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覇王様は記憶喪失!?  作者: りっつー
chapter 1 記憶喪失の少女
2/5

episode 1 はじめまして

目が覚めると、茶色い天井が見えた。

数秒立ってから、上半身だけ起こしてみる。

なんだか、長い間眠っていたような気がするのに、身体のだるさは感じない。

ふと、横をみる。

緑色のカーテンはふわふわと風に吹かれて舞い、そこから見える光はお日様がもたらしてくれているものだろう。ベットの横の小さなテーブルには、ピンク色のお花さんが綺麗に花瓶に入れられている。


「...?」


部屋の外から、足音が聞こえる。これは、こちらに向かってきている...?


「...オメリア、開けるぞ」


ノックを3回。ドアが開き、声の主が現れる。

オメリア、と呼ばれた少女は、姿を見せた少年を...なんだこいつと思った。

彼は、半分の頭を包帯でぐるぐる巻きにしていて、なのに、肩に牙?のようなものが生えている黒の鎧に、赤のマント、歩くたびに軋んでいるブーツを履いていた。そんなやばいオーラをひしひしと感じれそうな人が左手には風船、右手には皮をむいた林檎を可愛らしいお椀に乗せているため、なかなかシュールである。


「...とか言っても、返事はないか...ん?」

「あの、怖いんですけど、どなたですか?」


目があった瞬間、

彼の声にならない叫びが辺りに広がった。







「本当にオメリアなのか?俺の事は覚えてないようだが...」

「オメリア...?」


オメリア。おそらく固有名詞だと思われるそれは、少女の名前なのだろうか。

首を傾げながら自問自答する、少女ーーーオメリア。

一方、鎧の少年は、歓喜に満ち溢れていた。


「よっしゃぁ!!オメリアが蘇ったぜ!」

「蘇ったって...。私を殺さないでください。

というかなんで病人の前でそんな元気に振る舞えるんですか」


今にも飛び跳ねると天井に穴を開けそうな彼に、オメリアは呆れる。記憶喪失だとわかると普通はなんとも言えない顔をするものではないのだろうか。

いや、呆れるというより、ついていけない。

すると、彼は笑顔から、すぐ表情を変えた。


「...すまない、取り乱した。

また話せる事が嬉しすぎて、つい、ね。

こほん、オメリア、今の君はいつもの君じゃないようだね?」


照れてるなと思ったら急に声音が変わり、オメリアは驚愕した。

彼の声の高さにそぐわない、どこか大人びている声。それでいて、優しい顔。

こいつは只者じゃない。


「いつも、と言ってもそのいつもがわからないから、こうやって貴方を疑っているのですが?」


今のオメリアは、冷たい瞳で睨みつけているはずだ。

しかし、目の前の黒の少年はその視線をさらりとかわし、


「...また、疑われてしまったようだな」


と、また笑顔で笑った。

「また」を強調しているのが鬱陶しい。


「で?貴方と私はどういう関係なんですか?なんか見知らぬ鎧の男が喋りかけてきて怖いのですけど」


できれば、関わりたくない人物像にぴったりと当てはまっていた。

こういう見た目が豪勢な奴は野心家であり、高飛車でクズだと、相場が決まっている。

表情もころりと変えられるので絶対に暗殺者向きだ。いや、裏稼業向きで...。


「いや、君と俺は主従関係だな。俺が、君の主君?だよ。

それから、鎧の男とか呼ばないでくれ」


その一言で今度はオメリアが凍りついた。

主従関係?こいつと、私が?したがっている、だと?

こんな大量殺人起こしてそうな奴と?

