第6話
この第6話は、かなり残酷描写があります。苦手な方は読まなくてもストーリーは分かるのではないかと思います。感想は受け付けない設定にしてありますので、抗議は受け取れません。お読みになる方は自己責任でお願いします。こう言っておいて、なぜこんなもの投稿したかというと、この後のストーリーに必要だからです。矛盾していると思うでしょうが、読まなくても、ストーリーを推察できるのでは?という読者の能力に頼ったわけです。
リンは目が覚めた。外はすでに暗くなっていた。日中眠り続けていたようなので、信じられなくてうろたえて起きあがった。
「あたし、どうしたんだろ」
一輝は居なかった。スーツケースも無いので、帰ってしまったのだろう。具体的な話は全然できていなかったと、リンは思い返していた。そして考える。
「一輝とは8年間全然連絡とかしていなかったけど、今朝の話の流れ、普通の事とはいえないんじゃないかな」
リンは一輝が帰ってしまってから、やっと正常に頭が動き始めた気がして来た。
「ママに様子を聞いてみなきゃ」
実家に連絡してみるリン。するとママは、
「隣の岡重さんとこの事って?リンったら、変な事言い出すねえ、だいぶ前に言ったじゃない。岡重さんちは奥さんの実家のご両親の具合が悪いから、実家に同居して世話をするって言って夫婦で居なくなったのよ。最近、実家の建て替えとかしていて、そっちで住み続けるからって、お隣の家は引き払ってしまったって言ったと思うけど。だから家も崩してしまって無いし、先月更地にしていて、売るつもりのようよ。だからして、そこから電話が来るとかありえないのよ。まあ、そうねえ、同じ番号を使うとしても、局番が違っている筈と思うわ。局番違っていなかったの」
「うん、昔のと全く同じ番号だったよ」
「変ねえ、なんだか気味が悪いわ。一輝君、足はついてたかしら?」
「ついていたし、触っても、すり抜けたりしなかったよ。生身の人間で間違いないと思う」
「じゃあ、リンちゃんの局番見落としで決まりね」
「そうかなあ、じゃあ、一輝のご両親からは、現在の一輝の事は聞けないのよね」
「お返事したのなら、また連絡して来るんじゃないの」
「んー、考えたら変なのよね。局番も同じだった気がするし。8年間全然連絡してこなかったし。どういうつもりなのか、考えたら不思議」
「連絡先とか聞かなかったの?」
「んー、黙秘権を使います」
「変な子ねえ、相変わらず」
電話を終えたリンは、増々不信感を覚えた。しかし本人がもう居ないので。どうしようもなく、放って置くしかないと思えた。
翌日の月曜日、リンは朝おきてみると、何時になく体が重い。いつもの事だが、仕事に行きたくない。しかし今日は朝一で会議があり、リンは資料を会議室の席に並べておかなければならない。だからいつもよりも早く目覚ましをセットしていた。立ち上がると、お腹がしくしくといたい。二週間前生理は終っており、何故今朝、覚えのある痛みがあるのか分からない。時間がないし、考えても仕方が無いので、急いで朝の支度をして会社に行った。銅座町のビルの一画にある、大手企業本社の事務担当のリン。忙しく働いて昨日の奇妙なことや、今朝の体調等はすっかり忘れていた。
残業するほどの仕事量は無く、定刻に会社を後にし、西京都の端にある自宅マンションに帰るため、近くの駅が終点のバス停に行き、バスを待つ人たちの後尾に付く。
その時ズンと地響きが起こった。何事?同じくバスを待つ人達に動揺が走る。
「地震なの」
誰かが叫ぶ。リンも地震かと一瞬考えたが、地震にしては短い地響きだ。そしてもう一度ズンと響き、音がしているような気がする方向を見ると、はるか遠くのほうから、騒ぎが起こったような喧騒が聞こえた。隣の小田町、リンが帰る方行である。そっちはあまり高いビルは無いので、ある程度は見通せる。見ると遠方であるが、大きな何かが移動しているようだ。その移動の音だろうか、ズン、ズン、と聞こえる。
