第4話
真太とイヅ、必死の思いでリラの家まで逃げてきた。実際こうゆう行動は不味いだろうが、後を任せたイダパパが、うまく処理してもらえたなら、追ってはいないだろうからと、直接やって来たのだった。
すべて真太の楽観的な行動だ。他所のお宅であるが、習慣上2階の窓が開いているのが分かり、そこから飛び込む事にした。
真太とイヅ、窓から飛び込むと、勢いで二人して床に倒れ込む。
「わぁっ。何だ、これ」
したたか頭を打った真太であるが、アンリの驚く声でここで間違いないと、安心してそのまま眠った。
アンリは驚いたが、直ぐにリラに報告しに行った。
リラは居間のソファで爆睡中だったが、アンリは構わず報告した。
「リラ、大変だよ。真太とイヅが窓から降ってきたよ。例の所へ行ったんだな、きっと」
「ナニ~、寝ぼけた事言わないでよ。こっちはあいつらが、何だかしでかしそうで心配になったから、一眠りして不安解消してるんだ。でもあいつら、もうすでに何かしでかしたんだね」
リラは生あくびして、目を瞬かせアンリの言った事を思い出して反すうし。がっくり首を垂れることになったのだった。
「リラ、あいつらを僕の部屋から追い出してよ」
「はいはい、お邪魔でしょうよ。二人とも図体だけはデカいからね。おつむは軽いけど」
散々な言われようだが、事実である。しかし二人とも爆睡中で聞こえてはいない。
リラは爆睡中の真太とイヅを眺めて、
「これ、どうやっておこそうかな・・・おーい警官が真太とイヅは引き渡せってさ」
飛び起きる真太とイヅ。
「リラさん、悪いけど居ないって言ってよ。もう日の国へ帰った事にしてよ」
大慌てで、真太が言うが、イヅはしれっと、
「真太、これは嘘です。外に警官は居ませんから」
リラはイヅの方が少しはましに思えた。
「あんたら、どうして無計画なことしたわけ。この様子だと捕まりそうな事、して来たんでしょ」
真太は、どうして知れたのかと、思いながら、
「それが、龍神界から観察していたのに、見つかったんだ。ビームで狙われて必死でよけて、よけきれそうも無いから。イヅが火ィ―噴いて建屋を壊してね」
イヅが反論する。
「真太が先に火ィ―噴いただろ。はじかれたけど。僕のは当たって、それで真太が後から噴いた火で、火事になったんだ」
何となくむっとしてきた真太は、
「お前のがダメージがあったんだ。俺のは些細な奴だよ」
「へえ、そうなの。それで逃げて来たの」
リラは妙な成り行きだと思ったし、それにしてはやけにお疲れのようだと思い、真太に先を促そうと睨みをきかすと、
「物凄く速いビームで、よけるのに物凄く速く動かなけりゃならなかったし、第一あそこは人間だけじゃなかった。魔物の空飛ぶ奴が追いかけてきたんだ。イヅのパパが来てくれて、それでやっと逃げられたんだ。もうくたくた。家に帰りたいけど疲れて飛べそうもないや。ここに泊まって良い?」
真太が柄にもなく感極まった饒舌な説明をしたのだが、リラはそうはさせられないと、
「ここいらは衛星から監視カメラが通って行くルートなんだ。もしかしたらあんたら迂闊だから、龍神界じゃなくて、人間界に入っていて見つかったんじゃないの。そうだったら監視カメラに写っていて、嘘じゃなくほんとに警官が捕まえに来るかも。お家に帰った方が安心じゃないかな」
イヅが怯えて、
「げっ、僕、帰りたいよ。真太、一休みしたし、帰ろうよ」
「僕は飛べない、一歩も歩けない。一晩寝ないと疲れは取れそうもないや。イヅは帰りたけりゃ帰ったら」
「真太、最近なまけてたから、体力無いんだね」
「なんだと、よくも言ったな。お前が肝心な時ヘナつくから、こっちは心労もあったんだ」
真太は疲れていたが、イヅに拳骨くらいは食らわせたくなったが、手を振り回しただけ。当たる位置にイヅは居なかった事も見当がついていなかった。
リラは、家を崩されてはたまらないと思い、
「暴れないでよ、家が崩れそう。じゃあ仕方ないから、飛行機で帰ったら。あたしが飛行機代出すから。リーズナブルなクラスで良いよね。あんたら飛行機に乗った事ないんじゃない、一度乗ってみたらどう」
何とか言いくるめて帰ってもろうと考えたら、真太は、
「僕は乗った事あるよ、まだ龍に変身するのは駄目っていう時に、南麦に行ったんだ。アバが心配で友達とね。乗った事ある」
「へえそうなの、じゃあ警官が来るかどうか試しに泊まってみる?」
