第5話
ロバートの車で故郷福田県に帰ってきた三人と二龍。西京は散々な有様だったが、こちらは普段どおりの日常があった。故郷に戻って来て一息ついたので、話を始める。
翼が、
「大学の建屋が崩されたから、当分休校だって言うけど、建て直すのはかなりの期間が必要だよ。それまで休校なんてあんまりだよ。何処か貸してくれる建物は無いのかな。どうかしてるいよ」
と言うと、悠一が、
「もしかしたら、西京大の誰かも一味の中に居るのかもしれないな。捜査するつもりかも知れない。そうでないと、どうしてUSBBじゃなくて西京に怪物が現れたのか、意味が分からないよ」
ロバートが、
「日の国には真太が居るから、煽ったんじゃないか。生憎留守だったけどな」
「龍が相手しなくて、良くあんな有様なのに、防衛隊だけで倒せたな。どんな感じだったのかな怪物って」
真太は気になって聞いてみた。
「家に帰ればニュースで飽きるほど見られると思うよ。距離を取って、テレビカメラが並んでいたな」
ロバートが言う。そして、翼は、
「防衛隊が、大砲でやっつけたよ。そして何やかや、怪物の体が飛び散ったら、西京大の生物学の助教授がせっせと肉片みたいなの回収していたよ。そしたら、防衛隊も回収していて、助教授は止められて、助教授が集めた奴を防衛隊員に取られて、返せとか、だめだとか言いあってもめていたよ。防衛隊で調べるから一般人は回収するなってさ。助教授は取り上げられたみたいだったけど、こっそりポケットに塊を入れていて。僕の入っているサークルにも良く来る人だったから、僕が見ていたら、ポケットに入れていた奴を見せてくれたんだ。ぎょっとした。そのままの生身を直接ポケットに入れているんだから、物凄い神経だな、何だか人間の肉片っぽかったから、気持ち悪かった。助教授にもそう言ったら、僕の言った事、多分当たっているとか言った。DNA調べてみるって言っていたよ」
「ええっ、何が当たっているって」
真太は聞き返した。
「人間の肉片っていうのが」
翼が答える。
もう一度真太と、イヅも叫ぶ、
「人間だって」
悠一が言う。
「帰ってからテレビ見てみろよ。怪獣の足ん所とか特にね」
ロバートも、
「そうそう、足な。あれ、でかい指に見えなかったか」
ショックで真太とイヅは、家に送ってもらうとロバートにそそくさと礼を言って、家に転がり込んだ。
怒って玄関に仁王立ちのアボパパはこの際無視して、横を通り過ぎてテレビをつけた。
アボは、最近真太には睨みが効かない事を悟った。
※ 以下、この事件とは関係ないんじゃないかと思えるかもしれませんが、関係ない事が出て来る筈もなく・・・しばらくお付き合いください。残酷描写がかなりありますので、苦手な方は飛ばしても、ストーリーが分からなくなることは無いと思います。多分。
川岸リンは26歳の何処にでも居そうな平凡なOLだ。今日も同じような事務の仕事を終え、電車で自宅マンションに帰っている所である。平凡な日常と言える。
とは言え、リンは自分で言うのもなんだが、数年前リン的に言って、波乱万丈の人生を送る事になるかもしれないチャンスはあった。しかし、臆病になってそのチャンスを自ら捨ててしまっていた。今更、後悔しても仕方がない。
数年前には、平凡なリンにも彼氏がいた。幸運にも、団地の片隅にある実家の隣に同じ学年になる男の子が引っ越してきた。リンの家が建った頃、隣は彼女の家の土地の倍以上の空き地があったのだが、そこにリンが小学校に上がる前の年、豪邸が出来上がり有名企業の役員一家、つまり大金持ちである岡重一家が引っ越して来た。
岡重一家の大金持ちぶりに、恐れおののくリンたち一家であったが、その家の人達は気さくに近所付き合いをしてくれて、その一人息子の岡重一輝と言う子がリンをどう言う訳か気に入ってしまった。それからずうっと二人はお友達、そして恋人になっていた。
岡重一輝は幼い頃から秀才でリンの通う田舎の学校では、群を抜いた出来の頭だったが、大きくなっても都会の学校に通うでもなく、リンと同じ学校に高校まで通い、周囲からは進学先は、首都に在る日の国一の大学、西亰大で間違いないだろうと噂されていた。そう言う事で、リンは卒業したらお別れだろうと、覚悟していた。すると一輝は、西亰大どころか、USBBの有名大学に行ってしまった。
その後は、隣に相変わらず住んでいた彼の御両親に聞いたところでは、大学を優秀な成績で卒業して、USBBの国立の何かの研究所で、研究をする博士になったそうだ。何かの研究とは、極秘任務と言う事らしい。
