追われなくていいように俺達が怖いと思えるぐらいに破壊しておくんだ。それで黒煙龍派や、他の派閥がどう出るのかはわからないけどね。

...うん、様子見なのか知らないけど、下っ端に単独で遭遇してよかった。あの実力以上の持ち主が何人もいたらオメリアを守りきれなかったよ」


スケールのあまりのでかさにオメリアは絶句した。あれが、下っ端?オメリアには早すぎて姿形も見えないヤツが?

そんなの厄介どころか厄災だ。


「他にもいろんな派閥があってね。黒煙龍派閥みたいな過激すぎる派閥はないと思うけど、あの手この手で捕らえに来ると思う。

...特に知らないお兄さんにはついていっちゃいけないぞ」

「お兄さん?」


あなたも知らないお兄さんですよ、という言葉をのどの中で飲み込んだ。

アルスはお兄さんというより、同年代じゃないかと思うぐらい、幼い顔立ちだ。

背丈は顔半分ぐらいしか変わらない。

それに、厳つい鎧を身につけてる割に、包帯で巻いていない顔半分の方を見ると、輪郭が出張ってないからだ。

...そんなことより、「知らないお兄さん」限定なのを気にしよう。


「うん。俺と君の友達だったんだけど、寝返ってね。彼は裏切らないと思ったんだけど...。あ、でも彼から見たら俺達が裏切ってる事になるのか」

「ええ?なんですかそれ。どっちも悪人?」

「....なんでオメリアは俺を悪前提で話をするんだい?どっちも譲れない正義がある、でいいだろ?」


譲れない正義。

...とそこで、ようやく、金属が擦れる音に、気づいた。

前から聞こえるその音。こんな森の中に金属なんてーー


「あ、マントが枝に引っかかった」


ーーあった。鎧の肩から流れる赤色のところどころ破けているその布は、自然に阻まれてはためかなくなっていた。


「えっと〜、アルスさん」

「なんだい?」

「その鎧目立つし、音もたってしまうので脱ぎませんか?」









光は真上からだけだったのに、前方からも見えてきた。森の終わりが近い。

だがその手前に逆光を浴びながら、オメリアが最初に寝ていたものとは違う木製の小屋が建っていた。

しかし外観は何かの爪の跡、釘で打ちつけたような壁など、一番最初の家に比べてあまり、豪華ではなかった。

オメリアは顔をしかめた。


「この小屋は?」

「俺の隠れ家さ。いや、こんな森の入口にあるのは隠れているとは言わないか。

じゃあ秘密基地2かな」


秘密でもないと思うが、自慢気に鼻を鳴らすアルスを見て、何も言えなくなった。

高い地位だった坊ちゃんには家を人に伝える事が新鮮なのかもしれない。とまた勝手に解釈した。


「よし、中に入ろうか」

「はい」


小屋の玄関の取っ手を右回しにひねった。

解放感溢れるリビングが目に飛び込んで来た。

窓からは優しい光が流れこみ、埃も立っていなく、いい匂いが漂ってくる、外観からは想像出来ない清潔な小屋。

誰が手入れしてるんだろうか。


「あの、アルスさんはここに来たりしてるんですか?」

「いや、入ったのは一年ぶりかな?

数日前はヴァボラス森林に反対側から入ったし、こっち側には来なかったよ」

「じゃあなんでこんなに綺麗なんですか?まさか私のような少女を監禁して掃除させてるのですか?」


半目でアルスを見た。見ているだけで、冗談半分だったが。

しかし、こんな言葉を本人の前で言えるということはその本人も冗談と捉えているだろう。

アルスは口元を押さえて小さく笑い、首を横に振った。


「違うよ。これは風の技の一種で、物の鮮度を保つ力があるんだ。それを応用して、部屋にかけたんだ。

小屋を建ててから何年も掛けてる分、俺の能力と、自然のエネルギーは徐々に失われるけど、大した消費じゃないから大丈夫。オメリアみたいな可愛い子も閉じ込めてないから全部大丈夫」


照れる事を平然と言うアルス。微笑みを消さないまま、膝をつき、なぜか床を手の甲で叩いていた。

その笑みは鎧さえみなければ万人受けする笑顔だろう。鎧さえ見なければ。

オメリア自体、なぜアルスの鎧を嫌ってるのかわからないが、風で物の鮮度を保つとかいうブッとんだ話もあるのだ。世の中はわからない事だらけでいっぱいだ。前のオメリアが鎧がなんとなく嫌いだったのかもしれない。そこまできにする必要はないと納得する。

ただ、それとこれとは別であり。


「...やっぱり気にしますよ」

「え?」

「そんな鎧でかくて、重いだけですよ!?捨てちゃいましょう!私もちゃんと逃げるので、もうちょっと身軽にしましょうよ!!二人で逃げれるように!」


相手は素早かった。きっと、このままじゃいけない。

オメリアという枷があるままでは、近いうちに、あの忍者よりも上の連中に殺されるだろう。

怪しいと思っていても、一度助けてくれた、主人らしい人を見捨てる事は出来ない。

だから、鎧を捨てて、逃げ回ろうと提案しただけなのだが。


「...それはダメなんだ」

「...?戦場に甘さなど必要ないと思います。弱っちい私が言うのもあれなんですけ」

「そういう問題じゃない。置いていくのはいいけど、捨てるのはダメだ」


アルスは床から目を離して、閉じ、開いた。

そして、鎧をまるで、何かに重ねているように、優しく胸に手を置いた。

オメリアは、今更ながら失態に気がついた。

あの鎧は大切な物なのだろう。好きになる理由はわからないが、人には価値観の違いがある。きっと、捨てると言う言葉の刃は、彼を深く傷つけただろう。


「...そんな大切な物なんですか」

「...」

「ごめんなさい」


だからアルスはこの小屋に寄ったのかもしれない。オメリアの「鎧を脱いで行きたい」との思いを聞いて、せめて、この小屋に鎧を置いていくことにしたのだろう。アルスはこの小屋も自慢気にしていた。高級そうじゃないと内心バカにしたこの小屋も彼にとって大切な物。

オメリアの自分勝手で我儘な願いを彼は聞き届けてくれたのかもしれない。


「いや、謝る必要はないさ。元々、君のいう事に従うつもりだったしね。

...でも、少しだけ時間をくれるかな」


その問いかけにオメリアは黙って頷いた。むしろここで断れるだろうか。

アルスは顎に手を当ててある一面を凝視している。

何を思いついたのか、何かを唱えると、床に陣が映り、一瞬だけ光ったかと思うと、次の一瞬には床があったところには階段が現れていた。


「オメリア、そこの椅子に座って待っててね」


階段をかけ降りていった。

振り向きざまの微笑みの影はさっきより濃くなっていた。

今まで怒らなかった彼にも、内に秘めてるものはあったんだな、と思い知らされた。

無意識にアルスのその優しさに甘えていたのかもしれない。アルスには何をしても良いのかと思ってたのかもしれない。

オメリアは椅子に腰掛け、うなだれた。

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