封じた剣
教会騎士が到着し、アレンへ剣を抜けと叫ぶ。彼は封布を解かず、投げられた槍を身をかわして岩へ通す。戦闘を始めた証拠を相手へ渡さない。夜番は敵を探すだけでなく、味方の暴走を止める配置になった。合図なしに海へ出る船がないか、互いに確認する。
竜紋の熱で足元が揺れても、アレンは守備兵へ刃を向けない。倒れれば捕らえられる。それでも最初の一撃を自分から作らないと決めていた。
アレンは人類を一つの敵として数えなかった。処刑を命じた者、従った者、止められなかった者、白布を掲げた者を分けなければ、守るべき人まで報復の中へ入る。
老司祭セヴランは聖句を引き、異種族を言葉なき獣とする新しい注釈が三十年前に加えられたと示す。信仰と教会組織を同じものにはしなかった。
海岸の守備兵は槍を構えたまま、アレンの名を呼べなかった。かつて救われた者もいる。命令と記憶が食い違い、包囲の輪には人一人分の隙間が残る。
鐘は町ごとに違う時刻を告げた。それでも写しに記された名前は同じで、離れた場所の人々が同じ事実を手放さずにいた。
アレンは強さを示すため竜の力を使わない。重い荷を運ぶ時も先に滑車を組み、誰にでも再現できる方法を選ぶ。彼が去った後まで暮らしが続く形が必要だった。
恐怖は説明だけでは消えない。だから同じ井戸を直し、同じ患者を運び、同じ帳面を確かめる。相手の行動を繰り返し見られる場所が、言葉より先に信頼を作った。
記録の写しには、誤字も訂正線もそのまま残された。整いすぎた文書より、人が迷いながら書いた跡のほうが、出来事の時間を正確に伝えることがある。
誰も全体像を知らない。港の者は禁忌大陸の議論を知らず、魔族側は王国内の抵抗を知らない。伝わった断片を断定へ変えないことが唯一の共通規則だった。
(本文実測:731字)




