風の双刀使い
セトーデは緑生い茂る森の中で巨大なクマに似た魔物と遭遇してしまっていた。
「くそ……。」
セトーデは構えるがそれに勝てる気がしなかった、彼のクラスはBが妥当だろうが、目の前にいる角が生えたクマに似た魔物はSSクラスの魔物だった。
額から汗が流れ落ちるが、それを拭う暇さえ命取りになる。
「………風のマナよ、我が刀に宿れ。」
セトーデが空気中の風のマナを集め、二刀の刀に宿らせると、刀は淡い緑色の光を発した。
セトーデは左足を引き、体を僅かに沈ませる。
目を細め、そして、彼は地面を蹴った。
風のマナの加護のお蔭でセトーデの瞬発力が上り、彼は刀を繰り出した。
一撃、一撃は確かに魔物に通じているはずなのに、まるで鋼に斬りかかっているかのようにかすかな手ごたえしかない。
そして、まるで羽虫を払うかのように魔物がセトーデをその手で払いのける。
「ぐ……。」
辛うじて右の刀でそれを受け止めるが、相手があまりにも馬鹿力の為、右の刀は吹っ飛んでいき、セトーデもまた飛ばされ近くにあった木に叩きつけられる。
「ぐぁ……。」
息が詰まり、セトーデは一瞬意識を飛ばしかけるが、すぐに痛みと共に意識を繋ぎとめる。
セトーデは顔を上げると、顔を真っ青にさせる。魔物は大きな口を開け空中の炎のマナを集めていた。
セトーデはこのまま溜まっていく魔物の技を直接受けるくらいならば自滅する方がマシだと思い、左手の刀に力を込めた瞬間、遠くで凛とした声が彼の鼓膜を打つ。
「動かないでくださいっ!」
女性の声だった。まるで鈴のように可愛らしい声なのにどこか強さを孕んだ声にセトーデは従ってしまう。
そして、何かが空を切った。セトーデは思わず何かが飛んできた方を振り向くが、次の瞬間、何かが爆ぜる音がした。
「えっ……。」
魔物がいた方を見ると魔物の頭部は真っ黒に焦げ付き、ふらついている、そんな魔物に追い打ちをかけるかのように三本の矢が飛んできて魔物の急所を貫く。
あっという間にSS級の魔物を倒され、セトーデは唖然として、矢が放たれた方を見るとフードを深くかぶった人物がゆっくりとセトーデのいる方に歩いていた。
「お前は?」
「…………大丈夫?」
「……ぁぁ。」
自分の質問に答えない人物に思わずセトーデは眉を顰めた。
フードの人物はゆっくりとセトーデに近づき、そして、彼の顔を見た瞬間何故か一瞬だが動きが止まった。
「なん…だ?」
「何でもないわ。」
セトーデはジッとフードの少女を見つめた。顔は分からないが声や体つきからして自分と同い年か年下くらいだと思った。
「怪我の手当てをするね。」
「薬草なら……。」
セトーデは己の鞄を指さそうとするが、何故か、少女はしゃがみ込み掌をセトーデに向けた。
「癒しよ……ヒール。」
少女がそう唱えると、ほんのりと彼女の掌が光り先ほどまで痛んだ場所が癒えた。
「えっ……。」
「肋骨が折れていましたが、もう大丈夫です。打ち身などは自然治癒の方がいいので申し訳ないけど治さないでおくわ。」
「ああ、サンキュウな。」
「いいえ。」
少女はそっけなく言うと、立ち上がる。
セトーデは彼女が立ち去ってしまう、とそう思った瞬間、行かせてはいけない、と何故だが思い彼女の手を掴む。
「……。」
彼女は体を強張らせ、恐る恐るというようにセトーデを見つめる。
「………何ですか?」
「お礼がしたい、次の街で何か奢らせてくれねぇか?」
「えっ……。」
戸惑う彼女にセトーデは強く言う。
「何か急ぐあてでもあるのか?」
「な、ないけど……。」
「なら、いいじゃねぇか。」
彼女は断りたいという雰囲気を発するが、セトーデはここで引いたら駄目だと本能が言っているので決して引かない。
彼女も何かを悟ったのか、溜息を零した。
「分かりました。」
「やったー。」
セトーデが本当に嬉しそうにするので、少女は苦笑する。
「ああ、そういや自己紹介がまだだったな、俺はセトーデ、お前は?」
「わ、私?」
「ああ。」
「……私はリオ。」
「…………。」
セトーデは一瞬だが、少女の名前を聞いた瞬間、何か痛みを耐えるような表情をしたが、すぐに頭を振って不敵な笑みを浮かべる。
「リオな、いい名前だな。」
「ありがとう……。」