初めてのMMB
フィールドの中央付近には、赤夏達と喧嘩したらしい大学生グループが、腕を組んで待っていた。
「怖気づいて逃げたかと思ったぜ」
「そんなわけないやろ」
赤夏と大学生の間に、火花が散っているのが見える……気がする。
急に、フィールド中に元気な声が響き渡り、その場の全員が声の方向――頭上を向いた。
『只今より、MMBの試合を始めます!実況解説は私、実況ねねがお送りいたします!そして!今回のフィールドは――こちら!!!』
その瞬間、MMBシステムが起動し、周囲が光に包まれた。
真っ白い空間に、足元から木々が伸び、視界が一気に森へと変わっていく。土や草を触ると、本物と何の変わりもなく、匂いまでもが森にいるような匂いに変わっていた。
(風が……気持ちいい。ほんとに外にいるみたい)
「凄い、本物みたい!」
そらが興奮気味に叫ぶと、赤夏が隣で手を腰に当てながら、胸を張っていた。
「そうやろ!凄いやろ!フィールドが展開されると広さも自由自在なんやで!」
赤夏の言葉を聞き、そらは周りを見渡す。確かに周りは木に覆われているが、先ほど見えていた白い壁は見えず、遠くの方まで世界が広がっている。
「凄い……」
周りを見渡していると、マイクの音が風に乗って耳に入る、全員が一斉に上のモニターを見上げた。
『おっと、ここで選手の情報が入ってきました!
北陣地、中央小串大学MMBサークル!
奏者は2年生・佐藤望、楽器はヴァイオリン!
騎士1人目は同じく2年の北村日菜子!
2人目は、これまた2年生、田中紗千です!』
どこから届いたかもわからない選手情報を、実況ねねが軽快に読み上げる。
『次に南陣地!
奏者、大阪府立太陽学園高等部1年生、京野楓!
楽器はフルート!
そして、騎士1人目は大阪府立太陽学園高等部1年、加賀美赤夏!
2人目に、音咲奏学園、日向そら!
おっと!これは!加賀美赤夏選手はU15世界大会でも活躍した有名選手です!
なぜここに!?』
その瞬間、先程感じた、どこかで聞いたことのあるような違和感の正体に気づいた。
「え!加賀美赤夏って、あの加賀美赤夏!?」
MMBをやったことのない人でも知っている有名選手だ。
「なんや、今頃気づいたんか?うちも有名になったもんやな」
「せっか、ドヤ顔しとらんで、もう試合始まるで」
楓のツッコミに赤夏は口を尖らせ、いじけたように言い返した。
「ええやん、別に」
そんなやり取りの最中、実況がさらに声を張る。
『それでは、自分のポジションへ移動して、武器の確認をお願いします!』
全員が自分の陣地の指定された位置へ移動を始めた。
初めてのそらは、赤夏の後をついて歩く。
「そう言えば、武器の確認って?」
「これや」
赤夏は手を見える所に持ってくる、すると赤く光り始め、赤いガントレットが装着された。
「え!どこから?どうやったの?」
初めて見た光景に目をパチパチさせる。
「ただイメージしただけや。やってみ」
「う、うん」
赤夏から教えてもらったとおりに、目を瞑り、頭の中でイメージする。
自分の手に装着された、緑色のガントレットを――
その瞬間、手が緑色に光り、ガントレットが装着される。
「出来た!」
(これが、私の……)
ガントレットを見ながら、初めての自分の武器に心臓の音が大きくなるのを感じた。
武器に見惚れていると、実況さんの声が耳に入る。
『それでは、そろそろ試合を開始いたしますよ!準備はよろしいでしょうか!』
「え!もう?」
心の準備を整えている暇もなく、無情にもカウントダウンが始まってしまう。
《3・2・1》
『スタート!!!』
点滅する《3・2・1》のランプと、場内に響く実況者の声。その声と同時に試合が始まる。
『両陣地、一斉に走り出したぁッ!今、試合がスタートしました!!!』
赤夏の背中を追って走り出したが、走りながらずっと気になっていたことを口にする。
「ところで、今ってどこに向かって走ってるの?」
その瞬間、赤夏が盛大に前方へコケた。
「しらんでついてきてたんかい!」
「うん。だって、やりながら覚えたらいいってせっかが……」
「……そおやったな」
核に向かって走りながら、説明タイムに突入する。
「向かってる場所やけど……そら、核を奪い合うって言ってんのやから、核の場所に決まっとるやろ」
「あ、そっか!」
そらの素直すぎる返答に、赤夏はガクッと肩を落とした。
『――おおっとここで、試合中にまさかのルール確認!?大丈夫か!?』
実況のツッコミが飛ぶが、赤夏はまったく気にする様子はなく、話を続けていた。
「ほな、魔法使ってみよか」
「魔法!?」
「そや、まずは強化魔法や」
「強化魔法……」
「MMBシステムが起動した瞬間から、体に魔力感じとるやろ?」
「え、魔力?」
最初はピンとこなかったが、自分の周囲にふわりと漂う”何か”に気づいた。
「これが……魔力?」
「せや、その魔力は今ただ感じとるだけや。使うことができとらんのや、自分の体に”収束させる”イメージや、やってみ!」
言われたとおりに意識を集中させる。漂っていた魔力が、ぎゅっと体に吸い込まれ、薄い膜となって張り付く。
そらの目と体の周りに一瞬光を纏う。
「お、ええ感じや!そのまま自分が軽くなってこの森を走り抜けるイメージをしてみ」
軽やかに森を駆け抜ける自分をイメージする。その瞬間、体が軽くなったことがわかり、どんどんスピードが速くなる。
「すごーい!さっきまでとは全然違う、体が軽い!」
(凄い!けど…こんなスピードで上手く戦えるのかな?)
