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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

また引っ越します…ずっと一緒に、出来れば永遠に

掲載日:2025/12/14

✴︎百合的内容が含まれます。忌避される方はご遠慮くださいm(._.)m







 薔薇木アザミは、朝起きると必ず隣に栗木マジュがいる。

 それが当たり前で、疑ったことはない。


「おはよ、マジュ」

「おはよう、アザミ」


 名前を呼ばれると、胸の奥が少しだけ温かくなる理由を、アザミは知らない。







 キッチンには赤いものが多い。

 トマト、パプリカ、ビーツ、赤玉ねぎ、赤紫蘇、ノーザンルビー、ラディッシュ、スイスチャード…それに二人が大好きなイチゴ。


「マジュ、偏りすぎじゃない?」

「栄養バランスは取れてる」

「色の話してるんだけど」


 アザミは文句を言いながらも、マジュが作ったスープを一口飲むと…ほっと息を吐いた。


「……好き」

「どれが?」

「全部」


 マジュは一瞬、視線を逸らした。


 ――全部、なんて言葉はずるい。









 食後、二人は同じソファに座る。

 アザミは何のためらいもなくマジュの腕に絡みつき、頬を寄せた。


「ねえ、マジュ」

「なに」

「私たちって、恋人みたいじゃない?」


 不意打ちだった。


 マジュの心臓が、不要なほど大きく鳴る。


「……どうしてそう思うの?」

「だってさ、ずっと一緒で、引っ越す時も一緒で」

 指先でマジュの服の裾をつまみながら、アザミは笑う。


「私、マジュ以外と暮らした記憶ないんだよね」


 ――ある。

 何百回も何千回も…何万回も。


 でも、その記憶を持っているのは自分だけだ。


「……それで、嫌?」

「嫌なわけないじゃん」


 アザミは身を乗り出し、マジュの顔を覗き込む。


「ね、マジュはどうなの?」

「……」


 答えられない。


 好きだ。

 愛している。

 失いたくない。


 だから………奪ってしまっている事が許せない。


「アザミ」

「うん」

「……私は、アザミが一番大事」


 それが言える限界だった。


 アザミは満足そうに笑って、再びマジュの胸に額を預ける。


「ふふん…じゃあ、それでいいや」







 夜。

 アザミが眠ったあと、マジュは彼女の指先にそっと触れる。


 冷たくもなく、熱くもない。

 人間と変わらない体温。


「……吸血鬼のくせに」


 囁きは、愛情と呪いの中間だった。


 木箱から取り出したノートには、同じ文章が繰り返されている。


 《今回も、アザミは自分が何者かを知らない》

 《今回も、私を信じている》

 《それが一番残酷で、一番優しい》


 ページの端には、走り書きのような一文。


 《もし彼女が真実を思い出したら、私は隣にいられなくなる》


 マジュはノートを閉じ、代わりにアザミの額に唇を落とした。


 触れるだけ。


 キスと呼ぶには、あまりに軽い。


「……ごめんね」







 翌朝。


「マジュ、また引っ越し?」

「……うん」


 アザミは少しだけ眉を下げた。


「ねえ」

「なに」

「次の街でも、一緒だよね」


 当然のように言う。


 当然じゃない未来を、マジュだけが知っている。


「一緒だよ」

「よかった」


 アザミは安心したように笑い、マジュの手を握った。


 強く。

 離さないように。


 その瞬間、マジュの脳裏に浮かぶ。


 それは…過去のアザミ。

 記憶を失う直前、同じように手を握っていたアザミ。


「……ねえ、アザミ」

「うん?」


 言いたい。

 でも言えない。


「……なんでもない」


 アザミは不思議そうに首を傾げ、すぐに笑った。


「変なマジュ」









 引っ越しの日。

 荷物は不思議なほど、少ない…だけどアザミは興味が無いのか聞いたりはしない。


 街を出る電車の中で、アザミは窓の外を眺めながら呟く。


「ねえ、マジュ」

「なに」

「もしさ、私が私じゃなくなっても」


 マジュの手が、びくりと揺れた。


「……それでも、好きでいてくれる?」


 マジュは答えを知っている。

 それでも、選ぶ。


「何度でも、ずっと…好きだよ」


 アザミはその言葉の深い意味を知らないまま、好きと言う言葉に満面の笑みで答えた。


 電車は走り出す。

 次の街へ。

 次の人生へ。


 ――そして、次の「はじめまして」へ。

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