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消えた世界、残された門

外の空気は少し冷たく、肌に触れるとひんやりとした感触が広がった。それがリクスには心地よく感じられ、温かい室内から一歩外に踏み出すと、冷たい風が彼の顔を軽く撫で、眠気を完全に覚ますようだった。朝の空気は清々しく、新鮮で、体中に活力が湧いてくるような気がした。今日はきっと、いつもよりもいい一日が待っているだろうと感じさせるような、そんな感覚だった。


目の前に広がる風景も、何一つ変わらないいつも通りのものだった。しかし、リクスにとってはそれが心地よく、安心感を与えてくれる。僕たちの孤児院は、首都アークグランディアの端っこの丘に位置しており、そこからは広大な都市が一望できる。


アークグランディア都市国家は、世界樹の中心に位置し、世界樹最大の国として知られている。首都の中心には、まるでバベルの塔のような巨大な塔がそびえ立っており、その先端は鋭く尖っている。塔の周りには12の巨大な門が環状に配置されていて、その門からは毎日、多くの人々が行き交う。リクスはその塔を何度も見上げたことがあったが、いつ見てもその壮大さに圧倒されてしまう。


「ゲート」――それは、かつて異国の地へと足を運ぶために使われていたが、今では国同士の移動も、瞬時にできる便利な交通手段となっている。かつては、歩いたり、奇獣に乗ったりしなければならなかったが、今ではゲートを使えば、どこへでも一瞬で移動できるのだ。


この都市国家はあまりにも首都が発展しており、その周りにはほとんど他の都市が存在しない。言ってしまえば、首都だけが国そのものであるようなものだ。それほど巨大で繁栄している都市だが、それだけに物流が非常に多い。 他の国では、独自の文化や技術、物が多く見られるが、この国ではさまざまなものが世界中から集まり、取引されているため、非常に多様な特徴を持っている。


首都の上空では、近未来的なタイヤのない車が静かに飛んでいる光景が日常となっている。空を滑るその車は、まるで都市全体の未来を象徴するようだ。だが、その空を飛ぶ乗り物たちに対して、対照的な光景も広がっている。ドラゴンやワイバーンといった巨大な生物を乗り物とし、空を悠然と飛び交い、人々の目を引いている。鉄と魔法が交錯するこの都市では、まるで現代と古代、テクノロジーと魔法が並行して共存しているかのようだ。


僕はここがとても気に入っている。この孤児院で育ったからこそ、今の自分があると心から思えるからだ。


実際、他の国のことは実際にはよく知らない。見たこともないし、聞いたことしかないから、きっとそれは偏見に過ぎないのだろう。でも、正直に言うと、あの「監獄の国」に生まれなくてよかったと思っている。噂では、街中に吊るされた人間や、干からびたリザードマン、羽をもがれたハーピィなどが存在し、市場では臓器が売られているという話を耳にしたことがある。それを想像しただけで、思わず寒気と震えが込み上げてくる。


そんな中、リクスはそのゲートを見上げながら、ふと考え込むことがあった。


(そういえば、もう8つしか動かないんだっけ…)


リクスは、その事実を心の中で反芻していた。残りの4つのゲートは、もう長いこと動かない。もう誰もそのゲートを使うことはない。以前、リクスはその理由を聞いたことがある。


4つの国は、いずれも滅び、地図から消えてしまったのだ。かつてそのゲートを使っていた国々は、突如滅んでしまった。その結果、向こう側のゲートが壊れていたり、埋もれていたりし4つのゲートは使えなくなった。そして、今では残りの8つのゲートだけが稼働している。


リクスは、その事実を理解していたが、それでも心の中にはどこかに不安が残っていた。それは、ゲートの向こうにあったはずの世界が消えてしまったという事実が、どこかで彼の心に重くのしかかっていたcからだ。彼は知らない。あの4つの国がどんな末路を迎えたのかを。リクスにとって、その事実は、ただの歴史ではなく、現在進行形で進んでいる恐怖を感じさせるものだった。


(でも、今はそんなことを考えても仕方ないな。)


リクスは気を取り直し、歩みを進めた。オズが前を歩きながら、


「ゼノリーファ、買うのか?」と声をかけてきた。


「うん、やっぱりこれが一番だよ。」


リクスは、目を輝かせながら答えた。


「ゼノリーファは、毎回食べるたびに味が違って面白いんだ。」


ゼノリーファは、薄い葉状の果物で、葉を剥くと中から果肉が現れる。味は一口ごとに変わるため、毎回食べるたびに違った体験ができる。甘い、酸っぱい、苦い――その時々で異なる味が口の中に広がり、リクスはそれがとても楽しいのだ。


オズは顔をしかめると、「またそれかよ」と言った。


「何が悪いんだよ!」リクスは反論し、笑いながら言った。


オズは肩をすくめて、「別に」と軽く返した。


「俺はクリスタリアンが好きだよ。あのゼリーみたいな果肉がたまらないんだ。」


「いつもと同じものを買って、飽きないのか?」リクスは意地悪く言った。


「それはお前だろ。」


オズがクスクス笑いながら答えた。


二人はそんな軽い会話を交わしながら、マーケットを歩き続けた。途中で様々な店が目に入るが、今日はあくまで「目的地」に向かうことに集中することにして、目標の場所に向かって歩みを進めた。


マーケットの活気に圧倒されながらも、二人はその雑踏を上手くすり抜け、住宅街へと向かっていった。人々はそれぞれの生活を楽しみ、朝の時間を迎えている。どこからか響く笑い声、遠くで犬の鳴き声が聞こえてきたり、店の前に並ぶ果物や道具を見ながら、無意識に立ち止まり買い物をしている人々。すべてが活気に満ち、まるで時が流れるのを忘れてしまうほどだ。


「今日こそ、あいつから一本取ってやろうぜ!」


オズが、少し先を歩きながら勢い込んで言った。


「もちろんだ。」


リクスは答えながら、顔をほころばせた。


二人はさらに歩き、小さな広場に差し掛かった。広場の片隅には砂が敷き詰められた庭が広がっており、その中央に小さな家が立っている。リクスとオズが目指しているのは、この家だ。


「着いたね。」


リクスが静かに呟くと、オズは頷きながら言った。


「おう!」


二人はその家に向かって歩を進め、静かな庭を横切った。家のドアの前に立った。これから待っているのは簡単な挑戦ではない。それでも、ここで何かを得るためには、戦わなければならない。


二人はドアに向かって一歩踏み出し、重く静かな空気が二人を包み込む。その静寂の中で、リクスの心臓の鼓動だけが徐々に速くなるのを感じた。ドアのノックの音が、庭の静けさに響いた。それから、しばらくの間、何も答えが返ってこない。リクスは思わず息を呑み、もう一度ノックし直した。


しかし、ドアの向こうからは何も聞こえない。


「おい、どうなってるんだ?」オズがじっとドアを見つめながら言った。


リクスもまた、少し不安げにドアを見つめていた。時間が過ぎるにつれて、心の中で疑念が広がる。だが、それでも二人はじっと待った。今日の勝負がどうなるか、それはまだ誰にもわからない。


突然、ドアの向こうから軽い足音が聞こえた。その音が近づくと、リクスは心の中で何かを感じ取るようだった。それは恐れとも期待とも言えない、何かしらの感情だ。ドアが開く瞬間、リクスは深く息を吸い込んだ。




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