顔に出ていたのだろうか。アルスの眉にシワが寄った。


「オメリア、せめて表面上は隠そうか。

ーー君は本当疑り深いね」


順を追って説明するよ、と言われたのでオメリアは黙っておく事にする。

今の時点でのオメリアの知人は彼しかいないから。目の前の少年は信用は出来ないが、自分自身も信用出来ない。彼のオメリアへの「疑り深い」という評価は当たっているのだろう。


「俺はアルス・ファーブル。君の名前はオメリア・ガナン。二人合わせて、アルファオメガコンビ、とか呼ばれてるんだ」

「...つまり、二人で連携して暗殺してたんですね」

「...誤解を解くために言っておくが、暗殺者とかじゃないぞ。普通の主従関係だよ。ほんとに」


アルスさん。

どうやら暗殺者じゃないらしい。


「『普通の』主従関係と言いますけど、だいたい、誰かに仕えている時点で普通じゃないですよね。一般人はそんな堅苦しい関係にならないと思うのですが」

「相変わらず鋭いなぁ」


オメリアから発せられる敵意をまたもや少年ーアルスは笑ってごまかす。

もうこいつは限りない黒だろう。

あまりにも誤魔化しが過ぎている。

おそらくこんな身分もわからないオメリアを引き取って、主従関係ということにし、洗脳するに違いない。


「...また失礼な事考えてる?

ちゃんと話を聞いてくれないか?」

「いや、ただでさえ怪しいのに聞くわけないじゃないですか」

「そこをなんとかしてくれ。無理に、とは言わないが、できれば聞いて欲しい」


オメリアが拒否しても、何回も何回も彼は頼み込んでくる。

強引に話せばいいのに、と思うが、彼なりの優しさがあるのだろう。

オメリアとしても色々知りたい事がある。


「仕方がないですね。聞いてやりましょう」


だから、ついに折れて承諾してしまった。...という事にしてやろう。

アルスは上から目線の態度にも何も申さなかったので、別にそのぐらいはいいんだろう。鎧を着てて傲慢そうなのに、器が広い男だ。


「それで?」

「それで?って言われてもなぁ...まぁ要するに俺と君はパートナーだったんだ。頼むから信じて欲しい」


だ、そうだ。


「つまり、主従関係であり、相方だと。ではなんの職業をしてるんですか?」

「.............依頼された、その中でも危険な仕事を受ける職業、かな」


今、とても間が空いた気がする。


「いや、絶対何か隠してますよね」

「大丈夫、何も疚しい事はないからさ」

「知ってましたか?そういう方に限って何かを隠してるんですよ。白状したらどうですか?」


鋭い目で睨んでも、アルスは涼しい顔だ。

前言撤回だ。言動全てが怪しすぎる。


「それで、他に質問はあるかい?」

「軽く流しましたね...まぁいいですけど。

じゃあ主従関係について。どうせ貴方が奴隷の私を調教して洗脳して、触手でわーってやるんでしょう?今からここから逃げて訴えてやってもいいんですよ?」

「...俺のイメージってなんだろう」

「はやく答えてください」


アルスは悲しい顔をした。

オメリアは続きを待っている。

すると、彼が口から零した言葉。


「あながち間違ってないけどな。俺は君の主人。君は奴隷のようなものだよ」

「...失言でしたね。か弱い記憶喪失の少女をたぶらかしやがって」

「ーーだけど、君の自由にしたらいい」


オメリアは掴みかかろうとしたが直前で止めた。アルスは物怖じもせず、オメリアの目を見つめた。


「君は俺を信じてくれた時がある。今も変わらないね。だって、今話しているこの瞬間に殴る事も逃げる事も出来る。なのにそれをしないという事は俺を信じてくれているんだろ?」

