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3.やっと見つけた

 街外れの屋敷に通い、初めてジェルド第二王子と顔を会わせて会話をしてから、数日。

 

 女騎士ソラの通い警護生活に、またほんの少しだけ変化があった。

 屋敷の扉の前に立っている時に、ジェルド王子の気配を感じるようになった。歩き回る音がしたり、時にはほんの少し窓から灯りが漏れていたり。ソラがいることに慣れたのか、はたまた息を潜めて隠れる生活に疲れたのか、ソラにはわからない。


 今日は更に珍しく、扉を隔てて、すぐ近くにいるような感じがする。

 ただ、特に話しかけてくるわけではない。未だに警戒されているのだろう。


 2週間ほど前までは気配すら押し殺して、無視を徹底されていたのだから、進歩と言えば進歩か? そう前向きに考えたソラは、試しに話しかけてみることにした。


「本日は、とても暑いですね。眠れませんか」


「……」


 返事はない。


 やはり、答えが返ってくることはなかったが、まあ最初から期待はしていない。ソラはそれ以上余計な声掛けをしないようにした。

 しばらくして気配は遠ざかっていった。


 次の日……。また、気配だけは感じる。


「本日は王都の花祭りが行われていたようです。何代か前の聖女を称える祭りらしいですよ。私は警備としてしか参加したことがありませんが、とても規模の大きいにぎやかな祭りでした」


 嫌がっているのであれば、毎回近寄っては来ないだろう。

 ソラは都合よく捉えることにして、毎晩気配が近寄ってきた頃合いを見計らって、天気や城下での出来事など、たわいもない話題をふった。



      ◇ ◇ ◇


 その日は朝からずっと大雨だった。


 何かあった時に雨音で気付きにくいのが難点だとは思ったが、いつもより集中して感覚を研ぎ澄ませばいいだろう。ソラはいつも通りの場所で立っていた。闇はいつもより更に深く、小さなランプを腰にぶら下げてはいたが、数歩先は目視できないほどだった。


 1時間ほど経ったころだろうか?


 最近恒例の時間になると、扉付近に気配を感じた。


「今晩は。今日はこのまま降り続きそうですね」


 また、自分の一言で終わると思ったが、今日は違った。扉にほんの小さな隙間が開いたのだ。


「……入れば?」


 雨音にかき消されそうな声だったが、ジェルドが話しかけてくるのが聞こえた。まさか、自分を気に掛けてくれたのかとソラは驚いた。


「いえ、そういう訳にはまいりません! お気遣いありがとうございます!!」


「……」


……


「そんなところでぶっ倒れられでもしたら……迷惑なのはこっちなんだけど?」


「そのような軟弱ではありませんのでご安心ください!」


「……」


(あれ、まだいる)


「ちっ……ほら、床が濡れるから、早くして」


「え!? あ! はい、失礼します!!」


 ……意外と食い下がってくる。何やら怒らせる事態になりそうだったので、ソラは勢いで屋敷の中に足を踏み入れてしまった。


 エントランスは広々していた。灯りは今にも消え入りそうなランプが数か所灯っている程度だったが、外の暗闇に慣れたソラが、周囲を見渡すには十分だった。奥に続く扉がいくつかと、正面には大階段が2階まで伸びている。……それだけの空間で、調度品の類は一切置かれておらず、がらんとしている。


 そして、入ったはいいが、ジェルドの姿はそこに見当たらない。……視線だけは感じるが。


「……そんな姿のままつっ立ってないで。その辺、びしょ濡れなんだけど」


「失礼しました!」


 声は灯りの届かない隅の方から聞こえた。ソラはレインウェア代わりにしていたローブを仕方なく脱いだ。その時―――


「……輝きの聖女…!」


 気付くと目の前に男が立っていた。驚くほどの速さだ。

 ソラよりも頭一つ分ほど背は高いが、ずいぶんと痩せ身で貧弱そうな印象だ。ぼさぼさと肩よりのびた黒い髪。前髪で表情が隠れているが、ちらりとみえる肌は青白い。


 あ……


 紅い瞳と目が合った。


 ソラがそう思った瞬間、意識が遠のいていた。



 ・・・



 ソラが目を開けると、そこには見知らぬ天井が映っていた。


 ぼやりとした意識を気合で引き戻したソラは、何が起きているのか冷静に判断しようとした。


(ここは……ジェルド殿下のお屋敷の中か? 窓の外はまだ暗い……意識を失ってから一体どれくらいの時間が経ったのだろう……あの時……雨に打たれて体が弱っていた? いや、そんなはずはない。けがの痛みもない。体は……)


 そこまで考えて、ソラはあることに気付いた。


 両腕を後ろ手に縛られている。


(これは一体———……)


 目が慣れてくると、今度は部屋の中に意識が行く。


 部屋の中は、ごちゃごちゃと物であふれていた。

 どうやら、お守りやまじないグッズのようなもの、自分の体のすぐ横に積みあがっているのは、何かの書籍のようだ。


「これは……全部……聖女の?」


 恐る恐る身を起こし、後ろを振り返ると……壁に大きな肖像画が掛けられていた。


 豪華なドレスに身を包み、こちらに向かって微笑む女性の絵。


(よく……見えないな……)


 その瞬間、大きな雷鳴が鳴り響いた。


 一瞬部屋が明るく照らされる。

 肖像画の女性……それは目の前にしゃがみこんでいるソラの姿とそっくりだった。


「『輝きの聖女』、手に入れた」


「!!!」


 ソラのすぐ後ろから、声が聞こえた。


(しまった! 気配に気付けなかった!)


 目の前に立ち、見下ろすのは屋敷の主。ジェルドはソラに向かって、ニヤリと歪んだ笑いを見せた。

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