西の門・残る足跡
西の街道に朝の光が差したころ、アレンはいつもより早く目を覚ました。雨の朝、アレンは武具と少量の食料だけで西門を出る。見送りは許されず、鐘も鳴らない。 振り返ると、自分の足跡だけが長く続いていた。追放を終わりとは決めず、その先で見たことを自分の言葉で残すと心に置く。 門外には黙って休暇を取った仲間たちの足跡が残っていた。彼は振り返らず、その心だけを受け取る。
護送兵は近づかず、食料袋を道へ投げた。アレンは侮辱へ言葉を返さず、中身と残りの日数を数える。怒りで腹は満たせず、海峡は短くならない。
竜紋が熱を持つたび歩みは遅れた。休めば日程違反、進めば倒れる。アレンは見栄を捨て、痛みの周期を測って歩く時間を組み直した。
禁忌大陸について確かな記録は一冊も渡されなかった。魔族は残虐で、土地は死に、帰還者はいない。その三行だけが、何百年も疑われず繰り返されている。
海が近づくにつれ、護送の人数は減った。最後の関所では鍵だけが外され、あとは一人で進めと言われる。自由になったのではない。誰も戻ると思っていないのだ。
夕暮れの先に黒い水平線が伸びていた。アレンは王国を振り返らず、まだ見たことのない土地へ歩いた。答えがないなら、せめて自分の目で確かめるしかない。
その場で答えを出せなかった問いも、消したことにはしなかった。保留と記して次の会議へ渡す。分からないものを分からないまま残せることも、互いを欺かずに暮らすための力だった。
小さな決定だった。それでも、遠くの権威ではなく目の前の暮らしから決めたという事実は残る。誰かの恐怖を利用しない選択が、この大陸では新しい道になっていった。
(本文実測:684字)