「...。」

「今度は俺のいう事に従うだけじゃなくて、自分の意思で前に進めばいいんだ。それを手伝うためならば、俺はなんでもしよう」


その噓偽りのない青色の瞳は、オメリアから目を外し、また顔を上げ、輝いた。


「それより、今は林檎を食べようか。お腹すいただろうからね」


オメリアの腹時計では昼食時だった。







あのあと、色々な事を聞いた。

オメリアが倒れたのは数日前らしい。人に見られる前に大急ぎで運んできたそうだ。

なぜ人に見られるのが嫌なのかは教えてくれなかったが、大急ぎということは、大切に想ってくれてたのかなぁと考えるとアルスの印象が半回転して変わる。

ただ、アルスの職業についてとか、オメリアの生まれ故郷とか、どういう主従関係なのかは教えてくれない。いや、はぐらかされていた。全然怪しさが抜けない。

それから二人の間に会話はなかったのだが。


「ところで、なんで暗殺者とか憶測でしかない事を考えたんだい?」


林檎を噛み砕き、取り、口の中へ運び、また嚙み砕く。

2つの音が交互に部屋に響くなか、アルスは突然尋ねてきた。


「なんででしょうね。記憶を失くした所為でアルスさんとは実質初対面のようなものなのに、貴方を過剰に疑っています。その暑そうな鎧と見た目が完全に首狩りにしか見えないだからでしょうか。でも、よく考えたら鎧を着ていたからと言って暗殺者とは限らないですよね。これも記憶を失った弊害とかでしょうか」


自分でもわからずに言っていたようだ。

だが、一つだけわかる。


「あ、でも...なんだろう、アルスさんといると、あったかい気持ちになるんですけど、同時に悲しい気持ちになるって言うか...そんな感じにはなりますね」


そう、オメリアは今の心境を吐く。

アルスはただ一言、「そっか」といい、そのままこの話は終わった。

しばらく黙って林檎を食べた。

オメリアにはわからない。

自分が何者かは勿論の事、自分の感情や、彼、アルスの事、何故アルスは頑なにオメリアの事を教えてくれないかのかという事。

そして、先ほどの言葉。


『自分の意思で前に進めばいいんだ』


アルスは、何を言いたいのか。

全て、わからない。

記憶を失くしても、こうやって冷静に考えられる自分が、怖い。







「ごちそう様でした」


林檎を食べ終わって、開口一番にアルスが言った


「オメリアは、どこか行きたいところ、ある?」

「行きたい、ところですか...?」


頭の中で地図を思い浮かべると容易に出てきた。どうやら、記憶がなくなったのは常識などではなく、思い出だけらしい。


「水の都アスミア。魔界都エストル。王都 ファーボエンス。ざっとこのぐらいですね」


世界には、大きな都が4つ、街が10つ、村が7つある。

その中でも、絶景が見えると言われるアスミア、魔王の居城エストル、世界最大の商業都ファーボエンスに行ってみたかった。

しかし、アルスは微妙そうな顔をした。


「なんでこう、ピンポイントなんだよ...」


何か、アルスは呟いている。不満なのだろうか。オメリアは意地悪そうに笑みを浮かべる事にした。


「あの、私の為ならなんでもするって言ったのはだれですか?」

「うっ...確かにそうだけど。だが、俺についてきていいのかい?見るからに疑ってたじゃないか」

「いえ、行きたい場所を言っただけで、誰もアルスさんについていくとは言ってませんよ」


ついにぐうの音も出なくなるアルス。屁理屈っぽいが言われてみればそうである。

そんなアルスを見かねたオメリア。少し経ってから、付け加えた。


「...でも、ついていきましょうか」

「!!」

「だって私は貴方の相方だったのでしょう?それに、アルスさんの他に親しい方もいませんし、何もする事がないですし...。だから」


息を吐いてから、アルスに向けて笑いかけた。


「私を、目に見える全ての所へ連れて行ってください」


アルスは、驚いた表情で、一目み、真顔で二目み、眉を八の字にして、三目見た。

そのまま、アルスはオメリアの胸の中へ飛び込んだ。


「よかった...!ほんとうに、よかった...」

「あ、ちょっとアルスさん、息が、苦しいです...!」


何が良かったのかわからないし、とても重かったが、鼻をすする音が聞こえると、嫌味も言えなくなった。

ただ、一つ、久しぶりに人の温もりを感じた気がする。オメリアはつられてまた笑った。


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