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契約

彼の言葉に思考が停止した。


そして自分の耳を疑った。ので、聞き返してみる。


「と言いますと・・・?」


「ああ、言葉が足りませんでした。当店の商品のモデルをお願いできないかと思いまして。」


そういう彼は店員さんスマイルで続ける。


「不躾で申し訳ありません。モデルと言うと身構えてしまうかもしれませんが、ただ単純に当店の靴を履いているあなたの写真を撮らせていただきたいのです。そしてそれを店頭やホームページや私の部屋に掲示させていただきたいのです。」


(ええ、それこそモデルですよね。ん?というか今”私の部屋”って言った?ここは突っ込むべきだよね?)


「あの・・・”私の部屋”というのは・・・」


「私の作業部屋兼趣味部屋のことです。創造の士気を高めるためにぜひ飾らせていただきたいです。まあ、これが一番の目的なのですが。ああ、あまり深く考えていただかなくて結構ですよ。」


なんか色々と突っ込みどころがあって頭が追い付かないな。この人の言う通り、深く考えないほうがいいかも・・・。って流されちゃダメだ。


「12月に発売予定の新シリーズがあるのですが、クリスマスに向けて販売促進を狙っておりまして。もし、引き受けて下さるのであればお好きな靴をプレゼントさせていただきます。もちろん写真の悪用はいたしません。個人で楽しむことはあるかもしれませんが。」


「お話はだいたいわかりましたけど、なんでわたしなんですか?プロのモデルさんにお願いした方が断然いいと思うんですけど。」


混乱気味の頭の中で、一番の疑問を投げかける。


「それはあなたの御御足がとてつもなく美しいからです!どんなモデルのものよりも!足の幅、指の長さ、踵の曲線、甲の高さ、そしてなにより土踏まずのカーブ!すべてが私の理想通りなのです!私の作った靴が寸分違わずぴったりだということがその証です!」


いきなりの熱弁に茫然とする。いきなりキャラ変わってない?


「失礼いたしました。実のところ、今からプロのにお願いしていては販売時期に間に合わない可能性がありますし、試行段階のため、柔軟な対応が可能な方にお願いしたいと思っておりまして。」


ああ、なるほどね。そっちが本音なんだ。

足の理想がどうのなんて意味わかんないもんね。

確かにもう10月の中旬だし、モデルさんを急に手配するのは難しいのかもしれない。

それにプロ相手だといろいろ制約とかあるだろうから、急な変更とかはNGなんだろうな。


「撮影は近日中に行いたいと思っておりまして、日中1日で終了する予定です。日程はご都合のよろしい日に設定いたします。撮影現場までは送迎付きで、もちろんお食事も用意いたします。」


矢継ぎ早にさまざまな情報を投げられ頭がパンクしそうだ。

でも、わたしの数か月のバイト代に相当する靴をたった一日の撮影でもらえるなんて魅力的すぎる。


「条件は悪くないと思うのですが。いかがでしょう?」


「ま、待ってください!急にそんなことを言われても・・・。落ち着いて考えたいので返事は後日でもいいですか?」


「そうですか・・・。そうですよね。性急すぎました。熟考のうえお返事下さってかまいませんが、その場合ご所望の靴は在庫が無くなっている可能性があります。」


「え!?取り置きとかはダメですか!?」


「申し訳ございません。当店はすべて一点もので商品の入れ替わりが激しいため、お取り置きはご遠慮いただいているのです。」


そんなあ・・・。どっちにしろ今日を逃したら手に入れるチャンスは無いかもしれないってことじゃん。

でもモデルなんて務まる気がしない・・・。でも欲しい。


「経験がなくても問題ありませんよ。ポージングなどはカメラマンが指示を出しますし、メインはあくまでも商品ですので。」


わたしの思考を読んだかのような言葉。

商品がメインっていいうことは顔とかは写んないんだよね?

それなら大丈夫かも。でも不安だな・・・。


「どうなさいますか?」


声音は柔らかだが、彼の瞳は否を言わせないような力があった。


「ご協力いただけますね?」


今度は艶を含んだ声と瞳で問いかけられる。

その瞳を見ているとなんだか足元がふわふわしてくるような気がした。


気付くとわたしはこくん、と頷いてしまっていた。


「ありがとうございます。ご安心ください。決して悪いようにはいたしませんので。」


そういって微笑む彼が美しい悪魔に見えたのは、気のせいではないと知るのはもう少しあとだった。


そういえば「悪いようにはしない」というセリフは悪い人しか言わないって誰かが言ってたな。

なんでもっと早く思い出さなかったんだろう。



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