イヅが慌てて、
「僕は飛行機には乗った事ないし、試しに泊まるのも遠慮したいです」
真太は泊まりは諦める事にして、
「仕方ないな。イヅが飛行機に乗りたそうだから。リラさん迷惑でしょうが、飛行機代をお願します」
「ふふん、あたしは飛行機代位、ちっとも迷惑じゃないんだけどね。お泊りだってこんな時じゃ無かったら、OKだったのよう。次に奴らを観察に来る時は、お泊りのつもりで来て良いのよ。お部屋もベッドも用意しておくからね」
やけに親切そうなリラの話で、かえって真太は泊まりたくなくなって来た。最初の怖そうなお姉さんの印象を思い出す。さっさと帰った方が良さそうだと思える。怯えだした二人を見て、リラは愛想笑いに徹した。
それでも、怖そうなお姉さんリラの車で、飛行場迄送ってもらった真太とイヅである。
愛想笑いのリラに、
「また来てねー」
と言われて、飛行機に乗った二人。イヅは、
「優しそうにしいて、何だか怖いお姉さんだったね」
「うん、翔ん時の記憶じゃあ、こんなでは無かったんだけど、翔が死んで気持ちが変化したんだと思う」
真太は何となく、自分の中の翔が切ないっていうような感情になった気がして、ふて寝して気分を変えようと思った。
イヅも窓際の席ではないので、
「外の景色は見えなくても良かったな。考えたらいつも飛ぶ時見て、見慣れていたし」
とか言って、退屈で眠る事にしたようだ。
到着のアナウンスで目が覚めた真太とイヅ、別に荷物も無いし身軽なので、さっさと人の流れについて行き、迷子にもならずに出口へと差し掛かった。すると、
「おーい、真太とイヅ」
久しぶりに会う事になるなじみの友人たちが、出口近くに居た。従弟で利口者の10歳の翼に、金沢ロバート、柳悠一である。
彼らは西京の同じ大学に通っているので、三人で部屋を借りているのだが、何故ここに居るのか、どういう事だろう。
「あれ、お前らどうしてここに居る」
「アボ叔父さんが真太達が飛行機で戻るから、拾って帰って来いって言うんだ。ロバート君が免許取って、車買ってもらったって。普通車だから何とか詰め込めば5人乗れるよ」
「どういう事」
真太がなおも訝ると、イヅが真太をチョンと突き外を向かせる。
「あれっ、あそこ魚市場だったろ。広々してるけど。あ、建屋が潰れてんのか、どうして」
イヅは真太に反対方向を向かせる。
「あれっ、銅座町のビルは何処行った?」
翼が呆れて、
「真太、ニュースとか見ないんだねぇ。事件があった時ぐらい見てね」
「何があった。魔物が破壊したのか」
「魔物だったら、シン達が止めてくれたんじゃないかな。どうしてだろうねぇ」
悠一がしみじみ言った。ロバートも、
「もしかしたら、今、人類の世紀末なんじゃないか。防衛隊との衝突では一匹で互角っていう感じだったな。あれが何匹でも出てきたら、お終いだな」
「何が出て来たって」
真太が驚いて聞くと、
「人間のいかれたのが造った怪獣だ」
「えぇっ、もう完成したのか」
真太が驚くと、翼が、
「うん、随分手際が良いよね。真太達は奴らの本拠地を偵察に行ったんだろ。手遅れだったけど」
「でも、本拠地には魔物がいたんだぞ。人間の仕業じゃないってば」
「んー、きっとガードマンで雇われているんだと思うよ。怪獣作った奴は正真正銘の人間だって、アボ叔父さんは言っていたよ。だから今回は防衛隊が頑張るしかないんだって。真太達は手を出すなっていう話みたいだよ。ハーフなんだから」
翼が、説明する。
イヅは、
「僕らが日の国に居たら、下手に手を出して不味かったかもね。真太。アバはそれでわざと僕らをUSBBに行かせたのかもしれない」
「そうそう、そこんとこだな。イダさんが怒っていたって言うから、イヅが勝手に行動したみたいだったけど、アバが分からない筈ないと思って。でも、そもそもイヅとイダパパはテレパシーで繋がっているって言っていなかったか。前に」
「僕が小さなころはね。最近はパパとは大人の関係になる事にしたんだ。だから普通にしている時は繋がってはいないよ」
「大人の関係って?」
皆で声を揃えて聞いた。イヅは、
「最近パパは若いナイラ川の龍神と付き合う事になったんだ。レディ・ナイラの紹介だから断れないとか言っていたけど、誰の紹介でも断らないと思うな。凄い美人だったし」
「ふうん、そう言う事か」
皆で納得する。