壱幕『好奇心の裏側』
自分の心理って意外とわかんないもんだよね
「すき」だったものが「きらい」になったり
「にがて」なものが「とくい」になったり
て、ことはさ、「好み」って永続的なものじゃないよね?
一時の感情で揺らぎ 迷い 途惑う
ましてや、興味なんて持った日には・・・フフッ
そのときにキミは
自分の「すき」「きらい」をツラヌケルかな?
この世の中の何人くらいが非日常に憧れたことがあるのだろうか。
小説 漫画 映画にゲーム・・・
空想の世界に夢を描くツールがこの世の中には蔓延り《はびこ》すぎではないか?
幼少の頃は確かに、漫画のように手から光線が出ればいいのに とか
変身して居もしない敵を思い浮かべて格好のいいヒーローになることは考えた。
しかし、だ。
俺はもう今年で22歳を迎える男だ。大人だ。
頭の中で空想を廻らせるのは自由だし、ネットの世界で主張するのも悪くない。
むしろ個性があって素晴らしいくらいだ。
でも、流石に現実とは区別を付けたいところだよな。
え?何故そんな辛辣なことを言うのかだって?
それはだな・・・
「喰らえ!悪の化身!!獄擦爆闘!!!」
・・・先に断るがこれは俺の台詞もといイタい発言ではない。
「獄擦爆闘!!!」
「うるせぇ!何なんだよ、その暴走族みたいな単語は!!!」
自己紹介もまだだが、先にこの馬鹿の名を知ってもらいたい。
坂城 葛葉
俺の会社の同期だ。
同期というと、年下の同期なんて萌えパターンを創造もとい想像するだろ?
残念ながら奴は俺よりも4歳年上のいい大人だ。
その大人が残業中のオフィスで、この訳の判らない名称を連呼している。
「もぉー。相変わらずノリが悪いなぁ。そんなんじゃ星聖☆闇《ダークネス☆プラネット》で生き残れないよ?」
聖なるものなのか、暗黒のものなのかハッキリしろ。
設定の作りこみが甘いんだよ。ついでに言うなら星もやめとけ、年齢的に。
ちなみに、さっきの獄擦なんたらは必殺技らしい、魔法少女の。
魔「砲」じゃなく、魔法。
マジカルキャノンじゃ無くて、純マジック
四捨五入して30歳の女が頭の中で魔法少女の格好、現実はスーツで格闘漫画に出てきそうな必殺技を連呼している現場を想像してほしい。
それもほぼ毎日
流石に駆除の方法に悩みすぎて白髪が生えてきそうだ。
本来ならこんな厨二病患者にくっ付かれる接点など無かったのだが、自己紹介を渋っている訳も重ねての理由がある。
「まぁったく。名前はしっかりファンタジーしてるくせに むぎぃ!?」
拳骨。鉄建制裁。俺は女は殴らんが奴は対象外だ。
・・・そう、名前だ。
田上 零御
これが俺の汚名前だ。
変換ミスではないし、当て字でもない。戸籍に登録されている親から授けられた忌まわしき名前だ。
この名のせいで学生時代はゲーマーやアニメ好きだと勘違いされ
本名が渾名みたいなもんだったし
開放されて社会に出れば同期は重症患者と来たもんだ
ハッキリと言おう。
俺は非日常なんて大嫌いだ!!
「ふざけたことやってないでさっさと片して帰るぞ。俺は早く帰りたいんだ。」
「えぇ~~!まだ光跡の悪《ホーリー★ディザスター》の序章も始まってないのに!!」
名前変わってるじゃねぇか
「勝手にやってろ。俺の仕事は終わったからな、やる気無いならもう帰るぞ?いいのか?」
「えっ?嘘!?何時やったの!?」
「お前が脳内で世界救ってる時にだよ。」
「うぅぅ。じゃぁあたしも帰る!おしごと~終わりっ!」
ズビシッと効果音の入りそうなポーズを決めてドヤ顔でそう宣言している。
別に時間が遅いから、一緒に帰るように誘導したわけではない。
いや、ツンデレとか違うからね、マジで!
そんなこんなで日常業務を終えて(奴の管理含)後は帰宅をするだけだった。
特に趣味も無い俺は、食事をして風呂に入り、気になる書物があれば睡眠前に読む
そんな感じのあたりさわりのない日常を過ごしている。
今日も何時間くらいは眠れる なぁんてしょうもない事を考えながらいつもの帰り道を歩いていた。
しかし今日は違った。
いつもの「日常」から切除されてしまっていた。
そこに『存在していた』
人や動物なら「いる」物には「ある」という表現が適切だろう。
なんとも表現し難い、形容のしようが無い『何か』が『存在していた』としか言えないのだ。
思わず目を逸らした
間違いなくこれは俺の嫌いな非日常だ
題していた様に俺には必要のない世界だ
いつも通りの日常を手放す理由が無い
ましてや、こんな非現実な事象、俺が疲れて幻覚を見ていると考えるのが妥当だ
きっと、あの馬鹿の相手をしたのが原因だ
みていない、うん。俺は何もみていない
ハッ、としてそこに目を戻すとそこには何も『なかった』
見間違いだった・・・のか。
とりあえず不安は取り除くことができた
目指すべき家はもうすぐそこだ
たのしい事を考えて不安を紛らわすなど子供のようだが、別にいいじゃないか。
年がら年中厨二病のあいつに比べればかわいいもんだ、うん。
そう自分に言い聞かせながら自宅に帰った。
しかし、自宅には「いた」
認識できる形で「いた」
[はじめまして、レオン君.キミに不可思議を届けにきたよ]
平穏な生活に亀裂の奔る音が聞こえた きがした