北からの火
禁忌大陸の侵攻派が独断で人類の北港を襲う。アレンは人類側の町を守り、魔族の攻撃を止めることで教会の単純な敵味方を崩す。 朝、前夜の出来事を記した紙が議場へ届く。アレンは読み上げる前に、伝聞と確認済みの行を分けさせた。
教会騎士の中にも剣を置く者が現れた。昨日まで追う側だった事実は消えない。彼らは先頭に立たず、まず拘束した家々へ鍵を返した。
侵攻派は処刑された者の名を叫び、報復こそ弔いだと迫った。遺族の一人が、自分の悲しみを他人を殺す許可に使うなと静かに返した。
老司祭セヴランは聖句を引き、異種族を言葉なき獣とする新しい注釈が三十年前に加えられたと示す。信仰と教会組織を同じものにはしなかった。
アレンは人類を一つの敵として数えなかった。処刑を命じた者、従った者、止められなかった者、白布を掲げた者を分けなければ、守るべき人まで報復の中へ入る。
海の向こうには禁忌大陸の灯がある。アレンはどちらの岸も自分の領土とは呼ばず、互いを知る道が閉じないよう見張った。
一日の仕事が終わると、見張りも書記も同じ鍋から食べた。立場の違いは消えなくても、明日の食料を誰か一人だけのものにはしなかった。
会議では賛成者だけでなく反対者の名も残した。後に失敗した時、責任を少数へ押しつけず、なぜその判断へ至ったかを全員が辿れるようにするためだった。
アレンは強さを示すため竜の力を使わない。重い荷を運ぶ時も先に滑車を組み、誰にでも再現できる方法を選ぶ。彼が去った後まで暮らしが続く形が必要だった。
恐怖は説明だけでは消えない。だから同じ井戸を直し、同じ患者を運び、同じ帳面を確かめる。相手の行動を繰り返し見られる場所が、言葉より先に信頼を作った。
(本文実測:707字)




