帰還の鐘・列の後ろ
鐘が一度鳴る間に、石壁の詰所へ三つの異なる知らせが届いた。王都へ戻った《白刃》は歓呼で迎えられるが、聖光教の司祭は戦果を教会の奇跡として語る。 前衛だけでなく荷車と救護班の位置を直した。強い者が先へ進みすぎれば、守るはずの列が裂ける。全員が戻れる速さへ歩調を落とす。 アレンは部下の働きが消されることに違和感を覚え、報告書へ一人ずつの名を残す。
《白刃》は国の切り札と呼ばれていたが、アレンはその名を好まなかった。刃は振るう者だけでは働かない。斥候、救護、荷車を引く者まで戻って初めて任務は終わる。
急ぐべきだという意見と、偵察を増やすべきだという意見が割れた。アレンは声の大きさで決めず、それぞれが恐れている損失を確認した。守る対象が分かれば、必要な速度も見えてくる。
勝てる配置でも、村を盾にする案は採らなかった。遠回りになり、教会の監察記録には消極策と書かれる。それでも、守るはずの者を戦術上の数字にはできない。
任務が終わると、司祭は人々の前で聖光教の加護を称えた。アレンは壇上へ上がらず、負傷者の名と不足した薬の数を確認する。称賛より、次の任務で同じ傷を出さないことを選んだ。
夜の帳面には、勝利の二文字より多くの反省が並んだ。それでも最後の頁に全員帰還と記せた時だけ、アレンは短く息を吐いた。
その場で答えを出せなかった問いも、消したことにはしなかった。保留と記して次の会議へ渡す。分からないものを分からないまま残せることも、互いを欺かずに暮らすための力だった。
小さな決定だった。それでも、遠くの権威ではなく目の前の暮らしから決めたという事実は残る。誰かの恐怖を利用しない選択が、この大陸では新しい道になっていった。
(本文実測:708字)