実を言うとリンは一輝に、彼がUSBBの大学に入る前、USBBに一緒に行ってくれないか、USBBの大学は勉学の意欲があって学費さえ払えば、誰でも入れる所もあるから、と言われた。つまり、結婚を前提として、ついて来てほしいと言われたのだ。
電車に揺られて帰りながら、リンはあの日の事を思い出して呟いてしまった。
「急にあんな事言い出して、あたしは英語あまり得意じゃなかったのに。『僕が教えるから』
なんて言ったけれど、同じ大学に通う訳じゃないのに、無理よ」
はっとして辺りを見回したが周りはガラガラに空いていて、声が聞こえたかもしれない所には誰も居なくてほっとする。
あの時、リンは断った。自分の能力は分かっている。
一輝は『急に言い出して悪かった』とか言っていたけれど、前々から言われたって、無理、答えは同じだ。急に言われた方が断り易かったと言える。
夕日が電車の中を平行に照らし出した。しばらくして窓の外は日が沈んで暗くなったところで、リンの降りる駅に着く。涙に暮れながら歩くうちに、涙も枯れてリンの住むマンションに着くころには、また平静に戻る今日この頃のリンである。
「どうして最近、また、一輝の事を思い出すのかしら。季節的にはあの頃と同じだけど、去年までは気にならなかったのに」
呟きながら丁度部屋に入ったと同時に、スマホが鳴り出した。見ると、一輝の家の電話番号からかかって来た。実の所、未練がましく番号を忘れずにいた。子供の頃、スマホとか持っていない頃は、固定電話で用事を済ませていた。それで暗記していたのだ。
訝しく思いながら、
「もしもし、リンですけれど」
「リン、元気そうだね。久しぶり。今、実家に戻っているんだ、西亰に居るんだってね。今度の日曜、リンに会いに行って良いかな。家に帰ってみたらリンが居なくってがっくりだよ、会いたいんだ。忙しいんだろ、休みの日もこっちには戻らないそうだね」
一輝からだった。今更とは思ったが、リンもやはり会いたくて、
「良いわよ、家に帰るのは疲れるだけだから、連休にしか返らないの。割と、何時も暇してるの」
「あは、そうなんだ。どこに住んでいるか聞いても良いかな。良かったら自分でリンの家に行くから、迎えとか来なくて良いよ。朝、そっちに着くようなので行くから」
「そうなの」
リンは住所を教えた。普通は別れたはずの人とは、一線を引くものかもしれない。けれど、付き合いが長かったせいか、別れた恋人と言う感情には成れなかった。
約束の日曜当日、一輝は早々と朝の9時にリンのマンションの部屋にやって来た。福田町から夜行列車で来た位の時間帯である。
「おはよう、早すぎたかな。でも、他に行く所とかないし」
一輝は、リンが部屋を掃除している最中に来た。スーツケースを持って来ている。
「帰りの途中でよった感じね」
「うん、家に帰ってみたら、リンは西京に行ったっていう話だし、本当は俺も余りこっちには滞在できないしで、スーツケースも持って来た。今日は西亰大の教授の所によって、用事を済ませて夜の飛行機でUSBBに戻る。掃除していたんだ。ごめんね、長居は出来ないけど、どうしても聞いてみたくて。親父たちは俺達別れたと思っているけど、あ、リンもそうかな。俺はまだあきらめていないんだ。どうかな、リンには今、付き合っている人が居るとか?」
どうやら、一輝は話を蒸し返す気のようだ。リンは思った。もう後悔する日々は嫌になっていた。
「ううん、誰とも付き合っていない」
別れてしまうなら、彼氏がいるとか言うべき場面である。
「俺の事、もう過去の相手だと思っているかな?」
「時々思い出すわ、でもあの時はついて行くのは無理だったから」
「今はどうなの」
「外国からの顧客が来たら、英語も必要になって、挨拶とか、世間話程度は話している」
「じゃあ、もしかしたら僕の所に来てくれる気ある」
「もう8年過ぎているのに。一輝には向うで彼女とかできなかったの」
「いや、学生時代は俺なんかを相手にする奴は居なかったし、今はただ、研究所と自分ちの往復だ。彼女なんかできない」
「そう。私、一輝が向うに行ってしまってから、自分で断っておいて言うのもなんだけど、一輝が側に居なくて寂しかった。今更だけど、一輝の所に行って良いの」
「良いに決まっているじゃないか。だから今話しているんだ」
そう言って、一輝はリンを抱き寄せた。リンは感極まって一輝に寄り掛かった。
その流れで、キスをされたリンは何だかぼうっとなってきていると、一輝の手がリンの下着の中に入って来て、暖かくなるはずと思うのだが、なぜか触られた辺りが冷たい気がした。ぼうっとして居ながらも違和感を覚えた。しかし、リンはそのまま気を失ってしまったようだ。