牢屋
「………ん…あ。」
痺れる体にリオは顔を顰める。
「大丈夫か?」
「……セト……………………デさん。」
リオは先ほど夢見た過去の世界に引っ張られそうになりつつも頭を振って今の自分が女である事を思い出す。
「大丈夫……です、このくらい……。」
「……。」
リオは自分に向けられる視線でセトーデが心配してくれているのが分かるのだが、それでも、彼女は彼のその視線を無視する事しか出来なかった。
「どのくらい…気絶していました?」
「さあ、俺も気づいた時にはここにいたからな。」
「……。」
「あのさ。」
「はい?」
「…………リオは言ったよな。」
「何をですか?」
「能力者をあぶりだす為に、火を放ったりするとか……。」
「………言いましたよ。」
リオは出来るだけセトーデを見ないように顔を背けた。
「何でそれをお前が知っているんだ?」
「…………。」
リオはセトーデが自分を疑っているのを気配で悟っていたが、何も言う事が出来なかった。
もし、ここで、何か言えば自分は何か彼に余計な事を言ってしまうような気がしてならないのだ。
それは、下手をすれば彼の人生を歪めてしまうだろう……。そう前世のように……。
「――っ。」
嫌なフレーズを思い浮かべ、ゾクリと背筋が冷えた、リオは自分の考えを振り払うように小さく頭を振って小さく息を吸った。
「……今はそれよりも脱出方法を考えないと。」
「……質問を無視するのか?」
「………ごめんなさい。」
「……。」
謝るとセトーデが自分を疑うのが分かったが、彼女はそれでも彼との距離を置きたかった。
「……この枷……。」
リオはジッと自分の腕に嵌っている枷を見て溜息を吐く。
「お粗末ね。」
「はぁ?」
リオの言葉にセトーデは顔を顰める。
「この枷はどうやら、火、水、風、地の属性の四つのマナを封じられるだけで、後は……特にないわ。」
そう言うとリオは獰猛な笑みを浮かべた。
「アイテムボックス……銀風の短刀。」
リオはそう言うと右手に銀色のナイフを手にした。
「何だよ、それ……。」
「アイテムボックス……、簡単に言えば四つの属性以外の無属性の術、私のオリジナルスキル。」
「便利だな。」
「そうでもないわ、制限もあるし、枷の種類によっては無効にされる。」
「……つまり、お前で言うお粗末という事か。」
「そう、ちょっとジッとしていて。」
リオはここでようやくセトーデと向き合う。
セトーデの銀色の瞳はどこか薄暗い何かが浮かんでいて、リオはズキリと胸を痛めるがそれを振り払うように短刀を握る。
「はぁ……。」
銀風の短刀を一閃させ枷を真っ二つにする。
「すげー……簡単に切れやがった、つーか、この枷…鉄だよな?」
「ええ、鉄よ。」
「……怖ぇな。」
「大丈夫よ、これは人の体は傷つけないようにできている、特別な短刀。」
「……何か意味ねぇな。」
「そんな事ないわ、確かに人を傷つけるという事には向いていないけど、敵に切り付けて怯ませる事や、今回みたいな事にはすごく向いている短刀なのよ。」
「そうか、んで、お前の枷はどうするの?」
「口にくわえて、枷を切る。」
「…………。」
リオがそう言うと何故だかセトーデは溜息を吐いた。
「何?」
「何で頼らねぇんだよ。」
「何で?」
「……貸せよって事だ。」
手を差し出すセトーデにリオは目を見張る。
「いいの?」
「いいから貸せ。」
リオはセトーデに短刀を渡した。
「行くぞ。」
そう言うとセトーデはリオの枷を切った。
「ありがとう。」
リオは淡く微笑み、それを見たセトーデは何故だか体を強張らせた。
「それじゃ、行きましょうか。」