異能者狩り3
リオはセトーデの背中を見つめながら溜息を零した。
「……強引なところは本当に変わっていないね。」
「ん?何か言ったか?」
「セトーデさんはこの街は初めてじゃないんですか?」
「初めてだぜ?」
「…………えっと、どこに行く気なんですか?」
「適当。」
「へっ!」
てっきりどこか行く当てがあるのだと思っていたリオはセトーデのまさかの返答に目を丸くさせる。
「ちょっと、待ってくださいっ!」
「ん?」
「行く当てもなく走っていたら、捕まってしまいますよっ!」
「大丈夫、大丈夫。」
何が大丈夫だっ!とリオは心の中で絶叫するが、ふと、昔の事を思い出し溜息を吐く。
「ん?大人しくなったな。」
「どうにもならないのなら、もういっその事身を任せた方がいいのだと思ったので。」
「そりゃ結構。安心しろ、俺は餓鬼の頃からこういうので一度も捕まった事がないんだ。」
「……うん、そう言うと思った。」
「ん?」
リオの呟きが聞き取れないのか、セトーデは首を傾げる。
「何でもないです……ところで。」
「あん?」
「このままいけば街抜けますよ。」
「んあー、どうすっかなー。」
セトーデは決して足を止めないが、それでも、どうするか迷う。
このまま街から出ていくのはどう考えても逃げるようで後味が悪いし、かといってリオを抱えたまま行動すれば間違いなく彼女が無理をするのが目に見えて分かっているからだ。
「……っ!止まってっ!」
「んあ?」
リオの唐突な停止指示にセトーデは疑問に思いながらも足を緩める。
「どうしたんだよ。」
「あっちから、人の声が……。」
リオは裏道の方を指さし、セトーデはそっちの方を見た瞬間、たしかに彼の耳にも幼子の悲鳴が聞き取れた。
「ごめんなさいっ!」
リオはそう言うとセトーデの手から逃れ裏道に駆けだした。
「おい、お前脚はっ!」
先ほどまでは足を挫いて歩けなかった彼女に唖然とするが、すぐに彼女が治癒術を使えたのを思い出した。
「無茶しやがって。」
セトーデは不機嫌な顔をして、彼女の後を追った。
「………何で放っておけねぇのかな……ああ、そうか……。」
セトーデはリオの後姿見ながら二つの影を思い出す。一つは今の自分が幼いころに兄弟同然に育った弟分の存在、そして、もう一つは前世の頼りない相棒の姿だった。
「あいつらにお前が似ているから俺は放っては置けないんだな。」
理由が分かったセトーデは何かを決めたのか、足に力を入れて彼女に追いつくようにスピードを上げた。
「はぁっ!」
気合の籠った声と共に金属のぶつかる音がした。
「ほぉ、わたしの剣を弾いたか。」
「……。」
両刃の剣を構えるリオに男は感心したような顔で彼女を見下す。
「……その殺意……懐かしいな……お前は誰だった?」
「……。」
「……答えないか、それとも、分からないのか…、まあ、いい、どうせ、お前もモルモットだからな。」
男は容赦なくリオに刃を向ける、それをリオは必要最低限の動きで避けたり、相殺する。
「……マナよ。」
リオは至近距離で火のマナを使おうとするが、マナを使う前に何かキーンと耳鳴りがし始める。
「――っ!」
リオが顔を顰めるとその隙を男は見逃す事なく刃を振り下ろす。
しかし、寸前のところでリオは地面を蹴り、後ろに飛びのいた。
「その身のこなし……あの連中の誰かか?」
「――っ!」
男の言葉と共に噴き出した殺気にリオは気を引き締める。
「そうか…あの連中か……どの奴だ?あの勝気な女か?それとも腹黒の女か?それとも……。」
男がなおも言葉を紡ごうとした瞬間、リオと男の間に石が投げられる。
「ああ?」
「こいつから離れろ、この変態が。」
男がセトーデを見た瞬間男は嬉しそうに笑った。
「――っ!」
「お前か緑の餓鬼…。」
「誰だてめぇ。」
怪訝そうな顔をするセトーデに対し男は殺気をまき散らす。
「おれの方は前世の憎悪がこんなにも燻っているのにな、緑の餓鬼は忘れているのか?」
「……分かんねぇな。」
固い声音からリオは、セトーデがこの男に敵わないかもしれない、と思っているからだと察した。
「そうか……この餓鬼の傍に居るという事は……お前は……。」
男が余計な事を言いそうな気配を察してリオは駆け出した。
「自滅か?」
「まさか。」
刃と刃がぶつかり合い金属音が数度響き渡るが、両者とも決定的な攻撃を仕掛けられないでいた。
しかし、リオは一人ではない、彼女は彼が近づく気配を感じ、男の攻撃を避けた瞬間、入れ違いにセトーデが攻撃を仕掛ける。
「……弱いな。」
男がセトーデの刀を受け止めた瞬間、そう呟くとニヤリと男は笑い、そして、嫌な予感がしたリオは反射的にセトーデの服を掴み、自分の後ろへとやった。
そして、その反応は確かによかったが、その分彼女の負担が大きかった。
「雷よ落ちよ。」
「――っ」
リオはまともに攻撃を受けてしまい、痺れるからだが地面に崩れ落ちる。
「リオっ!」
リオは悔しげに顔を歪ませ、そして、意識を手放してしまった。