11 あなたの命。(わたしの命)命を大切にね。
あなたの命。(わたしの命)命を大切にね。
影の国のどんよりと曇っている薄暗い空からは、いつものように、真っ白な雪が降っていた。
タタはカカと一緒に影のお城の大きな正門の前で、一度立ち止まると、そんな雪の降る見慣れた空を見上げた。
タタは白い肌のてのひらで落ちてきた雪をつかまえる。
その雪をつめたいとはタタは感じない。
でも、にこはそうではないみたいだった。
生きている人間のにこにとって、『雪はとても冷たいもの』なのだ。
出発前の部屋の中にいるときに、タタはカカと一緒ににこの小さな体を(落っこちないように)ふかふかの毛布でぐるぐる巻きにして、それをカカの大きな背中にロープでぐるぐると巻き付けるようにした。
「にこ。ごめんね。でも、少しの間、我慢してね」
汗をかいて、とてもつらそうな顔で目をつぶっているにこをみて、タタは言った。
でも、ずっと眠っているにこはタタになにも言ってはくれなかった。(タタはとても悲しそうな顔になった)
タタは空を見ることをやめると、ぐるぐる巻きになったにこの横に乗っかるようにして、カカの背中の上にのった。
「カカ。二人だけど、大丈夫?」とタタは言った。
ぐるる、とカカは首を動かして、タタを見て、大丈夫、と言った。
「どうもありがとう。カカ」と言って、タタはカカのほほにそっとキスをした。
「……、お母さん。ごめんなさい」とにこは言った。
にこの声を聞いてタタはにこをみる。
でも、にこは目をつぶったままだった。にこは夢を見ているのだと、タタは思った。(にこが見ている夢が幸せな夢でありますようにって、タタは思った)
「カカ、行こう」
とタタはカカの背の上から、そう言った。
ぐるる、とカカは言って、その大きな体をぶるぶると震わせるようにして、大きく背伸びをすると、それからカカはまるで風のような速さで、影の国の雪のつもった真っ白な大地の上を音もなく、走り出した。
このあたりで一番高い山のてっぺんに向かって。