表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

入店

フェチを題材に短編シリーズものを書きたかったのですが、全然短編になりませんでした。

至らぬ点が多々あるかと思いますが読んでいただけると嬉しいです。

私は悩んでいる。

とーっても悩んでいる。

何をかというと“靴”をだ。




もうすぐ二十歳を迎える記念に、とっておきの靴を買おうと思い立った。

大学入学時からコツコツとバイトに励んできた甲斐あって貯金もわずかだが貯まってきた。

日頃のご褒美も兼ねて奮発しよう!と向かったのは最近密かに話題のレディース靴専門店、『piège sucré』。


このお店は全てハンドメイドの一点物で既製品とは一味も二味も違う独特なデザインが人気なのだ。

デザイナーが何人かいるらしく、それぞれ個性があり様々なテイストの品を取り揃えている。

専門的なことはよくわからないけど、とにかくどれもこれもかわいい!("かわいい″とはなんて便利な言葉だろう)

そしてなによりも自分の足に合うように調整してくれたり、購入後に微調整や修理を無償で行ってくれたりと、サービス面がとても充実しているらしく、ぜひそれを体験したい。

しかし難点が一つ。お高いのだ。ハンドメイドだから仕方がないのは重々理解できるが、しがない学生にはなかなか手が出せないお値段。だから今日は一足だけ!とびっきり素敵なのを一足だけ買おう。



初めて入る店というのは緊張するものだ。ましてやちょっと高級なお店なら尚のこと。


そのお店は流行りのセレクトショップが多く立ち並ぶ通りから一本入ったところにある。

外観は濃いネイビーの塗り壁でパリのアパルトマンのような佇まい。

十字の格子が嵌められた大きな窓からはオレンジの柔らかな光が漏れている。

扉を開け、中に入ると一面に敷かれた鮮やかなロイヤルブルーのカーペットが印象的である。

そして、スポットライトを浴びているこの店の主役たちはまるで美術品のようだ。

触れるのを躊躇うような繊細なものも多数ある。

現実離れした空間に酔ってしまいそうだ。



この時わたしのほかに客はいなかった。

このことが幸いなのか災いなのか、このときのわたしは想像さえしていなかった。



そして冒頭―――

私は悩んでいる。

なぜなら二足気に入ってしまったから。


一足は大人気のMon beau chatonシリーズの限定品、ロシアンブルー。

このシリーズは猫がモチーフになっているパンプスで、中でも黒猫は不動の人気らしい。実はわたしも黒猫を第一候補に来店したのだが、店頭で限定品のロシアンブルーに一目ぼれしてしまったのだ。


ブルーグレーの手触りのよいベロア生地に甲のオープン部には小ぶりな猫耳。

踵からヒールにかけてはしっぽを思わせる同系色のファー、つま先は光沢のあるダークグレーの生地になっていて濡れた鼻先のようだ。そしてアンクルにはストラップ。

一見かわいらしいデザインのような気もするが、フォルムがそれを一蹴する。

7cmあるヒールは踵から下に向かうにつれて絶妙なカーブを象っていて、土踏まず部分も猫の柔らかな躯体のような美しい曲線であり艶めかしささえ感じる。

その佇まいはまるで本物のロシアンブルーが二匹そこにいるかのようだ。

更にダメ押しのようにインソールにはお店のロゴと猫ちゃんのかわいいおめめがプリントされているのである!


もう一足はCourtiserというパンプス。猫ちゃんシリーズに比べこちらはシンプルなデザインで大人っぽい。


カラー展開はブラック、レッド、グレージュの三色。シンプルだけどとても洗練されている印象を受けるのは、直線部分が無いと思える造形の賜物だろう。まるで足を最大限に美しく魅せるために造られたような「美」を追求したデザイン。

9センチのヒールはびっくりするほど細い。その細いヒールに小さなストーンで作られたラインが一本入っておりキラキラ輝いている。

フロント部分には取り外し可能なビジューがアクセントになっている。

第一候補は断然使い勝手のいいブラック。


猫ちゃんパンプスは、動物モチーフ好きのわたしとしてはとてつもなくツボである。存在感があり、シンプルなものが多いわたしのコーディネートでは間違いなく主役になる。今すぐにでも連れて帰りたい。

しかしCourtiserも捨てがたい。二十歳なのだし、大人の女性になりたいという願望もある。なによりジュエリーのように美しいこの靴を毎日眺めたいという所有欲が強い。


そんなことを考えながら、二足を床に並べてうんうん唸っていると


「お困りですか?」


という声がした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