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執事一家の次男に転生したので、全力でお姫様に尽くしたいと思います。  作者: 比津磁界


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第10話:【勅命】王女の義務と、不純な歓喜

前回、ついに「リリー」という特別な呼び名を勝ち取ったリリアーヌ様。二人の距離はかつてないほど近づきましたが、そんな甘い夜の余韻に浸る間もなく、大きな転機が訪れます。

その日の朝、王宮を包む空気は、いつになく騒がしかった。

カーテンの隙間から差し込む朝日が、豪華な絨毯の模様を鮮やかに浮き上がらせている。アルフレッドは、リリアーヌの寝室で彼女の目覚めを待ちながら、窓の外で慌ただしく行き交う兵士たちの姿を眺めていた。


(……なんだか、今日は城全体が浮き足立っているな。この時間に呼び出しがかかるなんて、ずいぶんと急じゃないか? 国境付近で小競り合いでも起きたのか、それとも……)


アルフレッドの脳裏には、前世で読み耽った数々の物語のパターンが浮かんでいた。急な呼び出し、嫌な予感が、執事としての冷静な思考の端をかすめる。


「……おはよう、アル。なんだか、お城の中が騒がしいわね?」


天蓋付きのベッドから、まだ眠気を帯びたリリアーヌが身を起こした。プラチナブロンドの髪が乱れ、朝露を含んだ花のような無防備な姿。アルフレッドは即座に視線を外しながら、恭しく一礼する。


「おはようございます、リリアーヌ様。ええ、陛下から火急の召喚が届いております。お急ぎしましょう。今朝は最も気品ある、それでいて『動きやすい』ドレスを選ばせていただきました」


「お父様から? こんなに早くに……。わかったわ、すぐ準備するわね」


リリアーヌの瞳に、王女としての緊張が灯る。アルフレッドはその背中を見つめながら、影のように寄り添い、彼女を完璧な姿へと整えていった。


豪奢な装飾が施された謁見の間。

玉座に鎮座する国王の前に、リリアーヌは凛とした足取りで進み、完璧なカーテシーを披露した。その後ろには、影のように寄り添うアルフレッド。その立ち振る舞いは、名門アレン家の次男に相応しい、非の打ち所がないものだ。


「リリアーヌよ。お前も十五を数え、成人としての階段を登り始めた。これからは、ただ守られるだけの蕾であってはならぬ」


国王の重厚な声が、広い空間に響き渡る。リリアーヌは背筋を伸ばし、真摯な眼差しで父を見つめた。


「はい、お父様。……いえ、陛下。このリリアーヌ、王家の血を引く者として、果たすべき責務を全うする覚悟にございます」


その声に迷いはない。アルフレッドは彼女の背中を見つめ、誇らしさと共に、微かな切なさを覚える。前世で守りきれなかった「彼女」は、これほど強い意志を灯していただろうか。


「うむ。ならば命じよう。我が国、東の果てに位置する『エルダー領』へ視察に赴くが良い。あの地の領主は老齢ゆえか、近頃は領民の活気が失われているとの報告が上がっておる。何が起きているのか、お前の目で確かめてくるのだ」


東の果て。王都から馬車を連ねて数日の距離にある、辺境の地だ。

リリアーヌの頬が、緊張と——そして密かな高揚で微かに赤らんだ。


「視察……。私が、直接行くのですね」


「そうだ。リリアーヌ。お前には王女としての責任があるが、同時に、民の心に寄り添う温かさがある。それに期待しているんだ」


国王の言葉は、公務という名の「愛の鞭」のようにも聞こえた。リリアーヌは背筋をぴんと伸ばし、決意を込めて頷く。


「もちろん、一人ではない。アルフレッド、お前が専属として同行せよ。それに侍女一名、近衛兵二十名を付ける。出発は二日後だ」


「……御意。この命に代えましても、リリアーヌ様をお守りし、陛下の御期待に沿うべく尽力いたす所存です」


アルフレッドは深く頭を下げた。

外面は完璧な執事そのもの。だが、その脳内は瞬時に演算を開始していた。


(……エルダー領。平均気温、標高、予想される魔物の種類、盗賊の出現率。……二日か。二日で、リリーを『絶対に』傷一つ付けさせないための準備を完遂させなければ)


一方、リリアーヌはといえば。


(アルと二人きりで、遠出……! もちろん公務だけど、これって実質……旅行じゃないかしら!?)


王女としての気品ある表情の裏側で、彼女の心は不謹慎なほどに舞い上がっていた。昨日、ようやく「リリー」と呼んでくれるようになった彼と、王宮という箱庭を飛び出して共に過ごせる時間。


謁見を終え、廊下に出た途端、リリアーヌはおしとやかな王女の仮面をかなぐり捨てた。


「アル! 聞いた!? 私たち、お城の外に出るのよ!」


彼女はアルフレッドの腕を掴み、ブンブンと振り回す。気品はあるが、その瞳には抑えきれない興奮が溢れていた。


「リリアーヌ様、はしたないですよ。まだ城の者の目があります」


「だって、楽しみなんですもの! アルと二人で、馬車に乗って、知らない土地に行く……これって、まるでお忍びの旅行みたいじゃない!」


リリアーヌの無邪気な喜び。しかし、アルフレッドの表情はどこまでも真剣だ。


「……リリー。これは『旅行』ではなく『公務』です。東の街道は険しく、魔物の出現報告も増えています。決して、気を抜いてはいけませんよ」


その言葉に、リリアーヌは少しだけシュンとして、上目遣いでアルフレッドを見た。


「……わかってるわ。でも、アルがいてくれるんでしょう? だから、私、全然怖くないの。アルがいれば、どんなことがあっても大丈夫だって信じてるから」


(…………っ。その全幅の信頼が、俺の胃に穴を開けるんだが……。だが、いい。その信頼に応えるのが執事だ)


アルフレッドはそっと、彼女の肩に手を置いた。


「ええ。何があっても。たとえ世界の理が狂っても、私は貴女様をお守りします。……さあ、準備を始めましょう。リリアーヌ様は、お兄様や王妃様に、領主としての立ち振る舞いについて教えを請いに行ってください」


「ええ! 私、頑張ってくるわ。アルに恥ずかしい思いをさせないような、立派な王女になってみせるわね!」


リリアーヌは元気いっぱいに手を振って、王妃の部屋へと走っていった。

その後ろ姿を見送り、アルフレッドの瞳が冷徹な魔術師のそれに変わる。


「……さて。二十人の護衛、一人の侍女。そして、未知の領地。……リリーは『大丈夫』と言ったが、俺は一ミリの『もしも』も許さない。……今夜は、寝る間もなさそうだ」


アルフレッドは自分の魔法工房へと向かいながら、影の中に潜む魔力の残滓を操り始めた。

こうして、後に歴史に刻まれることになる「東方視察」の、熱を帯びた準備期間が始まった。

第10話、お読みいただきありがとうございました!

国王からの勅命を受け、リリアーヌ様とアル、二人の冒険が始まります。

王女としての覚悟を決めるリリアーヌ様と、その裏で「過保護すぎる防衛プラン」を練り始めるアルの対比、楽しんでいただけたでしょうか。


さて、出発までの猶予はわずか二日。

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