12 にこちゃん。笑って。
にこちゃん。笑って。
高い山のてっぺんのあたりまで、タタたちがやってくると、不思議な声が聞こえた。
なんだろう?
よく聞こえない。
誰の声だろう?
はじめてきく声。
優しい声だ。
「お母さん」とその不思議な声を聞いて、目をつぶったままでにこが言った。
お母さん。
この声はにこのお母さんの声なんだ。
青白い顔をしているにこをみながら、タタは思った。
「カカ。声の聞こえるほうにいこう」とカカの背中の上からタタはいった。
ぐるる、と唸って、カカは不思議な声の聞こえるほうに向かって走った。
にこ。
……、にこ。
どこにいるの? にこ。
そんな声が聞こえる。
それは幻聴じゃない。
幻ではない。
はっきりと聞こえる。
それは、女の人の声だった。
とても優しそうな声。
でも、とても必死になっている、震えている声。
それは、『にこのお母さんの声』だった。(やっぱり、きっと、そうに違いないと思った)
にこのお母さんの声は、必死になって、にこのことを探していた。
どこだろう?
もうすぐ。
このあたりのはずだ。
タタは一生懸命になって、カカの背中の上から、高い山のてっぺんを見渡している。
ここのどこかに、にこをもとの世界に戻してあげるための道があるはずだった。
にこ。
お願い。
にこ。返事をして。
……、『あなたの声をもう一度、聞かせて』。
タタは走っているカカの背中から飛び降りると、そのままカカと手分けをして、雪の積もる高い山のてっぺんを探した。
タタは走った。
少しでも、立ち止まってなんていられなかった。
大丈夫だよ。心配しないでね。にこ。
絶対にあなたを死なせたりはしないよ。
待っていてね。
今すぐに、お母さんのところに、わたしがにこのことを連れて行ってあげるからね。
タタは走る。
そして、ようやく、タタは見つけた。