「何、あれ」
誰かがまた叫ぶ。バス停の人達はざわつきだす。
バス停の人達が、段々その逆方向へ動き出す。
それに、その方向から、かなりのスピードの車が、次々に走って来る。しかし、信号が赤になり、信号前にこの辺を移動していたらしい車が止まる所へ差し掛かる車の列、一人が車から顔を出し、
「止まるんじゃないあほう、後ろからどんどん来ているのが分からないのか。皆逃げているんだぞ。追突されたく無けりゃさっさと出せ。赤だと。皆で走りゃ向うが止まるさ。生きるか死ぬかだぞ。後ろを見てみろ」
リンたちも彼らが走ってきた方向をもう一度見ると、道路の幅より大きな塊のようなものが、周りを壊しながらこっちに来ている。ズン、ズンっと地響きを上げながら動いて来るのが見えた。歩道には、こっちへ走って来る人たちが大勢居た。
『こっちに来る』リンはぞっとした。
周りの皆も認識し出して、誰かが、
「逃げなきゃ」
と叫び、それによってスイッチが入ったように、皆駆けだした。リンも走った。
誰かが、
「動きが遅いから、ある程度距離が開いたら、方向を変えた方が良い。これじゃぁ進行方向じゃないか」
と言っている。リンもそう思った。この道を行くと大通りに出る。怪物らしきものは右と左どっちに行くだろうか。リンは賭けで、大通りまでは行かず、小道を左に直角に曲がって走った。西京タワーまで行って、登ろうと思った。あれが同じ方向に来て、西京タワーを折られたら、運の尽きと言う事だろう。
西京タワーにたどり着いた頃には、怪物は、リンが逃げるのと同じ方向を移動しているのが分かった。『やっぱりね』リンは何故かそう思った。
西京タワーに登ると言う計画は、辺りの人も同じのようだ。たどり着くと、エレベーターは楽だが、乗っている時にやって来られては、強化ガラスで作られているとはいえ、危険だ。それに、にらめっこ状態だろう。怖いので、皆階段を上っている。
辺りの皆と一緒に、西京タワーの階段を上るリン。だが、前が詰まって上に行けなくなった。リンは立ち止まるしかなく、怪物の方を見た。驚くほど近くにいた。巨大であり、丸っこい虫の様な体形に、何だか毛の様な物がまばらに生えている。足は4本で短い。顔らしきものが前にあり、目がある。見ていると、ぎょっとした。
「今、目が合ってない」
リンは思わず叫ぶと横の人も、
「こっちを見ていたよね。怖い。こっちに来そうよ」
と叫ぶ。
予想どおりにやって来る。どうして?リンは震えた。そこへ、ヘリの音がして来た。防衛隊だ。
「遅いぞ」
誰かが呟く。
リンは遅いけど、間に合ったと思う。それからは、防衛隊と怪物の戦いである。
「きゃー、きゃー」
まるで人間の悲鳴のような声で、爆弾に攻撃される怪物。リンは気分が悪くなる。
誰かが。
「まるで子供の悲鳴みたいな声ね」
と呟く。当たっていると思ったリン。
そして、悲鳴のような声は続く。恐る恐るそっちを見ると、爆弾に当たって、くねくねしているが、まだ死んではいない。当たった所から、真っ赤な血の様な物が噴き出ている。ぞっとして目を瞑る。しかしリンは様子が気になり目を瞑っても居られず、下の方を見ると、大砲が用意されている。キャタビラで動きなかなか進まないが、何とか当たりそうな位置に来たようだ。大砲が大きな咆哮を上げて発射された。怪物に当たる。
「キャー」
悲鳴を上げて怪物は飛び散った。リンたちの居る西京タワーのガラスにもびちゃッと肉片が当たった。皆悲鳴を上げる。幸いガラスは割れなかったが、割れそうな勢いだった。
リンは気分が悪くなり、しゃがみ込んだ。リンの体から何か温かいものが下りている。血の匂いがした。