勢いよく森の中を駆け抜ける。が――
「わっ……うわああああ!!」
ぬかるみにはまり、前方に盛大にすっ転んだ。
「アハハ!盛大にいったなあ」
赤夏は手を引いてくれる。その力に引かれそらは立ち上がる。
「いたたた」
「強化魔法っちゅうのは、身体能力と防御力しか強化できんからな」
「なるほど……ぬかるみとかは自分で気をつけなきゃいけないんだ」
その時、遠くで、木が倒れるような轟音が響いた。敵チームも核を目指して移動しているのだろう。
『各チーム順調に核へと向かっている!どちらが先に核を手にするのでしょうか!』
そらと赤夏が気を取り直して、核に向かって走っていると、目の前に巨大な岩が現れる。
岩は前方を完全に塞いでいた。岩を避けて進むにも、大幅な時間ロスになる。
「これじゃあ、まっすぐは進めないね」
岩に軽く触れながら話す。
「まかせとき!」
赤夏が拳に魔力をためると、手に赤色のガントレットが現れる、炎を纏わせ――
「はあああ――――っ!!」
大声を上げ、拳を岩へ叩きつけた。
その瞬間――巨大な岩は、粉々に燃え砕ける。
「え!何今の!?」
そらは思わず目を見開いた。
「フッフッフ、これぞ属性魔法や」
「属性魔法?」
「せや、そらもやってみ!」
「無理無理!」
「きっとそらは風属性や!」
「それって、名前がそらだからなんじゃ」
「ええからやってみ!さっきの強化魔法と要領は一緒や、拳に風をまとわせるイメージで殴る!それだけや、簡単やろ?」
「えぇ……」
そらは小さく呟きながら、集中し――
「……こんな感じ?」
さっき教えてもらった要領で拳にガントレットを付ける。そして風が集まり始める。
そらは目の前の木を思い切り殴る。
「はああああっ!」
拳が当たった瞬間、目の前の木は、粉々に砕け散った。
「お、やるやないか!」
「ホントに風だった…」
赤夏が嬉しそうに声をあげる横で、そらは驚く。
そして、あることに気づく。
「これ、結構疲れるね……っ」
属性魔法を使った瞬間から、先ほどまでなかった疲労感が体を襲う。
「そうやろ、やから、奏者のバフが必要になんねん」
「なるほど」
そらはふと疑問に思った事を口にする。
「そう言えば、私が魔力を使えるようになったのって、試合始まってからだけど、武器は出せたよね?」
「そりゃあ、武器出すのに魔力は要らんからな」
「そうなの?でも、それって銃とか使う人って魔力なくて倒れてたりしても、攻撃できるよね?ずるくない?」
「そもそも、魔力を込めずに撃っても意味ないさかい」
「なんで?」
そらが聞くと、赤夏は急に殴りかかり、そらのお腹に拳が入る、突然のことに驚いていると。
「どや?痛いか?」
「そりゃあ殴られたんだから、痛いに決まって……あれ?」
そらは、殴られたところが全く痛くないことに気づく。
「魔力込めとらんからな、自動防御で普通の攻撃は通らんのや」
「じゃあ、どの武器でも本人が魔力なくなったら一緒なんだ」
そらがまた1つMMBについて学んでいると、実況の声が響く。
『おーっと!!ここで中央小串大学・北村選手が先に核に到達したーーーッ!!!』




